業者が自宅を訪問して強引に安く買い取る「押し買い」
60歳以上の高齢者を中心に、ここ数年、自宅売却をめぐるトラブルが急増しています。

住み慣れた自宅を失う「押し買い」の巧妙な手口と契約に潜む落とし穴とは…?
『サン!シャイン』では消費者トラブルに詳しい今泉将史弁護士に解説していただきました。

1億2000万円相当の家が700万円で売却 なぜ?

年金生活のAさんは、自宅に訪問してきた不動産業者に自宅を700万円で売却。しかし、自宅の市場価格は1億2000万円相当でした。
不動産業者から十分な説明もなく、著しく定額で買われてしまったのです。

実は、業者が直接不動産を買う際、買い取り金額の根拠を示す必要はありません。

今泉将史弁護士:
ご本人は一般消費者ですから、不動産の相場に関する知識は特にないということになります。
また、年齢相応に判断能力が低下している方が多いので、強く勧誘されるとそれが相当なのではないかと思い込んでしまうというケースが多いと思います。

「リースバック」とは? 悪用する業者も

都内マンションに1人暮らし、年金生活の80代女性のケース。
所有しているのは築約50年のマンション。ローンは完済していて、固定資産税の支払いがある状況です。
相場は約2400万円ほどでしたが、自宅に訪問してきた不動産業者に1000万円で売却してしまったといいます。

不動産業者は
「固定資産税など税金のことは全部こちらでやります」
「まとまったお金が入りますよ」
「売ったあともずっとここに住み続けられますよ」

と語りかけたといいます。

被害女性は、「きょうだいを全員亡くして私1人になり、私ももう長くないかな」と落ち込んでいたところ、この話を聞いて「売っても同じ家に住める」という思いがあり、1000万円で売却してしまったといいます。

「押し買い」では他にも、「身辺整理の一つとして身軽に」「買い手がつくうちに整理できる」「経年劣化による修繕工事等の出費が不要」「相続トラブルの不安がなくなる」といった説明をしてくることも。

被害女性が結んだのは「リースバック契約」。
「リースバック契約」とは…
①住宅を売却
②リースバック事業者から売買代金の支払い
③居住者は事業者と賃貸契約を結ぶ
④居住者が事業者に毎月家賃を支払い、そのまま居住

メリットとしては…
・まとまった資金が得られる
・住み慣れた家に住み続けられる
・固定資産税などの支払いなし

デメリットは…
・売却価格は相場より低くなることも
・いつまで家を借りられるか不明
・一定の期間であれば契約を解除できる「クーリングオフ」対象外

なぜクーリングオフができないのでしょうか。

不動産の取引を取り締まる「宅地建物取引業法」には、住民が売主となる場合、クーリングオフできるという規定がありません。
また、違法な訪問購入を取り締まる「特定商取引法」でも、不動産の訪問購入は適用の対象外となっています。

今泉将史弁護士:
一般消費者の方ですので、細かな法律の知識というのは基本的にないというところです。
事業者も、「クーリングオフの適用はない」とわざわざ説明する義務もありませんので、クーリングオフの存否に頭がいっていないままに契約してしまうケースが多いと思います。

被害女性の場合は、家賃月9万円で賃貸借契約を交わし、10年間で1080万円と、売却額の1000万円を超える金額となっています。

渡辺和洋アナウンサー:
リースバック契約自体は悪いということではなくて、どういう状況でどういう人生プランで自分がどの選択をするのか、ということですが…高齢者の方は、自宅にやってきて、その場で契約してくださいということだと難しい部分はありますよね。

今泉将史弁護士:
すぐに「不動産を売ってください」と言われてその場で自分の生活設計についてきちんと思い描いてそれに従って契約を締結するということがなかなか困難な方が多いかなと思いますし、不動産業者の中でも契約まで取りつけてしまう場合もありますので、なかなかその点に思いが至らず契約をされている方が多いと思います。

高額な解約料請求の場合も

クーリングオフが適用されないため、解約を申し出ると高額な解約料を請求される場合もあります。

80代女性、築40年のマンションのケースでは…
不動産業者が「住み替えの物件を紹介するから物件を売ってほしい」と突然の訪問。
話を進められ、女性は理解できないまま書面に署名を押印。2400万円で契約し、その際に手付金約450万円を渡されたといいます。
翌日、女性が「キャンセルしたい」と伝えると、業者から「キャンセルするなら約900万円払ってください」と高額な解約料を請求されたということです。

なぜ高額な解約料を支払わなければいけないのかというと…。

民法557条の “手付け倍返し”で、売主の都合で契約解除する場合、手付金の倍額を買主に支払うと定められています。
“手付け倍返し”の期限は契約日から1週間程度で、期限を過ぎると「契約解除の違約金」が発生。違約金の相場は売買価格の約20%です。

渡辺和洋アナウンサー:
買主を保護するための民法上のルールだと思うんですが、業者側からするとここをうまく使ってきているということですか?

今泉将史弁護士:
手付金が交付された場合には倍額を払わなければその手付けに基づく解除ができないということすらあまり知られていないというところもあるので、いったん手元にお金が入ったということで安心するということは尚早かなと思います。

「押し買い」にあわないための注意点
・業者の訪問日に契約せず、家族や信頼できる人に相談
・業者の提示価格が適正か他の不動産業者にも確認
・不明な点があれば消費生活センターに相談…全国共通番号「188」

(『サン!シャイン』2025年5月7日放送より)