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上垣アナの災害遺構探訪記#7

『上垣アナの災害遺構探訪記』 阪神淡路大震災から30年…神戸市で被災した母が記した発生直後のエゴドキュメント 【連載#7】

社会科教員免許と防災士の資格を生かして解説します!

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自然災害の歴史から防災を学ぶ、「災害遺構プロジェクト」。
あなたの地域で、過去にどんな災害が起きたのか?
前週に引き続き、発生から30年を迎えた阪神淡路大震災について取り上げます。

全国の災害遺構をめぐり、先人たちが遺したメッセージや災害の爪痕から、社会科の教員免許をもつ、フジテレビの上垣皓太朗アナウンサーが災害の歴史を解説。
また、防災士の視点から、防災に役立つ知識を紹介します。

身近にあった災害遺構…母や家族が記録していた阪神淡路大震災

みなさん、こんにちは。フジテレビアナウンサーの上垣皓太朗です。
阪神淡路大震災の発生から30年。
当時、神戸市灘区で被災した母や家族が書いていた、発生直後から約2か月間の生活のことを記録したノートから、その一部を紹介します。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

母が記録した阪神淡路大震災のノート



場所        兵庫県神戸市灘区

上垣アナの災害遺構探訪記#7

※地理院地図をもとに作成



災害名        阪神淡路大震災 (1995年1月17日 M7.3)

上垣アナの災害遺構探訪記#7

阪神淡路大震災・神戸市灘区 写真提供:神戸市

(※母が直接目撃した場所とは異なります)


阪神淡路大震災は、兵庫県南部を震源とする地震により引き起こされ、6434人の死者を出しました。
建物への被害は深刻で、神戸市では、全壊6万7421棟、半壊5万5145棟、避難した人は最大で23万6899人に及びました。

ノートに記録されていた地域の助け合い

ノートを開くと、被災直後から約1か月にわたって連日出てくるのが、食べ物の羅列の記述。

「○○さん みりんぼし、コーヒー
○○さん ちくわ、冷凍食品
○○さん たまご パン…」

地震発生後の自宅での生活の中で、地域のだれに何をもらったのかを、書き記しているのです。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

母のノートに記された食べ物



1月19日にノートに記録をつけはじめた当初の理由も、だれに何をもらったかをはっきりさせておく必要があったからでした。

被災当時、個人商店やご近所さんどうしが、商品やサービスを交換しあい、助け合っていた様子が読み取れます。

母は、当時は当たり前のように近所で助け合う空気があったといいます。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

阪神淡路大震災・神戸市灘区 写真提供:神戸市

(※母が直接目撃した場所とは異なります)



戦後の復興をみながら育ってきた世代の人たちが、1日も早い商売の再開に奮起していたり、それよりも若い世代の人たちが積極的に救助や復旧に取り組んでいたりした様子も、母の記憶には刻まれていました。


「当時は書き表せなかった」 現在の母が追記したこと

ノートの中には、30年前の母が「母 かいだんおち」と黒ペンで書いているところがありました。発生6日目の1月22日に、母の母、つまり祖母が階段から落ちてしまったようです。

また、どうやら同じ日、「おばあちゃん」すなわち曾祖母も転倒しています。

災害という非日常のまっただ中で、疲労も極まり、身体の負担が大きくなっていたことがうかがえます。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

「母 かいだんおち おばあちゃん こける」



実は、ノートには、さらにこのときの状況が詳しくわかる情報が追加されています。

この記事を書くにあたって、母に「地震発生後のことを書いていたノートを見せてほしい」と依頼したところ、私に見せてくれるまでの間に、母はノートにたくさん追記していました。

この1月22日の階段転落の記述にも、現在の母が「井戸水で洗い物をするため、おけに包丁やちゃわんをいれて階段をおりていたところ、落ちる。たいへん疲れていた。けがなくてよかった」と書き添えていました。

矢印を描いて、黒ペンの大きな文字の間の空いたスペースに、鉛筆で、小ぶりな文字で。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

「たいへん疲れていた けがなくてよかった」



井戸のある場所へ行くには、途中で階段をおりなければならず、そこで祖母は転落したようです。その際包丁などをもっていたことを考えると、けががなくてよかったという母の安堵の深さに納得します。

追記を見つけた当初は、「別の新しいノートに書いてくれたほうが、区別がわかりやすくてよかったのに…」と思いもしましたが、しばらくして、それだけ、母はまだノートに書けていなかったことを、あのノートに書き残しておきたいのだと理解しました。

母は、当時はノートに気持ちを十分書き表すことができなかった、と振り返っていました。

極度の疲労が続く地震発生後の生活。その中で、階段から落ちた祖母に、けががなくてよかったと安堵した母の気持ち。いま残っている記憶をノートに残しておきたいという現在の母の気持ち。

それらがより合わさって、2冊のノートは家族に伝わる貴重な資料となっています。


記録の正確さについては別途検証が必要ですが、時間の経過に沿って母の記憶が揺らいだり変化したりする過程そのものにも、思いをはせられるノートなのかもしれません。

上垣アナの災害遺構探訪記#7

阪神淡路大震災・神戸市灘区 写真提供:神戸市

(※母が直接目撃した場所とは異なります)



ある時代を生きた人々の、個人的なことを記した日記や手記などは「エゴドキュメント」と呼ばれ、ある人に起きた経験の生々しさを、強烈に呼び覚ます力があります。

自然災害にまつわる、こんな “個人的な”記録、あなたのまわりにも、あるかもしれません。ぜひ、お家で、学校で、職場で、地域で、探してみてください。


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