──夕里子は、特殊な能力を持った女性ですが、演じるうえで意識したことはありますか?
わかりやすく言うと、夕里子は“霊感みたいなもの”を持っているのですが、例えば人の顔が見えてしまうとか、なんとなくゾワッと鳥肌を立ててしまうとか、そういった具体的なことは原作にも台本にも明記されていないので、その点は見てくださる方に委ねようと思っていました。

「こういうことが怖いんだ」「何かがあったとき、こんなふうに感じてしまうんだ」ということはあまり決め込まず、私自身に霊感のようなものがあると感じたことはないので、感覚で演じている部分もありました。強烈な“霊感のようなもの”を持っている北斗がいるので、宮舘さんのお芝居を見ながら、「夕里子はこのくらいかな」と考えていました。
夕里子は、この能力によって過去にいろいろあって、逃げるように雄司とともに長野へ来ているのですが、果たしてその能力を捨てようとしていたのか。でも、戦死した先祖・貞市の日記を手にして以降、怪異が起こって、北斗をわざわざ呼んだということは、能力を捨てていいのか迷っているのか。そういった不安定さを意識していました。
山下美月 『火喰鳥を、喰う』に登場する“霊感のようなもの”は「ほかのことにも置き換えられる」
──ご自身には霊感がないとのことですが、夕里子の心の動きなど共感できましたか?
不思議な力が作品の軸としてありますが、この“霊感のようなもの”は日常生活のほかのことに置き換えられると思っていて。
例えば、仕事が大変なときに同じようなつらさを感じている人に話を聞いてもらったら、少し気持ちが楽になりますよね。それで「この人も頑張っているから、自分も頑張ろう」と思える、その気持ちの流れは“霊感のようなもの”と似ているところがあると思うんです。なので、自分にとってあまり特別なことと考えすぎないようにしていました。

──監督からの演出などで印象に残っていることはありますか?
実は、あまり監督と話し合うタイミングはなくて。「こういうお芝居で大丈夫ですか?」ということは質問していたのですが、いつも「今のよかったよ」と肯定してくださって心強かったです。
ですが、不安もありましたし、戸惑いましたし、迷うことも多かったですね。今でも本当に大丈夫だったかはわからないです(笑)。
──本作のようなミステリー作品へは初出演となりますが、役へのアプローチなどを変えるということはありましたか?
アプローチを変えるなどは考えていなかったのですが…今まで私は、芯の強いキャラクターを演じさせていただくことが多くありました。でも、夕里子は一見芯が強く見えて、ブレている女性です。
雄司と一緒に長野で生きていくと決めたはずなのに、北斗を呼び寄せていますし。雄司の夕里子への愛と同じくらい、夕里子は雄司を愛していたのか。ちゃんと愛してはいただろうけど、愛の大きさがどれくらいなのかということは考えました。そのブレた様子が、夕里子のミステリアスさにもつながるだろうな、と思っていて。
あとは、「言葉ではそう言っているけど、本当にそう思っているのか」と思わせるような、あえてセリフっぽく、語尾に「~だわ」とつけてみるという言い回しも意識しました。
