<梅沢富美男 コメント>

――全国ネットの連続ドラマ初主演ということですが、オファーを受けたときは、どう思いましたか?
それは、うれしかったですよ(笑)。これまで単発ドラマの主演を務めたことは何本かありましたが、連続ドラマで、しかも全国放送というお話をいただいたときは、それはうれしかったです。この年齢になって、ついに来たかと。
ただ、役柄を聞いてみると、今の年齢で下町のおばあちゃんという役を演じられるのは、意外と俺くらいしかいないだろうなと思って、気持ちよく受けさせていただきました。
――人情味のある下町のおばあちゃんというのは、最近少なくなってきているのではないでしょうか?
おばあちゃんたちは、若い世代を見るとつい一言、二言、声をかけたくなるもの。でも、若い世代からすると、「うるさい」と感じてしまう。
おばあちゃんたちは、自身の人生で培ってきた知恵を無料で伝えようとしている。学校で学ぶことにはお金がかかるけど、人生経験から得た知識は、無料で受け取ることができる。こうしたやりとりこそが「人情」だと思うんだよね。
豊かな人生経験があるからこそ、若い人たちを引っ張っていける。だから、今のおじいちゃんやおばあちゃんたちには、もっと元気を出してもらいたいと思うよね。

――梅沢さんと松子に似ているところはありますか?
今、俺に松子さんが乗り移っているような気がする(笑)。
というのも、亡くなった俺の義理の母、つまり女房の母がとても松子さんに似ているんだよね。彼女はもともと、下町の芸者で、まあ〜元気なばあさん。テレビで犯罪のニュースを見ていると、「バカヤロー!」と声を張り上げることもよくありました(笑)。
俺は「ジジイとババアというのは、このくらい元気じゃなきゃダメだな」と思っていたのが、今この役をいただいて、いい勉強になってる。だから、役作りの際は、女房の亡き母の姿をイメージしていますね。

―――もし、松子のようなおばあさんが今の世の中に増えたら?
少しうるさいかもしれない(笑)。でも、きっと良い世の中になりますよ。間違いなく治安は良くなる。
自分が小さいころ、ジジイやババアが町角からよく辺りを見張っていて、朝帰りした子どもがいると「こんな時間まで何をしているんだ!」と、他人の子どもでも怒ってくれたりしたんだよね。そういう意味では、彼らの存在はお巡りさん以上の役割を果たしていたんじゃないかな。
――共演者のみなさんと、どのような作品に作り上げたいと思っていますか?
芝居には“間”というものがあって、俺たちがこれまで身につけてきたものと、今の若い役者たちとは少し違うんだよね。面白いことに、“間”というものは、単純に教えたり説明したりできるものではなく、相手がセリフをうまく渡してくれないと、自分のセリフの“間”も狂ってしまう。
互いのリズムが何よりも大事。若い役者たちの中には、“間”が短いこともある。そうした表現もその役者自身の個性だから、尊重しながら、こちらもそのリズムに合わせていかないといけない。
役者同士には、通じ合うものが必ずあると俺は信じているし、だからこそ、若い世代と一緒に芝居ができることを、とても楽しみにしていますね。

――視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
この作品の一番の見どころは「人情」ですね。
昔から「向こう三軒両隣」や「遠くの親戚より近くの他人」という言葉があります。みんなが手を取り合い、互いを思いやり、困っている人がいれば助ける。自分が困ったときには、今度はその相手が助けてくれるというのが、まさに「人情」ですね。そうした意味で、久しぶりにこうした「人情芝居」に挑めることが、とてもうれしいです。
世の中というのは、決して一人では生きていけません。相手の話に耳を傾け、受け止めるだけでも意味がある。そうした姿勢を大事にできる人生を多くの人が送ってほしいと思います。
また「お年寄りが世の中で役立たない」なんてとんでもない。多様な人生経験を重ねてきた人生の大先輩です。このドラマは、「こんなお話があってよかったな」と、心だけでなく頭の中までも癒やされる作品となっています。ぜひ、楽しみにご覧いただければうれしく思います。
