2025年4月8日、大阪大学発のベンチャー企業「クオリプス」が、厚生労働省にiPS細胞由来の「心筋細胞シート」の販売に向けた承認申請を行いました。

承認されれば、iPS細胞を使う治療としては世界で初めてとなります。

心臓病の治療に期待がかかる「心筋細胞シート」。
これまでは、心筋梗塞や狭心症などの心臓の疾患は、重症化すると、人工心臓や心臓移植など、限られた治療しかありませんでした。しかし、このシートを重い心臓病患者の心臓に貼り付けることで、機能の回復が期待されるというのです。

クオリプス株式会社 長谷川光一研究員:
ピタッと心臓に貼り付くんですよ。その貼った部位に血管がくるので、酸素や栄養が行き渡るようになって、やられた組織が回復するということになります。

クオリプスはこれまでに、重い心臓病患者の心臓の表面にシートを貼り付ける治験を8例実施。いずれも術後の経過は良好で、副作用も現在のところ確認されていないといいます。

「心筋細胞シート」開発の責任者を務める大阪大学の澤芳樹特任教授は…。

大阪大学 澤芳樹特任教授:
最終的には心臓(疾患)では、どんな方でも再生医療で助けることのできる世の中になればいいなと思っています。

「革新的な第一歩」実用化はいつ?

これまで、「筋芽細胞」と呼ばれる、太ももの筋肉の細胞から作った細胞シートを患者の心臓に貼るという治療法がありましたが、一定程度の心機能を改善する効果はあったものの、重症患者の症状を改善するには至っていませんでした。

しかし、iPS細胞から作られた心筋細胞自体を加工した「心筋細胞シート」は、重症の患者でも機能の回復が期待されるといいます。

開発責任者である澤特任教授も、「将来的に、心筋細胞シートの治療により心臓移植を回避できるかもしれない」と話す中、iPS細胞に詳しい科学ジャーナリストの宮田満氏は今回の承認申請をどのように捉えているのでしょうか。

科学ジャーナリスト 宮田満氏:
まだ一工夫、二工夫いるとは思うのですが、革新的な治療法の第一歩を示したとは思います。
ただ、あまり楽観的には考えないでください。今すぐそういったことができるようになるわけではなく、今のところはまだまだ、心臓移植が必要のような超重症患者さんには対応するようにはならないと思います。
このような治療法はすぐできるわけではないので、患者さんのご協力を得ながら着実に一歩一歩進めていかなくてはいけない。

――iPS細胞が見つかってから約20年ほどたっていますが、これは大きなマイルストーンと言えるのでしょうか?
科学ジャーナリスト 宮田満氏:

心筋が動くということ自体は割と早くできていたのです。ただ、安全性を確保してちゃんと人に移植できるレベルのiPS細胞ができない。iPS細胞の実用化の大きな壁は、分化(※細胞が特殊な機能や形態に変化すること)しても心筋を作ってもその中に残ってしまうんです。iPS細胞は何にでも分化できてしまうので、心臓に移植したつもりが骨ができてしまうとか、その危険性を排除できたというのが今回のポイントです。

今回の承認申請が通った場合、次段階として条件・期限をつけての市販という形に至りますが、宮田氏によるとこれは“仮免”のようなものだといいます。

科学ジャーナリスト 宮田満氏:
安全性は担保されたので、とりあえず使ってもいいでしょうと。なおかつ効くのではないかというデータも出ている。ただ最終的に普通の医薬品と同じように、まずは多くの患者さんのデータを集めて、統計学的に優位な薬効を示すかどうか確かめてから正式承認と。最低7年はかかります。
ただ、(条件・期限を付けての承認における)実用化という意味では、1年以内に厚生労働省がこれを認めるか認めないかで始まると。多分、(費用は)結構高いのではないかなと…3000万円とか。
 

(『サン!シャイン』 2025年4月11日放送より)