この夏、17万人以上が登った霊峰「富士山」。9月10日に登山道が「冬季閉鎖」されました。

今年(2025年)から富士山・静岡県側の3つの登山道では、入山料4000円の徴収や、夜間の通行規制などを導入。
これにより、山小屋に宿泊することなく夜通し登る、いわゆる“弾丸登山”による遭難は激減したものの、いまだに無謀な登山をする登山客がいなくなることはありません。

閉鎖直前の8月末、『サン!シャイン』は、静岡県警山岳遭難救助隊を密着取材。救助隊の決死の救助を追いました。

山頂付近で身動き取れず…

富士山9合目、標高3460mにある山小屋「万年雪山荘」を拠点にしている、静岡県警山岳遭難救助隊。

2人体制で交代しながら、突発的に飛び込んでくる救助要請に備えます。
救助対象エリアは、4つある富士山の登山ルートのうち、静岡県側の3つのルート。

午前6時過ぎ、3776mの山頂付近で身動きがとれなくなった女性がいるという通報が入ります。山小屋との標高差は約300m。隊員は骨折の疑いがあると判断し、現場へ急行します。

吹き付ける強風、山頂付近は空気が薄いため、山岳救助隊でも息が切れます。眼下に雲海が広がる中、登り続けること40分、やっと山頂に到着しました。

けがをしていたのは、シンガポールから夫婦で訪れた女性。夫によると、山頂付近で転倒し左足首を負傷、自力で歩くことができないといいます。

山岳救助隊が速やかに、足首を固定。背中に担いで運ぶことになりました。
通るのは登山道ではなく、起伏のない物資運搬用の道。9合目の山小屋まで、標高差300m、女性を担いで下ります。

下山開始から1時間半、ようやく山小屋に到着。その後、女性は物資運搬用のブルドーザーで5合目まで搬送されました。

静岡県警山岳遭難救助隊 坂上雅信 隊長:
転倒に発展する要因というのはやはり「疲労」から来る。「疲労」は他の遭難にもつながる事態なので、決して甘く見てはいけない。

取材中に再び、「疲労」が原因とみられる事案が発生しました。
現場は8合目と7合目の間の標高3100m付近、「外国の女性が足をけがして動けない」ということで、現場へ急行します。

身動きがとれなくなっていたのは、シンガポールから来た女性。下山中に足を滑らせて転倒、左足首をひねったとみられています。

岩場の急勾配を慎重に下っていきますが、そこに救助隊2人が合流。
計4人で、女性を搬送しようとしたところ、同行していた番組スタッフに思いがけない声掛けが。

登山者:
すいません。今、上にけがしている人がいるみたい。

他にも身動きが取れなくなっている登山者がいるというのです。
隊員が二手にわかれて、けが人がいるとみられる場所へ向かうと、そこにいたのは、日本人の女性。下山中にバランスを崩し転倒、足首を負傷していました。

静岡県警山岳遭難救助隊 渡邊束紗 隊員:
ちょっと歩いてみて痛かったら、固定して歩いてみましょうか。

幸いにも、日本人女性のけがの程度は軽く、大事には至りませんでした。
外国人女性は、隊員に支えられながら、ブルドーザーに乗車。5合目へと搬送されました。

感染症の可能性がある救助要請

富士山9合目に常駐する山岳救助隊の元に入った1本の通報。隊員たちに緊張が走ります

渡邊束紗 隊員:
きのうの午後8時15分、悪寒も発熱も出始めて嘔吐も加わった…、はい。

救助要請の内容は、富士宮ルートの山小屋に、「感染症の疑いのある登山者」がいるというもの。現場に到着すると、そこにいたのは力なく座り込む日本人の男性でした。

男性は前日に8合目の山小屋に到着。そこから体調を崩し、頭痛や寒気、吐き気などの症状が現れたといいます。

感染予防のため、手袋とマスクをつけて救助を始める隊員たち。

この日、富士宮ルートにはブルドーザーの稼働はなく、隣の御殿場ルートに物資を運搬するブルドーザーがあるため、富士宮ルートから御殿場ルートまで、歩いて向かうことになりました。

山岳救助隊に付き添われながら、歩を進める男性。しかし、そこは標高3250mの富士山の8合目。途中、何度も息を整え御殿場ルートを目指します。
呼吸が乱れる男性に酸素吸入器を渡し、なんとか歩くこと約20分、御殿場ルートに到着しました。

男性は友人に付き添われながらブルドーザーに乗り込み、下山後、病院に搬送。診断の結果、「新型コロナ」に感染していたことが分かりました。

山岳救助隊として、30年以上の経験を持つ坂上隊長。救助活動に際しては、後輩たちに厳しく伝えていることがあるといいます。

坂上雅信 隊長:
遭難者の命、プラス救助隊員の命、両方大事ですので、隊員には常に必ず生きて家に帰る事は言っています。

そして、登山をする人々にこんなメッセージも…。

坂上雅信 隊長:
富士山の山岳救助というのは、我々警察の力だけではなく、消防、医師、山小屋関係者の皆さん、ブルドーザーの業者さんのお力添えを持って、なんとか成り立っています。
命に危険が及ぶケースも多々ありますので、「山頂」と「命」の二択だったらどうか命を選択してください。天候や体調に少しでも不安を感じたら、勇気ある下山をお願いします。

(『サン!シャイン』 2025年9月15日放送より