更年期にさしかかって“何にもしたくない”“仕事や家事が手につかない”という状態が続いて悩んでいませんか?更年期には自分でコントロールできない体の症状も重なるため、とてもつらいですよね。しかし、周りと比べて自分を責める必要はありません。正しい対処法を知って、専門家を頼るのもひとつの方法です。

更年期に“うつ”になりやすいのはなぜ?

閉経の前後5年間の更年期に“やる気が出ない”“何もしたくない”“落ち込む”と感じることが増えていたら、更年期うつの可能性があります。

女性ホルモンの分泌量が上下しながら急激に減少することによって、全身にさまざまな変化が起こる更年期。そして、ライフステージの変化や精神・心理的因子など複雑な要因が絡み合い、心身に症状があらわれます。更年期の症状は、女性ホルモンの変化だけが原因ではありません。

うつの代表的な症状には、以下のようなものがあります。

・憂うつ感
・興味や関心、意欲、集中力の低下
・自信の低下や悲観的思考
・眠れない・寝すぎ
・食欲が湧かない・食べ過ぎる
・死にたくなる

更年期のうつ症状のなかには、うつ病が隠れていることがあります。また、更年期を迎える前から憂うつな気分になりやすい人や、すでにうつ病などの診断を受けたことがある人は、更年期のうつ症状も出やすい傾向にあります。

更年期の症状は個人差が大きく、普通に日常生活が送れる人もいれば専門的な治療が必要な人もいます。つらい症状があれば“更年期だから”といって我慢せず、専門家を頼りましょう。うつ症状が強い場合、婦人科より先に心療内科や精神科での受診がおすすめです。

更年期うつの原因

更年期は、女性ホルモンが閉経に向けて減少していく過程で乱高下するのが特徴。思春期にも女性ホルモンの大きな変化がありますが、更年期は特にアップダウンが激しく、更年期の症状に関わっているとされています。

更年期のうつは、以下の5つの原因が複雑に絡み合っています。

【女性ホルモンの変化】
エストロゲンが減少することで、エストロゲンが関与している全身に症状がでやすくなる

【加齢に伴う身体変化】
若い頃はできたことができなくなったり、関節などに痛みがでやすくなったりする

【社会文化的因子】
会社で昇進したり、社会的地位が上がることでプレッシャーを感じる

【精神・心理的因子】
子どもの受験、親の介護、パートナーとの関係性などでもストレスが溜まる

【性格的因子】
真面目で几帳面、完璧主義など

どれかひとつだけが原因ということではなく、複数の要素が絡み合っているのです。

自分でできる!更年期うつの対処法

自分でできる範囲で更年期うつの対処ができると嬉しいですよね。基本的な対処法は食事・運動・睡眠の3つ。健康的な生活を心がけることが更年期のうつ症状を和らげる第一歩です。

みんなのうつへの対処法!

全国の40〜65歳の女性300人に“更年期の症状に関する調査”を独自に行ったところ、更年期に何らかの症状を感じている160人のうち、97人が更年期と呼ばれる時期(一般的には45~55歳)に気分が落ち込みやすくなったり、鬱々とした気持ちになったりすることがあるとわかりました。

また、その時の“リフレッシュ法”として最も多かったのは“趣味に没頭する”で、42人が効果があると回答。第2位は“飲食”、第3位は“睡眠”という結果に。他には、“入浴”“運動”など、日常生活の中で取り入れやすい方法で気分をリフレッシュをしている人もいました。

バランスのよい食事

三大栄養素である炭水化物・タンパク質・脂質を中心に、ビタミン・ミネラルを摂れる“バランスのよい食事”が大切だとされています。

献立を“主食・主菜・副菜・汁物”で考えると、バランスのよい食事を作りやすくなります。
“これだけ摂っていればよい”という栄養素はないため、バランスよく摂ることがおすすめ。

また、日頃からよく噛んで、いろんな食材をゆっくり味わって食べることも重要です。食事を楽しみながら、まんべんなく栄養素を摂取しましょう。

適度な運動

うつには運動が効果的とされています。運動は血行を促進する効果も期待できるほか、適度な疲れで質のよい睡眠にも繋がります。

特に、ウォーキングなどの軽い運動やヨガがおすすめ。ヨガは腹式呼吸や瞑想などでリラックス効果も期待できます。

今まで運動習慣がなかった人も、この機会にライフスタイルを見直し、すぐにできそうなものを取り入れてみてはいかがでしょうか。

質のよい睡眠

適度な長さの睡眠によって休養できていると感じられる“質のよい睡眠”は、毎日の快適さに繋がっていきます。


質のよい睡眠をとるためには、以下のような方法があります。自分に合うものを見つけましょう。

・部屋を真っ暗にする
・就寝前1〜2時間前までにお風呂に入る
・起きたときに朝日を浴びる
・タバコやアルコールを控える など

昼間に強い眠気が生じる場合や、睡眠中に目覚める回数が多い場合などは、特に質のよい睡眠を意識してみるとよいでしょう。

更年期のうつには医療的なアプローチも!

毎日の生活の中で誰しも憂うつになることはありますが、うつの症状が長期間続く場合や日常生活に支障をきたす場合は専門機関での治療をおすすめします。更年期が終わるまで我慢しようとはせず、早めに受診して治療を始めましょう。治療と言っても、必ず薬を使うわけではありません。自分に最も合う治療法を選択することが大切です。

カウンセリングなどの精神療法

うつ症状は、カウンセリングや生活習慣の見直しで治療する場合もあります。認知行動療法などのカウンセリングを行い、物事の考え方を柔軟にして、日々を過ごしやすくすることも可能です。

今までにうつ病などの治療をしたことがあれば、まずは精神科や心療内科を受診してみましょう。うつ病になったことがなく、ホットフラッシュや動悸などの症状も同時にある場合は婦人科に相談してみましょう。

ホルモン補充療法(HRT)

更年期の症状の治療として行うホルモン補充療法(HRT)で、更年期うつが改善することもあります。

ホルモン補充療法(HRT)とは、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンをごく少量ずつ補充することで、更年期に起きるエストロゲンの減少や乱高下の波をゆるやかにしていく治療法です。エストロゲンの大きな変動が更年期の症状につながるため、ホルモン補充療法(HRT)で変動の波を小さくして症状をやわらげる効果が期待されています。ホルモン補充療法(HRT)では飲み薬のほか、ジェルタイプや貼るタイプの薬を処方されることもあるでしょう。

ただし、ホルモン補充療法(HRT)を行っても更年期のうつ症状が改善しない例もあります。

うつ症状を専門にしている婦人科医は少ないため、精神科や心療内科、更年期治療を得意とする婦人科にも相談してみましょう。

抗うつ剤

うつ症状には、抗うつ薬が処方されるのが一般的です。

しかし、うつ症状の治療を専門にしている婦人科医は少ないのが現状。うつ病の診断や抗うつ薬での治療は、精神科・心療内科でしてもらうのがよいですが、ハードルが高ければ更年期治療を得意とする婦人科もおすすめです。

漢方薬

精神科・心療内科では、軽症のうつ病の治療に漢方薬を使うこともあります。漢方薬には抗うつ剤の効果を増強したり、抗うつ剤の副作用を軽減したりする効果も期待できます。

ほかに更年期の症状があれば、それに対応した漢方薬を処方することもあるでしょう。

この記事の監修者

クレアージュ東京 レディースドッククリニック 婦人科顧問|大島 乃里子 医師

—   プロフィール  —

婦人科腫瘍のほか女性医学の専門医でもあり、思春期から老年期までの女性の生涯におけるヘルスケアを担う。一人ひとりの患者さんに向き合った治療を行っている。

—   経歴  —

医学博士

日本産科婦人科学会専門医

日本婦人科腫瘍学会専門医