──今回、ご自身がモチーフの人物を作品に入れた狙いと、令和に1984年の時代を書く意味について聞かせてください。
三谷:今の自分にしか書けないものを考えたときに、当時のことを書きたいなという思いが湧き上がったんです。僕は20代後半に、渋谷のストリップ劇場でバイトをしていたことがあって、ショーとショーの間にやっていたコントの台本を書いていました。その当時の彼の目線で、あの時代を書きたいな、と。
現代は不安なことがいろいろあって、固定概念がどんどん崩されていっている感じがしています。それが悪いことだとは思いませんが、永遠に続くと思われていたものが崩れていく、そんな不安を抱えて生きている人が多い気がするんです。
でも、1980年代の、特に渋谷は「永遠の夢」を実現しようとする人が多く、熱気がありました。この輝きが未来永劫続くと思っていたあの時代の人々を描くことで、現代の人たちに、メッセージやエールを贈れたらいいな、と。それがこの物語の出発点でした。

──脚本の中には、多くの実体験が詰まっているのでしょうか?
三谷:そうですね。物語は9割フィクションですが、設定としてはほぼ実話に近い、僕の体験です。
──当時のご自身のことを思い出して書いたのですか?
三谷:もちろんそういう部分もありますし、「舞台」がテーマになっているので、自分が劇団を作った頃から今に至るまでの演劇界の裏側というか、体験したあらゆるエピソードを埋め込んだ感じです。
三谷幸喜 神木隆之介と初めて仕事をして「イメージが180度変わった」
──神木さんは1993年生まれですが、当時の印象や、このドラマで描かれる若者たちの姿をどう受け止めていますか?
神木:物心がついたころには、もう1990年代の後半だったので、まったく1984年のことは知りませんでした。そんななか、実際にその年代の物語の世界に入り、やっぱり元気だなということは一番に思いましたね。
でも、今が「元気じゃない」ということではなくて。三谷さんもおっしゃったように、活気があるというか。例えば、新しく出てくるものに対するリアクションって今とはまったく違うと思うんです。
当時は何が出てきても「うわっ!何これ!?」「え、あれが進化したの!?」という盛り上がり方で。でも、現代は情報があふれていて、調べれば何でもわかりますし「これは、あれでしょ」みたいに、少し冷めた感じじゃないですか。1984年の人たちは、すべて初めて体験するような、新鮮な気持ちでみんな生きていたのかな、ということは感じました。目がキラキラしている印象で、それが活気に繋がっていたのかなと思います。

三谷:神木さんは、ポケベルは知らないんでしたっけ?
神木:知らないですし、見たことないです。もうガラケーが普通にある時代でしたね。
三谷:ちょっと先ほどの印象の話に戻るんですけど、神木さんと今回初めてご一緒して、印象が180度変わったんです。普通に見ていると、すごくまじめな好青年ですよね。
神木:ありがとうございます(笑)。
三谷:でも、普段の彼は、とにかく人を笑わせたり喜ばせたりすることに全精力を傾けている人なんです。それが、すごくびっくりして。
神木:人を笑わせたいという思いはありますね。
三谷:振ると物ボケみたいなこともやってくれるし。今、まじめに話していらっしゃいますが、全然こんな人じゃないんです(笑)。
コメディも好きなようで、自分が書いたものをこんなにも正確に面白く具現化してくれる俳優さんに会ったのは、正直初めてでした。脚本の何倍も面白くしてくれるし、若い方なのにこんな力を持った人がいるんだなと感激して。…ということを、まじめに話している姿を見ながら思いました(笑)。
神木:ありがとうございます(笑)。
──今回、当時の渋谷の街を再現した巨大オープンセットも建てられたとのことですが、そのセットの感想を聞かせてください。
三谷:タイムスリップした感じがありました。特に、ストリップ劇場と坂を挟んで目の前にある古いアパートは…そのままでした。
当時、劇場の楽屋はダンサーの方が使っていらっしゃったので、その古いアパートでお笑い芸人さんたちと僕がたむろして、台本をつくったり、稽古をしたりしていて。「よし、これで行こう」と気合を入れて部屋を出て、階段を下りて、通りを横切って劇場に入っていくという、その導線が完ぺきに再現されていました。
あの頃の自分に、「いずれこの瞬間がドラマになるよ」と教えてあげたいくらいの気持ちになりましたね。
神木:僕は学生時代、学校帰りに渋谷で遊ぶことはありましたが、劇中に登場する八分坂のモチーフになった地区には行ったことがなかったんです。でも、セットを見て、とにかく色が多いなと思って。看板も街灯も、使っている色が今とは違うなというのが、第一印象でした。
ナイトシーンでは、道路を濡らして撮影をするのですが、ネオンが路面に反射してすごくキレイでしたね。今、ノスタルジックなものとか、アニメ『AKIRA』に登場する「ネオトーキョー」のような世界観が流行っていて、僕も大好きなので、とにかくたくさん写真を撮りました(笑)。