増田裕次「この役は草彅さんしかいないと思った」
――現場で、草彅さん演じる“遺品整理人”を見たときの印象はどうでしたか?
増田:所作については最初にまとめてお伝えしていて、撮影中は、まるで私の考えが全部乗り移っているかのようにご自身で自然に動かれていて、特にアドバイスするような場面はなかった気がします。
むしろ、監督に「こうやったほうがいいんじゃない?」と提案している場面をよく見ましたし、そこから私が学ばせてもらうこともありました。
初めてお会いしたとき、「難しい役を演じてくださってありがとうございます」とお伝えしたら、すぐに「一生懸命頑張るんで大丈夫です!」と言ってくださって、そのときに、この役はもう草彅さんしかいないと思いました。
高橋:私も『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(2024年/NHK)で草彅さんとご一緒しましたが、やさしさと強さをあわせ持つ主人公がぴったりの俳優さんですよね。
増田さんの、ビジネス関係なく、ご遺族さまに寄り添う気持ち、遺品整理人としてのプライドや信念、そういうところが草彅さんを通して伝わってきます。すごく骨がある、でもソフトな印象を抱かせる、不思議だけど唯一無二な俳優さんだと思います。
――高橋さんは、脚本を書くにあたり、増田さんにどのような取材をしたのでしょうか?
高橋:増田さんがこれまで見てきた現場の様子やご遺族さまのエピソードなど、リアルな話を聞かせていただいて、それを元にストーリーを生み出したり、反対に、こちらでご遺族さまの設定を考えて、それに合う話がないか、相談したりしました。
増田:よく、ここ(増田さんの会社)で脚本を書いてましたよね。
高橋:そう、本当によく通い詰めました。1話につき3回くらいですかね? わからないところが出てきたら増田さんにメールして、3日以内に15分でいいので時間ください!って。で、15分どころか2時間居座る(笑)。
河西:お2人のホットラインができあがっていたので、僕や監督はプロットを読んで初めて知ることも多かったです。打ち合わせで何回「へぇ~」と言ったことか(笑)。
第1話で、故人さまが息子に見立てたぬいぐるみによだれかけをつけていたエピソードも、増田さんが心を動かされた遺品として僕たちに教えてくれた話を採用しています。そういう具体的なことは、想像だけではなかなか出てこないですよね。
高橋:そう! 机の前に座ってるだけでは想像の範囲に限りがあるので、それを超えるためにも増田さんにリアルな話をうかがいたかったんです。
第2話でも、最初に盗みを疑われるエピソードにしようと決めたとき、私は、そういう場合は絶対に謝らないと思ってたんです。だって、謝ったら泥棒だと認めるようなものだから。
でも、増田さんに聞いたら「謝ります」ってあっさり。ただ、これは劇中にも出てきましたけど、「見つけられなくてすみません」と謝ることがポイント。しかも、ご遺族さまの気が済むまで探す。
その労力がご遺族さまの心を納得させたり癒すのだと聞いて、それは机の前に座ってたんじゃとても思いつかないなと思いました。
河西:寄り添うって、まさにそういうことなんでしょうね。
第4話で、樹が子どもを亡くした父親に「ぜひ、(話を)お聞かせください」と耳を傾けるシーンがあるのですが、その姿勢も、普段いかにタイムロスを少なく、効率よく撮影するかを考えている僕からしたら、かなり衝撃的でしたよ。あれも、普段の増田さんの姿ですよね?
増田:話を聞くのが楽しいんですよ。ご遺族さまは、話をすることで自分の中に溜まっていたものが一気にあふれ出すんですけど、その正直な気持ち、故人さまをこう思ってたんだ、っていうのを知ることができて、うれしくて、話してくれたことに感謝です。
それに、ご遺族さまが遺品整理を頼んでよかったと思うのは、荷物の整理のほかに、心の整理ができたときだと思うので、話を聞くことでそのお手伝いができるなら何よりですね。
高橋:この増田さんのホスピタリティの高さ、グリーフケア(※)の考え方が、第1話で樹が口にした「橋渡し」という言葉につながってるんです。
(※)グリーフケア…さまざまな喪失を経験した人が抱える「悲嘆(グリーフ)」に寄り添い、立ち直り、自立できるようサポートすること。
「必ずお伝えします」という言葉の通り、遺品を片づけて終わりではなく、故人さまの伝えられなかった思いをご遺族さまに伝えるところまでが遺品整理。
残されたご遺族さまは、深い悲しみに陥ったり、自責の念にかられたりするので、樹たちの手を借りて、故人さまからそれを上回るだけの愛情を降り注がれると、心は一気にほどけていく――。それを「橋渡し」という言葉で表現しました。
増田:第1話で、吉村界人さんが親の残してくれた愛を知って泣くシーンがまさにそれでしたよね。私もオンエアを見ながら、目頭が熱くなりました。
高橋:ドラマをご覧になった方のなかには、樹を見て「こんなにいい人はいない」と感じた方もいるようですが、ドラマに登場する遺品整理人は本当にいるんです、ここに(笑)!
増田:遺品整理の仕事を志すようになったのは、昔、結婚の約束をした恋人が突然亡くなってしまったからなんです。
そのときに私は何もできなくて、涙を流し続けるご両親にも何もしてあげられなかった。だからこそ、当時できなかったことを全部やろうと思って今、この仕事をしているんですけど、それがみなさんから見ると、ビジネスの範ちゅうを超えておせっかいに見えてしまうのかもしれないです(笑)。
でも、自分にできることは出し惜しみしないでやりたいし、それが私自身の生きる原動力になっていると思います。
