井上芳雄「ダメ出しされるのが本当に嫌いなんです」
橋本さんが「印象的だった演出家は?」と投げかけた場面――。

井上:僕は、今に至って、ダメ出しされるのが本当に嫌いなんですよ。
橋本:(笑)。
浦井:昨日も言ってた(笑)。
井上:ダメ出しが苦手で、役者としては致命傷だと思うんですけど。若いと特に「おまえができてないから違うんだ」とか「おまえが足りないからダメなんだ」って言われているように感じちゃって。
橋本:うん。
井上:まあ、今までの日本の感じだと、実際にそういう言い方もあったと思うんですよ。
橋本:あるね、うん。
そんなとき、ジョン・ケアードさん(舞台『千と千尋の神隠し』など)、デヴィッド・ルヴォーさん(ブロードウェイ版『ロミオとジュリエット』ほか)といった海外の演出家と仕事をし、その違いに驚いたといいます。
井上:全然否定しないんですよ。「いいね、いいね。こっちもやってみよう」「昨日のほうが良かったかな」とか、「こういう可能性もない?」みたいな。

橋本:うん。
井上:そういうふうに言ってもらった方が、同じ「できていない自分」でも、より次の段階に行きやすい。無駄に傷つかなくて済むから。
これを聞いた橋本さんが「蜷川幸雄さんとか、ぜったいあかんな?」と反応すると…。
井上:いやもう、怖くてしょうがなかったですよ。
浦井:その話は、聞きました(笑)。
井上:もう、本当に登校拒否になるくらい。まぁ、それでも行きましたけど。
橋本:(蜷川さんは)ある俳優さんのセリフ回しのダメ出しに「おまえは、井上芳雄か!」って言ってた(笑)。

井上:それ、悪口じゃないですか。
浦井:あはははは。
橋本:いや、それだけ蜷川さんの中で、芳雄がインパクトあったんやろうなって思ったけど。
井上:僕も、何回も何回も止められて「この、ミュージカル馬鹿がっ!」って言われて。
橋本:(笑)。
浦井:ちょっと、褒め言葉ですよね(笑)。

井上さんは「1回目で怖すぎて。そのあと、10年間できなかった」と、以来、蜷川さんの作品を断っていたといいますが、あるとき「今また逃げたら、絶対に後悔する」と、10年ぶりに挑戦したそう。
井上:そのときは、なんとなくやり方もわかってるし。準備もめちゃくちゃして。それこそ、自分のリミッターも外して、初日から大暴れしたんですよね。
橋本:ほほう。
井上:そしたら、「同じ井上くんか?」って言われたんですよ。
浦井&橋本:おおー!
橋本:すごいね。それはもう、最高の言葉だね。
井上:その瞬間、「大好き」ってなりましたよ(笑)。
橋本:あの人、ずるいよねー(笑)。
浦井:うふふ。
