今年2025年7月、富山県警が発表した特殊詐欺事件。

富山市に住む70代の男性の自宅に検事正を名乗る男から電話がかかってきました。

〈検事正を名乗る男〉
検察の者ですが、ある事件の犯人の自宅を家宅捜索したところ、あなた名義の通帳が発見されました。
捜査協力を得られなければ、あなたを逮捕する必要があります。

「逮捕」をほのめかされ、だまし取られた金額は1億8100万円余り。
犯人が使った新たな手口…“ネットバンキング開設詐欺”です。

ネットバンキング開設詐欺とは?

詐欺グループが警察官などになりすまし、被害者に新規でネットバンキングを開設させ、その際にログインIDやパスワードを聞き出し共有。口座から預金を送金させる新たな手口。

〈検事正を名乗る男〉
この件については誰にも言ってはいけません。持っている現金を複数のインターネット口座に送金して、資金洗浄する必要があります。

70代の男性は指示されるがまま、複数のネットバンキング口座を開設。
その後、複数回にわたり指定された口座に合わせて1億8100万円あまりを振り込んでしまったのです。

特殊詐欺に詳しいサイバーセキュリティーの専門家は…。

株式会社ラック 金融犯罪対策センター長 小森美武氏:
本人に本人名義の他行の口座を作らせて、本人が本人に振り込んでるという図であれば、銀行がそこ見逃すんですよね。
特殊詐欺の手口は高度化、巧妙化が進んでいまして、今後このような手口が全国で広がっていく可能性が高いというふうに考えています。

ネットバンキングは、スマートフォンなどで時間を問わず口座への振り込みなどが簡単にできることから利用者も増えています。
ネットバンキングの口座を開設させて金を振り込ませるという新たな詐欺の手口。
急増するその実態と巧妙さとは…。

なぜネットバンキングを開設させる?

『サン!シャイン』のスタジオでは、詐欺・悪徳商法ジャーナリストの多田文明氏に解説していただきました。

・同一名義(被害者)の口座に送金させるので銀行に疑われにくい
・窓口やATMでの送金と違い、第三者の介入が困難
・聞き出したIDやパスワードを使って振込上限額が変更され、高額に(銀行により異なる)

詐欺・悪徳商法ジャーナリスト 多田文明氏:
これまでですと、使ってない口座だと思うんですね。そこからいきなり他人の口座に振り込んだとしたら、銀行が「おかしいな」と気づくわけです。
ところが、自分名義の新しい銀行口座に自分の口座からお金を入れるだけですから、移動しても不審がられない。多分皆さんたくさんの銀行口座持ってらっしゃいますけど、それを一つにまとめて一気にこうやってだますということだと思います。

――被害者はなぜ口座番号や暗証番号など、個人情報を犯人に伝えてしまうのでしょうか?
多田文明氏:

警察をかたって逮捕状を見せられている(ケースもある)ので、信じ込んでいて、指示には従わざるを得なくなっているんですね。 
また一つに、「詐欺っていうものはお金を取られること」だと思っているんですね。 ところが、このケースは別に犯人は「お金を取る」とは言っていないんです。「調査します」とか、そういう言葉で巧みに近づいてくる。
「取られる」と思っていないので、情報を安易に教えてしまうということがありますね。 

他の手口として「今、あなたの口座から調査以外に勝手にお金を引き出されているので、それを止めるためにも新しい口座を作ったらいいですね」というふうに言われたら、やっぱり作ってしまうということにもなります。

さらに、ネットバンキング開設詐欺のなかには、口座を開設する銀行を指定した上で、開設手順・暗証番号を指示するものもあるといいます。

――なぜこのような指示を?
多田文明氏:

銀行間のセキュリティーのばらつきがちょっとありますので、より犯人側としてはここはうまくいくぞというところの銀行を狙って、指示しているんだろうと思います。

――ターゲットになるのはどういう世代?
過去は、インターネットの口座を持っている人たちがネットバンキングなんかでお金を抜き取られていた。
今は、持っていない、いわゆる疎い人たちが狙われているということですね。

――被害に遭った場合、銀行側の対応は?
なかなか本人が気づいていない状態だと、銀行側が不正送金だというふうに気づいてくれればいいのですが…、いかに早く銀行側が気づけるかというところがポイントですね。 

不正口座も横行

ネットバンキング開設詐欺には、お金を振り込ませる不正口座が多く使われています。
SNS上では詐欺グループが口座の買い取りを呼びかけているといいます。
口座の売買は犯罪。売る側も罪に問われます。
さらに、闇バイトを募集し、口座の作成をさせることもあるといいます。

多田文明氏:
不正口座というのは、銀行側で察知すると、やっぱり止めるわけですよね。そうなると、新しい口座が必要であると。
今回のインターネットバンキングだと、また別の不正口座に送金をして、またさらに不正口座に送金するという、いわゆるマネーロンダリングをしていくための口座も必要になっていきますので、相当な数の口座を必要としているということになりますね。

ネットバンキング詐欺に遭わないために

・警察や検察はネットバンキングの開設や送金を依頼することはない
・IDとパスワードは電話で聞かれても絶対に教えない

多田文明氏:
まずは個人情報を教えない。お金を取られる=情報を取られればお金が取られるということは意識を持って徹底しないといけないですね。 

(『サン!シャイン』2025年8月25日放送より)