『痩せていることが美しい』。そんな価値観に縛られ、女性はついつい無理なダイエットで心身を追い込んでしまいがちです。
モデルとして10代から活躍してきた西山茉希さんも、かつてはダイエットの経験から生理が来なくなる「無月経」に悩んだ経験を持ちます。高尾美穂先生は、女性アスリートの健康課題や月経トラブルに長年取り組んできた婦人科医であり、生理周期に合わせたボディメイクを推奨する著書「フェムテックダイエット」を出版しておられます。
今回の対談では、西山さんのリアルなダイエット体験と、高尾先生の専門的な視点を重ねながら、生理周期と上手に付き合うコツを語り合います。外見だけでなく心と体の両面から“自分らしい健康”を考えるヒントが盛りだくさん。悩める女性たちの心がふっと軽くなる、そんなお二人の愛ある言葉をお届けします。
10代で経験した「数字の罠」
Q.まずは、西山さんが初めて「ダイエット」と向き合ったきっかけを教えてください。
西山:
人生で初めて「ダイエット」という言葉と向き合う経験をしたのが、18歳でスカウトされたときです。それまでは食べることも体形も、何も意識しないで好きなように生きていたんですよ。
高尾:
何か部活とかされていたんですか?
西山:
バレーボールを小学校高学年から中学校3年間みっちりやって、その筋肉の上に好きなように食べて動かなくなった脂肪がのっかった状態だったので、今でも過去最高の体重はスカウトを受けたときです。
スカウトマンの方に「君は太いけどね」って言われたんですよ。他者から自分の体形に対する言葉をもらうことはなかったので、「え!?私って太ってるの?」って思って、自分が心を許している兄弟に聞いたら、「茉希は自覚がないみたいだけど、太ってるよ」って言われて(笑)
知識もないままのスタートラインだったので、それでもスポーツをしていたことを身体が覚えているから、運動してみたり野菜を食べてみたりしていたんですけど。後にモデル界に入ったときに、そこが一番、“失敗ダイエット”への入口だったかなって思います。
“細さは美しさ”という考え方に縛られていた専属モデル時代
Q.モデルとして活動するなかでどんな影響がありましたか?
西山:
当時のファッション界のモデルさん達って、拒食症を心配されるくらい「細いことがモデルさんの世界だ」みたいな風習があったんですよね。
先輩達が自分が持ち合わせていない細さを持っていたから、「そこにならないと」と。先輩達の数字を聞くと「その数字にならないと」っていう。表面的なものと数字というものが全部正解なんだと認識してしまい、自分の骨格や体質を見落としていたので、落ちるところまで落ちたくらい、気付くまで時間がかかりましたね。
高尾:
正直、医学的な正論って、その方の立場とか環境によって通じないこともある。私が接する方で多いのはやっぱりアスリート。陸上の長距離とか、審美系と言われる新体操、フィギュアスケートは軽いとパフォーマンスが出やすい。細いと美しく見える。しかも立っている姿がアーティスティックポイントになっちゃう。
そういう世界で、BMIがこのくらいがいいよとか、食べることで身体をちゃんと巡らせた方が50年後、骨にいいよとか、正しいのは間違いないけれど本人の役には立たないんですよね。
西山:
本当にそうです。(自分にとっては)「今!今!」なんです。
高尾:
だから考えなきゃいけないことは、正しいことと、本人が願っていることのいい落とし所を一緒に探していくことが必要なんだよな、というところに私は辿り着いてます。
西山:
女性って『心を置いてけぼりにしてでも身体が作られたらいい』というわけじゃないじゃないですか。だから、本人の気持ちが納得した状態で形づくりをするというところに、先生みたいにアドバイスしたり教えたりする立場の方は難しさがあるんだろうなって思います。
高尾:
中長期的に考えた健康面での視点と、モデルやアスリートのようにオーディションや大会を控えているような短期的な目標をクリアするという視点では、優先順位が違ってきます。
ただ、今それを優先した先に将来どういうことが起こり得るのかということを理解して選択するのと、知らずに気づいたらそうなっちゃったというのでは随分違う。まずは普遍的な、一般的な考え方を知っておいてもらった上で、じゃあ何を選ぼうか、という時代になりつつあります。
西山:
私は、当時最長で2~3年生理が止まっていたんです。でも、ホルモンまで守っていると、現状の体を絞ることができない。生理が止まっていることを産婦人科で相談しちゃうと、生理を戻そう、生活習慣を見直そうっていう案しか出てこないことが分かっているから、どんどん人に頼らなくなるんですよ。
高尾:
それを選択できない自分もわかっているからですよね。
西山:
そうなんです!健康的な正論を言われても、選択できない自分を知っているからです。当時は、周囲の人が心配してくれても、「私を太らせようとしているんじゃないか」とか「仕事をなくそうとしてるんじゃないか」と敵視してしまったり…。
食事という行為自体、栄養をとるためのものとか、体を守るためのものとしてではなく、カロリーとしてしか見られない。
高尾:
食事って本来はコミュニケーションの場だったり、楽しみなことだったり、でもあるはずなのに、自分の体に対しては、ある意味良くないものみたいな捉え方になっちゃうところもありますよね。
目的が明確ではないダイエットの“こわさ”から抜け出すまで
西山:
ダイエットのゴールを自分自身で持っていないと、(体重が)増えても安心できるように、よりマイナスを作ろうとするんです。目的が明確じゃないダイエットのこわさだなって思います。
高尾:
そういう気持ちってつらいですよね。
西山:
モデルという仕事だけじゃなくて、テレビの世界とか、もうちょっと幅を広げさせてもらったときに、個性というものをいろいろ感じられるようになって。そのときに、ちょっとずつ自分を変えたいなって思うようになっていきました。
高尾:
なるほど。『見た目だけが自分の価値ではない』という気付きですね。
西山:
卵の殻のように硬くしていた自分の心を、本当に数ミリ単位でちょっとずつ緩めていく感じ。ある日また前の自分に戻ることもあったり、それでもまた緩めたり...。そうして2~3年かかって、ようやく食事も楽しくできるようになりました。
生理が戻ったのもその頃です。「あ、私小さい頃から、そうだ、みんなでご飯食べるの好きだったんだ」という感情も思い出して...。
女性がダイエットをするときに知っておきたい生理による“揺らぎ”
Q.女性特有である、生理期間中のダイエットとの向き合い方について教えてください。
高尾:
体重が一番軽いのは生理が終わった後で、一番重いのが生理が始まる直前。この差が大きい方だと、1.9kgぐらいあるんです。なので約2kgくらい減ったとしてもそれはダイエットではない、逆に増えたとしても、筋肉でも脂肪でもなく水分。
自分にストイックな方は今出ている状況を「自分のせい」と考えてしまう。ただ、女性は「ホルモンのせい」とか「生理前だから」と口にする方もいますけど、揺らぎがあるというのは事実なので「間違いじゃないんだよ」ということを知ってほしいです。
なぜダイエットするの?ダイエットの軸を「自分自身」に
高尾:
自分なりのビジョンみたいなものを持った方が、ダイエットはうまくいきやすいと思います。結婚式でドレスを美しく着たいとか、写真にばっちり写りたいとか、そういうほうが自分でも分かりやすいですよね。
自分がこれからどうしていきたいのか。自分の過去を振り返るのも大事なことではあるけれど、やっぱり「これから」の方が変えていきやすいので、自分がこれからどうしていきたいのかを考えたときに、今自分が選んでいるダイエットというアクションとか、食べることを調整しているかとか、運動をするとか、いろんなことをされているかもしれないけど、それがこれからの何につながっているのかを冷静に考えてみることが大切です。
Q.誰かの一言を気にして始めたダイエットは、何のためにやっているのかを見失ってしまうものでしょうか?
西山:
それだときっかけが自分自身じゃなくて、他者になるじゃないですか。それなのに、向き合わなきゃいけないのは自分の体。だから、私がとことん失敗してよかったなって思うのは、その経験とか、そのとき答えにたどり着けないから、知識を得ようとして学んだこと。40代になった今、出産も経て自分の体と向き合うときに、その知識と経験があるだけで迷子になりにくくなりました。
自分のことを、体質を含めて調整できるようになっている。ダイエットって、数字でもなくて、他人でもなくて、骨格だったり体質だったり、仕事や生活サイクルだったり、いろんなものの集合体。だから、自分作りをしたいんだったら、1個ずつ自分自身を紐といていって「どんな形がベストなんだろう」って考えることなんですよね。
生理の周期は体重計に乗らない周期にしよう、でもいいと思います。私はむくんでいるときは、自分をあまり見ないですね。1日だけが重要なわけでもないし。
高尾:
私も体重計に乗ってみて、いつもより重い数字が出そうだなと思ったら、数字が表示される前に飛び降ります(笑)
西山:
先生のおっしゃる通り、2~3kgは全然生活の中で変わってきますよね!
高尾:
周りはいろいろ言うんです。都合よく。流行に合わせて言うし。頑張ったら頑張ったで、前のほうが良かったとか言うでしょ?
西山:
そうなんです!私をどうしたいんだ!って(笑)
高尾:
「誰かが自分のことを何か言っている」という状態、それに対してアクションを起こすのって自分で。自分の大事な時間を削ったり、思いを届けたり。それって全部自分のエネルギーだし資源だから、それをどう使っていくかは自分で決めることが大切。
その時期のことを失敗って仰っているけど、今が良ければいいんじゃない?ぐらいの感じです、本当に。
西山:
今だって、正解は多分一生わからないけど、でもこれでいいかって思える感情にたどり着けたというのは私の中の正解です。
ダイエットで大切なのは“努力を習慣化”すること
Q.生理やホルモンを考慮するとどういったダイエットのプランを立てればいいですか?
高尾:
変えられることって、何を食べるか、どれくらい消費するか、どれくらいリカバリーできるか。結局変えられることってそんなに多くないんですよね。
西山:
1日の目標があって何かを作り上げるというのなら、色々なことが言えるとは思いますが、“人生を通じての、自分の満足のいく体形作り”と考えると、いかに努力を習慣にできるか、ですよね。
高尾:
おっしゃる通りです。努力が習慣にならない限り続かないから。
だから毎日やろうって決めるのはもちろんいいし、毎日やろうって努力するのも大事だと思うけど、途切れちゃったときにそこをどう捉えるか。 私自身は、「今日は途切れちゃったけどまた明日から毎日やろう」で、いいんじゃないかなと思っているタイプ。それが続くと、気がついたら習慣になっているかなという感じです。
あとはやっぱり好きなことしか続かないって思っています。何かを無理やり取り入れても、1回2回は頑張れても、ちょっと無理して頑張っていることって続かないんです。だから、自分が楽しいなとか、嬉しいなとか、この環境好きだなと思えることに出会うまでいろいろ試してみる、というのが本当はおすすめですね。
習慣にするための“モチベーション”や“自分の願い”を見つける
Q.ダイエットをする時のモチベーション維持に関して、お二人の考えを教えてください。
高尾:
私は好きなお洋服のスタイルがあって、何十年も集めてきて、今のワードローブがあるんですよ。これが着られなくなると嫌だなという思いがあって、高校生の頃と体形はほとんど同じ。私にとってのモチベーションなんですよ。そういう自分の願いみたいなものは、それぞれ探してみると良いんじゃないかなって思います。
西山:
私がルーティーンとして大事にしているのは「今週のむくみは来週の1kg」と思うようにしていて。水分バランスとかむくみって女性の一番「蓄積」に繋がりやすい入口だなと思っています。
「今週は緩やかに挑戦して、来週の1kgにならなければどうなったっていいじゃん」という、“1週間単位”の自分の体調や食事や塩分、心のゆとりだったりを見てあげる。放置した時ってブヨブヨしてくるので、それでまた努力を強めるよりも毎日ほどほどに意識をするようにしてます。
“憧れ”は自分を豊かにするもの。苦しむものではないことを意識する
Q.今の時代はSNSを通じて多くの情報が目に入ってきますが、体形への意識が過剰になる原因になっていると思いますか?
西山:
この時代はSNSで、生きている環境以外の景色とか、携わらなくていいはずの意見とか言葉が目に入る。私には12歳の娘がいるのですが、身体のラインとか食べ物とかを気にするようになりました。それは受け入れてあげたいんだけど、自分自身が経験してきたことって守りたくなっちゃうじゃないですか。
だから、「考えすぎなくていいんだよ」と言葉にしたくなるんだけど、言葉が影響のあるものではないということも分かっているから、今は見守ることしかしていません。彼女の憧れるものが、彼女の幅がちょっと広がったくらいのラインの中に収まっているといいなって思います。
高尾:
世の中からの情報や影響は大きいですね。私が育ってきた時代と比較すると、情報だけじゃなくて、とにかく環境。細すぎる服が売られている、という社会の環境も、ちょっとずつ変わっていくべきだと思います。
西山:
身体と食の仕組みとか、女性の脂肪と筋肉のバランスとか、心と身体の影響とか、そういったことも1桁くらいの年齢から知れるような環境があるといいですよね。
高尾:
男女入り混じって遊んでいる幼稚園・保育園時代から、その状況が中学校に上がれば確実に変わる。例えば徒競争は男女が分かれるとか。その間の変化って何なんだろう、っていうのを男女双方である程度理解できていると理想で、それを含めて性教育。まずお互いの違いを知っておく必要がありますよね。
年齢とともに変わる、女性の体。“今の自分”はダメじゃない
西山:
女性って1カ月の中でも自分で(体調と)向き合わなくちゃいけないのに、年齢でも向き合うことがたくさんありますよね。20代とか30代の前半だとまだサイクルが明確だから、1カ月の中で「この1週間は頑張れなくても許す1週間にしよう」って決められる。
でも、頑張りたい人に「頑張らなくて良いよ」って言うのも変な伝わり方になっちゃうから、知識から理解をして「頑張り方を1カ月の中で変えていくと効率的かもね」と。
高尾:
体重を落としたいんだったら生理の後、体が軽いときにしっかり意識して1kgぐらい落として、生理前あたりに0.5kgぐらい戻る。また次の周期に、同じように0.5kg落とせればいい。女性の方が、この生理周期というサイクルがあるからこそ、節目節目で眺めやすいともいえると思います。
西山:
私は最近、10歳上の先輩から「更年期と戦っている」と聞きました。でも、それと向き合っているその姿勢がすごくかっこいいなと思いました。そういう年齢による体の変化もあるからこそ、女性は自分自身の体の向き合い方を柔軟にしておいたほうが良いと思います。ひと月の中でも自分の体の変化と向き合っているのに、年齢による変化とも向き合わなきゃいけないなんて、女性ってそれだけで偉いなって思います(笑)
高尾:
そうなんです。本当にみんな「お疲れ様」ですよ。妊娠や出産に悩む人もいるし、病気が見つかったりするし。そこに人間関係とかもあって、本当に大変。よくやってる、みんな。みんな立派!
ダイエットに苦しんでいる人って、今の自分があまり良くないって思っている人が多い気がします。でも、決してそうじゃない。今がNGだから変わらなければいけないんじゃなくて、今の自分も素敵、そのうえでこれからはこうなりたいっていう姿があるのならば、そこに向き合う、そう思えたらいいなって。「今もいいけど、これからこうなりたい、という願いに向き合う姿が世の中で言われているダイエット」なのかも。
無理なく一歩ずつ“大好きな自分作り”を
Q.最後に、女性特有の健康課題とダイエットについて悩んでいる読者に向けて、メッセージをお願いします。
西山:
悩むこととか、憧れることとか、悪いことなんてひとつもない。全部、自分を作るために向き合っている自分の良さだということを忘れないでほしいです。
描いている未来があれば辿り着ける人がたくさんいるのが、この世の中のシステムだと思うので、無理なく一歩ずつ、大好きな自分作りをしてほしいと思います。
高尾:
本当に困ったら、色んなことがどうにかなる時代なので、不安にならなくていいよって思いますね。ただ、後から「知っておけば良かった」って思う気持ちって惜しいので、色んな情報が世の中にあるなかで、自分が知っておけば良かったと思う情報は周囲の人とシェアできると良いですよね。話してみるとお互いの考え方も知れるし変わるし、いいきっかけになるんじゃないかなって思いました。
