「外科」や「小児科」、「産婦人科」といった欠かせない専門医が不足し、医療の現場で医師不足が深刻な状態になっています。その一方で、研修を終えた若手医師が、直接、美容医療に進むいわゆる“直美”が近年、急増しているというのです。

シリーズ「どうなるニッポンの医療」今回は、医師不足の裏で「直美」に進む若手医師らの実態に迫ります。

“直美”医師を取材

『サン!シャイン』が取材したのは、都内の美容クリニックで院長を務める戸田貴之さん(32)。

戸田さんは2年間の臨床研修を終えた後に大手美容クリニックに就職。
その2年後に独立、自身のクリニックを開業した、いわゆる“直美”組。
総合病院などに勤務する選択もあった中で、美容医療を選んだワケは…。

RIVER CLINIC 戸田貴之院長:
美容医療未経験でも2500万とか。すごいとこだと3000万みたいな求人もあった時代でしたね。
保険診療(研修医)の時よりは、かなり増えている部分があるので、やっぱりその分生活に余裕ができて、心にも余裕ができているのは大きな点だと思います。

大手求人サイトなどによると、20代の保険診療医師の平均年収は約950万円。
それに対し、美容医療は20代で平均約2000万円と倍以上の開きが。
さらに、待遇格差は金銭面だけではなく…。

戸田院長:
クリニックによってはもちろん元から当直もないですし、勤務の仕方が週5じゃなくて週4でもいいとか、あるいはもっと少なくてもいいっていうふうに設定されているクリニックもあるので、割とワークライフバランスが取りやすい。
やっぱり(研修医時代)外科とかは結構働いていても大変でしたし、働かれている先生の働き方を間近で見ていてすごくハードワークだなっていうふうに感じました。

「内科」や「外科」などの保険診療の医師の場合、週5勤務で、さらには「当直」と呼ばれる休日出勤や夜間勤務もある中で、美容医療の医師は残業や夜間勤務、休日出勤がないことが多いといいます。
“直美”の医師が増え続けていることについては…

戸田院長:
僕は美容外科医になりたいのなら早く参入することは全然間違ってないと思っていて。
僕が今やっているようないわゆる脂肪吸引の施術であったり、二重まぶたの整形っていうのを保険診療で学ぶ機会があるかと言われたらそうでもないんですね。
なので結局はその人のやる気次第とか、あとはどこまで美容外科になったとき学ぶ姿勢を失わないかが重要。

“直美”懸念点も

形成外科医として2年働いた後、美容医療に進んだ鶴田優希さんは、“直美”の懸念点についてこう話します。

渋谷あおぞらクリニック 鶴田優希院長:
直美でなりたての先生とかを見ていると、切ったり縫ったりする縫合技術とかの面だったり、トラブルが起こった時の対処法というところで経験が少ないとちょっと困ることも多いのかなと思って。そこが少し懸念なのかなと思って見てます。

その一方で、今の医療体制では美容外科医が増えかねない現状もあるといいます。

鶴田院長:
本当はやりたいことあったけど、ちょっとこの状況じゃ続けられないよね、家庭との両立とか金銭面とかで、美容にしようかっていうふうに美容を選んだ先生も実は結構たくさんいて。

現在、1児の母でもある鶴田医師。幼い子供を育てながら保険診療の現場で働くのは厳しいといいます。

鶴田院長:
当直をしないお医者さんって基本的にあまりいなくて、みんなひどいときは週に何回とか。オンコールっていって自宅で待機していいけど呼び出されたらすぐに行かなきゃいけないとかそういうこともあって、「これ赤ちゃんいたら絶対無理だな」とか思ったこともありますし。

研修医の悩み 見据える進路は…

そして、『サン!シャイン』は「保険診療」か「美容医療」か、選択の時を控える1年目の研修医を取材。

研修医1年目:
美容の形成外科だったり、いろんな外科があって、そこはまだ悩み中なんですけど…。
やっぱり医者不足を加速させてしまうわけじゃないですか、美容に行くことで…

幼い頃からの夢である外科医を目指して今まさに研修中だという男性。

研修医1年目:
どの診療科もやっぱり先生方は働き方改革と言われている中でも残業は当たり前というか。これはきついよな、何かしらやりがいとか何かを見つけないときつい労働だなと感じています。

医師不足の現状を考え悩みながらも、“直美”という選択肢も視野に入れているといいます。

研修医1年目:
外科の何かになろうと思ってたけど、(美容の)良い部分だけしか見えてないかもしれないですけど、僕はそっちの道もありかな?と思ってます。それだけ本当魅力的というか、華やかに見える診療科ですよね。

男性は、研修を続けながら自分の将来を慎重に模索すると話しました。

若手医師の大きな選択肢の一つとなっている“直美”。
地域医療における深刻な医師不足が叫ばれる中、何か打つ手はあるのでしょうか?

保険診療の若手医師を増やすためには?

――直美をする医師が増えることでどういう影響が考えられますか?

医療ジャーナリスト 市川衛氏:
直接美容診療に行くお医者さんが急増しているというのは、医学生とか若いお医者さんの中に、ワークライフバランスを重視したり、コスパ意識が広がっているということの氷山の一角として表れている可能性があると思います。
これがどんどん広がると、今減っている外科医や救急医など命に関わるお医者さん、いないとすぐに命が失われてしまったり、がんの手術が長い時間待たないとと受けられなくなったり…、業務が一番大変な人たちが比較的ワークライフバランスがいい方に流れてしまう可能性があるということです。

市川氏によると、保険診療の若手医師を増やすために、3つのポイントがあるといいます。

・若手医師のキャリア支援
千葉県で実施中の先輩医師が相談に乗る「メンター支援」を全国に拡充
・ワークライフバランスの向上
当直・緊急呼び出しなど保健診療医の勤務負担緩和の仕組みづくり
・報酬を上げる
医師不足地域の医師、外科の医師らの収入を増やす

(『サン!シャイン』2025年9月30日放送より)