大ナマズ伝承から読み解く歴史上の災害

小川アナ:
防波堤が築かれた海岸の沖に浮かぶ鹿島にある「鹿島神社」には、今回のもう一つの大きな鍵となる『要石(かなめいし)』が存在しているんです。

鹿島神社にある要石

上垣アナ:
『要石』といえば、古くから地震を封じてきたとされる石ですよね。
 

小川アナ:
そうなんです!取材に同行していただいた、地域の災害史や伝承に詳しい愛媛大学の大本敬久特定准教授の説明によると、この要石は「地中深くにある地震を起こす大ナマズの頭をギュッと押さえつけている石」だと信じられてきたそうです。
 

上垣アナ:
なるほど。私はペーパーティーチャーですが(笑)、もしこの題材を使って子どもたちに地理歴史の授業をするなら、地域にわざわざ「要石」という存在があること自体が、過去にこの土地がたびたび激しい地震に襲われてきた場所、つまり『地震の巣』であることを暗示しているかもしれない、という授業がつくれそうです。
 

小川アナ:
まさにその通りで、同行してくださった教授も、「“伝承”というのは、まったくの嘘やおとぎ話ではなく、過去に実際にあった歴史の事実や恐怖から生まれていることが多い」と仰っていました。この北条の地も、昔から何度も大きな地震に見舞われてきた場所なんですよね。
現に、豊後水道では2024年の地震もしかり、江戸時代に発生した「豊予海峡地震」も安政の東海・南海地震の直後に発生しています。繰り返し大きな地震が発生しているエリアだからこそ、先人たちは「ここは地震の巣だから絶対に忘れるなよ」という教訓を風化させないために、大ナマズや要石というキャラクター(妖怪)に託して語り継いだのだと思います。
 

要石の説明

小川アナ:
教授も「文字を読めない時代の人々や、小さな子どもたちにまで災害の危険性を直感的に伝えるための、先人たちの優れた知恵(防災デザイン)だ」と絶賛されていました。私は大学時代からこの分野(災害が生み出した“妖怪”や伝承)について研究してきたんですけれど、こうして専門家の先生のお話や歴史の事実と結びつくと、より納得がいきます。
 

上垣アナ:
マニアックなトークになってきましたね(笑)でも、歴史マニア、伝承マニアが、こうしてとことんマニアックに解説することで、防災を学ぶハードルを少しでも下げられたら面白いですよね。
 

防災の第一歩をもっと身近に

愛媛・松山市 鹿島神社

小川アナ:
私の研究テーマでもあるのですが、先人たちが災害を伝承するのに、なぜあえて「妖怪」という存在を使ったのか。
 

上垣アナ:
確かに、ただ「危ない」と記録するだけでなく、あえて妖怪や怪異の仕業として語り継いだのは興味深いですよね。
 

小川アナ:
例えば、地域に伝わる『カッパ(河童)』の怪異は、実は昔の大雨や洪水による水難事故の記憶が形を変えたものだと言われていますし、山から現れる『竜(龍)』の伝承は、凄まじい「土砂災害(土石流や蛇抜け)」の様子を表現したものだと考えられているんです。当時の科学では説明できないような大災害が起きたとき、人々がそれを何とか納得するための材料、受け止めるための心の拠り所として「妖怪」の仕業にすることが必要だったんだと思うんです。でもそれと同時に、災害を身近に知るための「きっかけ」や「入り口」を、当時の人たちなりに遺してくれたんですよね。
 

上垣アナ:
アプローチは違えど、本質は同じだ!私はこの連載で国土地理院のハザードマップや石碑の文字から災害のリスクを読み解いてきましたが、小川さんは地域に遺る妖怪や伝承のストーリーからリスクを読み解いている。災害を知るきっかけというのは、本当に人それぞれで、さまざまにあっていいですよね!
 

小川アナ:
実は愛媛の宇和島市では、毎年7月に巨大な牛鬼が街を練り歩く「牛鬼まつり」が開かれるなど、「牛鬼」は地域に親しまれている存在なんです。
牛鬼という妖怪は、各地の伝承では淵や滝、海など水辺に現れる妖怪として語られることが多く、地域ごとにさまざまな姿で伝えられています。
大切なのは、石碑にしても、お祭りの妖怪にしても、それを通じて「かつてここで何が起きたのか」、そして「もし今起きたらどうなるか」を私たちが想像することなんじゃないかって。
 

上垣アナ:
宇和島ですか!南予は学生時代になつかしい思い出が・・・でも、「牛鬼」は知りませんでした。小川さんのいう「想像する力」こそが、防災においては大事ですね。今回の松山の石碑が教えてくれた「地震の後に台風が来たらどうなるか」という複合災害の視点も、まさに想像力です。これって、防災を『非日常』の特別なものにするのではなく、普段の暮らしやお祭りといった『日常』に溶け込ませていくことにもつながります。基本的なことですが、まずは自分が住む街にどんなリスクが潜んでいるのかを知り、日常の延長線上で想像してみる。そこが防災のファーストステップになりますね。
 

要石と小川アナ

小川アナ:
ハザードマップを調べるのも、ただ画面を見るだけでなく、「自分の家や学校の周りがどうなるか」を日常の中で想像するための道具として使ってほしいですね。国土地理院の『ハザードマップポータルサイト』なら住所検索でリスクが簡単に分かりますから、ぜひ想像するきっかけにしてほしいです。
 

上垣アナ:
妖怪って、恐ろしい反面、好奇心がかき立てられる、ワクワクするものでもあります。地域の伝承や妖怪に目を向けることで、堅苦しく思われがちな「防災」へのハードルが少しでも下がって、多くの人が日常の中で想像力を働かせるきっかけになればうれしいですね。小川さん、本当に素晴らしい現地リポートと気づきをありがとうございました!
 

(この記事は、テレビ愛媛の協力を得て作成しました。 )