7月12日に北海道・福島町の住宅街で、新聞配達中の佐藤研樹さん(52)がヒグマに襲われ、死亡する事故が発生。佐藤さんを襲ったヒグマは、現在も捕獲されていません。

2024年11月に北海道岩見沢市でヒグマを捕獲した、猟師歴50年以上の原田勝男さん(85)は、25年前シカ猟の最中にクマに襲われ、頭蓋骨や腕を骨折、左目を失明しました。そんな自身の経験から、今回の福島町のヒグマについて、1つの可能性があるといいます。

農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー 原田勝男さん:
腹が減っているから、“食料として人間を見る”場合が多いですからね。
新聞配達の人はおそらく後ろから襲われているから、怖いとか、気付かないうちにやったでしょうね。人間をエサとして、食べ物として見たと思います。

番組ではヒグマにおびえる生活を余儀なくされている、福島町を取材。
エサに強く執着する“ヒグマの特性”と、“人間の味”に触れた、ヒグマの危険性が見えてきました。
「再び起きる可能性」目撃情報相次ぐ
16日にも再び目撃されるなど、福島町内で耐えないクマの目撃情報。
14日には、スーパーのごみ置き場の扉が破壊され、生ゴミが荒らされる被害が発生。ごみ置き場は翌日も荒らされた跡が…。

酪農学園大学の佐藤喜和教授によると、この行動にはエサに強く執着する「ヒグマの特性」があるといいます。

酪農学園大学 佐藤喜和教授:
生ごみというのは、クマにとっては森の中にあるどんな食べ物よりも魅力的。
生ごみに根付いてしまったクマというのは、その魅力から離れなくなって、繰り返し出没して何としてでもそれを獲得しようとする、すごく強い執着性が見られます。
佐藤さんを襲った際も、約20分間もみ合った後、腕をかんだまま約100mにわたって引きずっていったとみられているヒグマ。佐藤さんの全身には引っかかれたような傷や、腹部を噛まれた痕などが残されていました。

さらに、佐藤さんが亡くなっていた草むらの周辺に、16日、再び1頭のクマが現れ、住民は「ウー」という、うなり声を聞いたといいます。
酪農学園大学 佐藤喜和教授:
「OSO18」というクマがいたように、シカの死体から牛を襲うということを学習した個体が出てくると、生ごみに執着するのと同じで、牛を襲って食べることを覚えた。
(福島町のヒグマが人間を)繰り返し襲うことは、ないかもしれないのかもしれませんが、ただ地域の方にとっては、『再び起きる可能性がある』と思って備えた方がいいと思います。

北海道東部を恐怖に陥れた巨大ヒグマ「OSO18」。
2年前に釧路町で駆除されましたが、6月に福井県立大学などが調査を行ったところ、本来クマは雑食であるにもかかわらず、「OSO18」は、“極度の肉食傾向”を持っていることが判明しました。
そして、福島町で新聞配達員の男性を襲ったヒグマも、「OSO18」と同じように食性に変化が起きている可能性が考えられるというのです。
「人間の味に触れてしまったヒグマ」。
猟師歴50年以上の原田さんは、一刻も早く捕獲しなければいけないと警鐘を鳴らします。

農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー 原田勝男さん:
一日でも早いほうが(捕獲)とりやすい、日にちがたてばたつほど、クマに知恵がついてとりにくいんです。

福島町では、北海道で初となる「ヒグマ警報」が出され、町内では警察などが24時間体制でパトロールを実施。箱ワナを6基設置し、捕獲に向けて警戒を続けているということです。
なぜ?全国各地でクマ被害
福島町の死亡事故以外にも、15日には青森県弘前市のりんご園で70代の女性がクマに襲われ、右腕と右目から右頬にかけてケガをして搬送。
同日、奈良県五條市でも、80代の女性が玄関の扉を開けたところ、家の前にいたクマに襲われ顔に傷を負いました。

――なぜこんなにもクマの被害が相次いでいるのでしょうか?
酪農学園大学 佐藤喜和教授:
ひとつは、森の中にクマにとっておいしいエサ、栄養豊富な植物の類が少なくなってくる季節だと。そして、もうひとつはクマの繁殖期の後半戦ということで、クマの社会全体が、多くのクマがあちこち動き回るような不安定な季節であると。その二つが重なっているのかなと。
去年に比べて今年急にということはないのですが、長期的に見ればじわじわと熊の個体数も増えてきましたし、人の生活圏のすぐ裏でクマが生活しているような状況が出来上がっていたと。

90年代から、特に森の中でクマを積極的に捕獲することをしなくなりましたので、その結果クマの数はじわじわ増えて、分布が拡大してきたと。やはり、人の生活圏までクマが定着するようになりましたので、人里への出没のリスクが高い状態になっていますから、特に人里周辺ではクマの数を減らしていくような対策も必要になってきていると思います。
――今後被害が増えてくる可能性は?
8月9月にかけて、森の中ではエサの少ない季節が続きますので、家庭菜園や畑、果樹園などで、ちょうど人間の食べる作物や果樹がおいしくなる季節ですから、それを求めて降りてくるクマの数は増えると思います。

――クマに出会ってしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
今起きている、市街地や自宅前となるとほとんどできることはないのかなと思いますが、可能であれば建物の中や車の中など安全な場所に直ちに避難することが大事だと思いますし、ぽつんとたって目立つとクマに攻撃されやすいですから、壁際や物陰に身を隠すことが大事だと思います。
背中を見せて走るのが一番悪い行動だと思いますので、怖いとは思いますが背中は見せず、ぐっと我慢して背中を見せないことを心がけてほしいと思います。

森林と人の生活圏を分ける、草刈りや、ある程度木を伐採する、柵を作るとか、クマの入りにくい地域作りというのはいろいろできると思いますので、取り組んでいただきたいです。
(『サン!シャイン』 2025年7月17日放送より)