<梅沢富美男&研ナオコ コメント>

左から)梅沢富美男、研ナオコ

――お2人の出会いは?

梅沢:研さんに声をかけてもらったのは、俺が『紅白歌合戦』に初めて出たとき。みなさん、芸能界について少し誤解しているかもしれないけど、あそこは仲良しこよしの世界じゃなくて、みんなライバル。だから、『紅白』に初出場したときだって、誰も口なんかきいてくれなかった。

研:ザ・芸能界(と大笑い)!

梅沢:『夢芝居』を歌って、最後に細川たかしさんと『矢切りの渡し』で踊ったの。そのエンディングで『蛍の光』をみんなで歌うんだけど、研さんがスッと来て「キレイだね、キレイだね」
って(笑)。だから、研さんが、芸能人で初めて口をきいてくれた歌手の方ですよね。

研:私が言いたいのは、とにかく梅沢さんが誰よりもキレイだったのよ(笑)。だから、カメラにお尻を向けて梅沢さんをずっと見ていた(笑)。

梅沢:みんなが真正面を向いて歌っているときに、尻をカメラに向けていたのが印象的でした(笑)。

研:私は、俳優さんだって『紅白』に出れば同じ歌手だと思っているの。だから、そういう差別って全然しないし、好きじゃないのよ。キレイなものはキレイだし、歌のうまい人はうまいの。それだけのことよ。

梅沢:それから、ずっと研さんが気になって、もう長いお付き合い。でも、あえてプライベートは切り分けていて。研さんの家に行ったこともないし、携帯番号も知らない。

研:芸能界での付き合いは、もう20年以上。私も梅沢さん家に行ったことない。お正月に行こうかなと思ったけど、やっぱり行けない。そういう距離感でのお付き合いですね。でも現場では、本当にすごく仲が良いんですよ。

梅沢:芸能人の方と友だち付き合いしたのは、研さんが初めてですよ。友だちなんていないもん(笑)。人生の中で、芸能界で一番印象に残っている人は誰かと聞かれたら、迷わず研ナオコさんと即答!

研:素敵でしょ?素敵な関係と書いてね(笑)。

左から)土井梅子(研ナオコ)、日向松子(梅沢富美男)

――松子を演じるにあたり、研さんを参考した部分はありますか?

梅沢:研さんは、誰に対しても同じ目線で、分け隔てなく接するあたたかさや根っからのやさしさがある。そこを、今回の松子さんの役づくりの中に取り入れたね。やっぱり、研さん自身が若いころからすごく苦労してきたからこそ、そういう人間的な深みがあると思う。たしか、段ボールの上で歌っていたこともあったって…。

研:歌っていたこともありましたよ。一気に売れたわけじゃないですから。私、偉そうにしている人って本当に大嫌いなんですよ(笑)。現場で毎日、体を張って働いているスタッフの方たちには、きちんと挨拶をします。だって、現場を支えているのはそういう一生懸命な人たちでしょう?私は、必死で支えてくれている人たちが大好きなんです。

――お2人とも今回が初共演という浅丘ルリ子さんの印象は?

梅沢:スクリーンで観ていた大女優と同じ場所で仕事をできるなんてめったにない。僕のそばにいるなんて夢のよう。

研:私も、ルリ子さんは映画でしかお見かけしたことがなかった。共演できて感無量です。

左から)水谷竹子(浅丘ルリ子)、土井梅子(研ナオコ)、日向松子(梅沢富美男)

――そんな、芸能界をかけ抜けてきたお2人が、生きづらさを感じることはありますか?

梅沢:生きづらさというか…ずいぶん芸能界も変わったなと思いますね。 

研:だいぶ変わりましたよね。

梅沢:芸能界でも、しっかりと叱れる人は少なくなってきた。若い世代が叱られることに慣れていないことや、「世代交代」で片づけるのは少し違うと思う。時代ごとに在り方や言い方は変わっても、人から教わること、人に教えることは、昭和であろうと、平成であろうと、令和であろうと、本質は変わらない。大切なことは、長い時間をかけて培ったものを、次の世代へきちんと伝えることだから。

『浅草ラスボスおばあちゃん』も、人情劇がテーマで、根底には「困っている人がいれば助けてあげたい」という思いがある。人が間違っていればきちんと伝える、温かさと厳しさのバランスを大切にしようという思いで、この作品と向き合っています。