月経による不調のように日常生活に影響を及ぼす悩みから、生活への影響は大きくなくても関心度が高い脱毛に関する悩みまで、女性の健康課題は少しずつオープンに語られるようになっていますが、まだ多くの人が“話しにくい”と感じるテーマです。

現在30歳の村上佳菜子さんは、3歳からスケートを始め、2013年の全日本選手権で総合2位、2014年にはソチ五輪出場、四大陸選手権で初優勝、世界選手権は5年連続5回目の代表入りを果たしました。

現在はプロフィギュアスケーターとして様々なアイスショーに出演していますが、そんな輝かしい実績を持つ村上さんも、現役時代は選考の出番直前に生理がきたり、PMSによるイライラで練習に影響が出てしまったりと、女性特有の健康課題に直面してきました。
今回は、村上さん自身が悩んできたこと、そして現役当時は解決が難しく目を背けることしかできなかったリアルな経験を、赤裸々に語っていただきました。

生理・アトピー・太ってはいけない…現役時代に抱えていた悩み

現役時代に抱えていた村上さんの悩みを教えてください

私の場合は今振り返ると、生理による不調や生まれつきのアトピー、あとは常に体型を気にしていたので“太ってはいけない”という考えがあり、そういったことに悩んでいました。ただ、当時はスケートに必死だったので解決した方がよい悩みとして捉えることができていなかったように思います。

生理はみんなにあるもの、自分だけが特別ではない、という考えだったので、監督に相談したり練習メニューを調整する、軽くするということはなかったです。ただ、監督も女性だったので、生理前のイライラだったりそういった変化には気づいていたと思います。

五輪代表選考で出番直前に生理が…「何も見なかった!」と自分に言い聞かせリンクへ

大事な試合のタイミングと生理が重なった経験はありますか?
実は生理と試合が重なるということはあまり経験がなかったのですが、一度だけあるんです。ソチ五輪の選考で最後の6分間練習を終え、私は5番滑走だったため、前の4人を待っている間にお手洗いに行きました。そこで、生理がきたことに気づいたという経験があります。競技人生のなかでも特に大切な日だったので、集中を切らさないようコントロールが必要でした。

生理に気づいた時、どう対処したのでしょうか?
フィギュアスケートは足を締める競技です。ナプキンを付けると、ナプキンの厚みで演技に影響を与えることもありますし、気持ちの面でも生理であることに意識が向き集中を削がれてしまいます。私の性格上、生理になるとズンと気持ちから沈み身体が重くなっていくことは分かっていました。なので、「何も見なかった!何もなかった!」と自分に言い聞かせて、そのまま出番を迎えました。

“見なかったことにする”というのはなかなかできないことですよね。
大事な局面で気持ちをしっかりと作っていたこともあり、なんとか集中を切らさないよう気持ちを整えることができました。たまたま濃いブルーの衣装だったことにも助けられました。ただ、もしこれが2日目だったとしたら、頑張れなかったかもしれません。

脱毛やアトピーなど肌に関する悩みは日常的にあった

フィギュアスケートは一見露出が高いように思いますが、衣装を着るうえでの悩みはありましたか?
露出が多いように見えて、実は肌色のネットで皮膚が覆われています。なので、体毛に関してはそこまで気にしなくても大丈夫ではあったのですが、もちろんノースリーブの衣装もあるので、高校生の時に自己処理を始め、大学生になり脱毛サロンへ通い始めました。

お肌という観点だと、生まれつき持っているアトピーによる傷に悩まされることの方が多かったです。脱毛サロンに通っていた時も、傷がある場所には照射できずに施術を断られたりしたので、そういった意味でも私にとって脱毛とアトピーは切り離せない問題でした。

かゆみ以外の美観的な悩みはパフォーマンスに直結しないからこそ言いづらいように思います。
そうですね。一番悔しかったと言うか、傷ついたのは、「衣装を長袖に変更します」と言われたこと。搔いてしまった傷跡が痛々しいという理由からです。私のなかでは掻くことが唯一ストレスから逃れられる行為で、でも掻くと監督から怒られたり、傷に悩んだり、それ自体がストレスでまた掻くという悪循環でした。思春期の時は特に傷が気になる年頃なので、悩んでいましたね。

その悩みはどう乗り越えたのでしょうか?
色んな人がいていいんだ、って思えて、自分を愛せたことによって少しずつ乗り越えていきました。フィギュアスケートは表現をする競技なので、多様な考え方や表現方法を持っている人がいます。例えば脇毛は生えていない方が美しいという考え方の人もいれば、生えていても美しいと思う感性の人もいます。正解がないので、いったん自分を受け入れて、許容してあげて、よくするためにこれ1個取り入れてみようかな、みたいなラフな気持ちで改善していく方が、気持ちも前向きになれてヘルシーだと思います。

初めての生理が遅くホルモン剤を使うか悩む…多くはなかった学ぶ機会

10代の頃は両親や監督など周囲の大人の助けがないと乗り越えられない悩みはありましたか?
実は初めて生理がきたのが高校3年生と少し遅かったんです。ホルモン剤注射を医師に勧められていたのですが、母の意向もあり注射は結局打ちませんでした。あとは、生理が初めてきたタイミングから体毛が少し濃くなったような気がしていました。ホルモン剤注射をするにも、脱毛をするにも、費用の面で両親を頼らざるを得ないため自分一人の判断で進めることができず、そういった意味では大人の助けや理解がないと解決はできないと思います。

競技仲間と悩みを共有することはあったのでしょうか?
ありました。「今日生理で身体がだるい」という会話だったり、生理用品の貸し借りだったり、情報交換だったり。同じ女性である競技仲間とは悩みを共有していました。

自分の身体のことについて知る機会、学ぶ機会はあったのでしょうか?
年に一度、医師とアスリートが集まる公式の機会があって、そこで生理がまだきていないとかそういうことを医師に伝えていました。学ぶ機会と言うと、そう多くはなかったと思います。

現役時代ピルで身体の変化を感じ不安に…当時の自分に伝えたいことは“悩みに向き合った方が楽だよ”

我慢の連続のなかでも、チャレンジしてみたケアはありますか?
現役時代にピルを服用した経験はありますが、1シートか飲み切らないうちにやめてしまったんです。服用に伴い身体の変化を感じ取ってしまって、もし自分に合わなかった場合、競技に影響が出ないか不安になったことが理由です。

ピルの服用はすぐにやめてしまったとのことですが、そんな当時の自分に伝えたいことはありますか?
「怖がらずに、もう1回試してみて!」と伝えたいです。身体の変化が気になるならオフシーズンに試しておくとか、そういう工夫をすればよかったなと思います。今はピルを服用しているのですが、自分に合うピルを見つけることができてすごく楽になったので、現役時代の自分に試してほしいです。一時の副作用を気にしてやめてしまうのではなく、少しでも悩みに向き合って解決方法を見つけることができれば、その方がずっと楽だと思うから。

「自分の変化に愛を持って接してほしい」村上佳菜子が全ての女性に伝えたいこと

スポーツをしているかどうか、子供か大人か、といったことに関係なく、全ての女性に伝えたいことはありますか?
生理前は食欲が増し太ってしまう自分が嫌いだったり、急にいつも通りの動きが取れなくなってしまったりと、いつもそれを恐れている自分がいて。生理そのものに対してマイナスな感情しか生まれてこなかったのですが、全てのことにおいてセルフラブってすごく重要だなと思っています。

当時の私は目を背けるしかできなかったことも多くあるけれど、今の時代だからこそ、できることや選択肢は多くあると思います。

スポーツに限らず、何かを頑張っている人は自分を高めるために頑張っているわけであって、そういう人の身体の変化にしっかり向き合って適切に対処をしてあげる。そういう風に社会全体で、女性に起こる全てのことに愛を持って接していければ、もっと楽に付き合っていけるかなと思うので、当事者である女性自身も、自分の変化に愛を持って接してほしいなと思います。

注目ポイントまとめ

今回のインタビューの注目ポイントをまとめました。