“産後は骨盤が開くからケアが必要”と耳にしたことがある人も多いでしょう。しかし骨盤は筋肉によって支えられているため、まずは筋肉をケアして鍛えることが大切です。骨盤を支える筋肉群のトレーニング方法を紹介します。
産後の骨盤の状態は?
出産時、骨盤は赤ちゃんが産道を通れるように広がります。その際、骨盤の筋肉や靱帯には負荷がかかるもの。骨盤には自然に元の位置に戻る仕組みがあると考えられており、産婦人科では産後の骨盤ケアを積極的に推奨することは少ない傾向があります。
骨盤の変化を感じる人もいますが、一般的には目に見えてわかるほどの変化は少ないとされています。また、骨盤が元に戻るまでの期間には個人差があり、数ヵ月かかることも珍しくありません。
産後に腰痛や生理痛の悪化、下腹部の違和感を覚えることもありますが、これらが骨盤の変化と直接関係しているかについては、現在の研究では意見がわかれています。過度に心配するよりも、体の変化を観察しながら、無理をせずに過ごすことが大切です。
骨盤ケアはした方がいいの?

骨盤は時間とともに自然に元の位置に戻るため、特に症状がなければ、特別な産後の骨盤ケアは必要ありません。
気になる人は骨盤ベルトを使ってサポートするのも1つの方法。ただし、強く締め付けすぎると血流が悪くなり、逆に腰痛やむくみを引き起こすこともあります。適度なサポートにとどめるのがポイントです。
骨盤を直接ケアするよりも、骨盤を支える筋肉を鍛えることをおすすめします。例えば、骨盤を支える“骨盤底筋”や“腹筋”を鍛えると姿勢が安定し、体型の戻りもスムーズになります。
骨盤のゆがみが気になるなら、骨盤矯正よりも筋肉をケアすることを意識して、無理のない範囲で体を整えていきましょう。
骨盤を支える骨盤底筋を鍛えよう
産後は骨盤の中の臓器や恥骨、坐骨を支える骨盤底筋を鍛えることが大切。骨盤底筋は、姿勢を保ち排泄を正常に行うためにも必要な役割を担っています。
出産時には骨盤底筋にも大きな負荷がかかるため、赤ちゃんの重みや分娩の影響で筋力が低下しがち。そのまま放置すると、姿勢の悪化やぽっこりおなかの原因になりかねません。
適切なケアとエクササイズで、骨盤底筋を鍛えることを意識していきましょう。
腰痛や尿漏れの予防にも
骨盤を正しい位置に保ち、姿勢を安定させる重要な役割を持っている骨盤底筋。産後に骨盤底筋が弱ると、骨盤の安定性が低下して姿勢を保ちにくくなることがあり、腰痛につながると考えられています。また、骨盤底筋が衰えることで膀胱や尿道を支える力が低下し、せきやくしゃみをした際に尿漏れが起こる場合もあります。
骨盤底筋を鍛えると、こうした不調の軽減が期待できるでしょう。さらに、骨盤が安定すると姿勢が整いやすくなり、結果として下腹が引き締まって見えることもメリットです。隙間時間に取り入れられる簡単なエクササイズを習慣化すると、無理なく筋力を強化できます。
エクササイズを取り入れて腰痛や尿漏れを予防しながら、快適で自信を持てる毎日を目指しましょう。
隙間時間に!骨盤底筋のセルフケア
骨盤底筋を鍛えるには、特別な道具や長時間のトレーニングは必要ありません。寝ているときや座っているときなど、隙間時間に簡単にできる方法を取り入れることで、いつでも鍛えられます。
骨盤底筋は、適度にしなやかで伸縮性のある状態が理想的。柔軟性がなければ筋肉が固まり、骨盤をよい位置にキープしづらくなります。例えば、次のようなエクササイズは、簡単かつ短時間でできるのでおすすめです。
- 腹式呼吸
おなかをふくらませるように大きく息を吸い、ゆっくり吐き出します。吐ききった状態で5秒キープ。これを繰り返すことで、骨盤底筋を意識的に動かせます。
- ヒップリフト
仰向けに寝て膝を立て、腰を持ち上げてお尻に力を入れて5秒キープ。その後、5秒かけてゆっくり下ろします。骨盤底筋と下半身全体の筋肉を鍛えられます。
- 骨盤底筋締めトレーニング
尿を我慢するような感覚で、骨盤底筋に力を入れて5秒ほどキープした後、ゆっくり力を抜きます。寝ているときや座っているとき、立っているときなど、いつでも行えるエクササイズです。
日常生活の中で少し意識するだけで、骨盤底筋を鍛えることは可能です。手軽なセルフケアを取り入れながら、骨盤を支える筋力を少しずつ強化していきましょう。
サポートグッズを取り入れよう
赤ちゃんを抱っこしたり授乳したりしていると、つい前かがみの姿勢になってしまいがち。肩や腰がガチガチになったり疲れが取れにくい状態が続いたりすると、骨盤の位置が戻りにくくなる要因にもなります。
しかし育児の忙しい毎日で、意識的に姿勢を正すのは難しいもの。だからこそ、サポートグッズをうまく活用しましょう。
例えば、授乳クッションを使うと腕や肩の負担が減り、自然と楽な姿勢をキープできます。骨盤を安定させるためには、骨盤ベルトを活用するのも有効です。
普段の生活に取り入れやすいアイテムを活用しながら、無理なくケアしていきましょう。
この記事の監修者
勝どきウィメンズクリニック院長| 松葉 悠子

—プロフィール—
これまで周産期センターでの勤務を中心に産婦人科診療に研修、従事。東京大学医学部付属病院、日立製作所日立総合病院、恩賜財団母子愛育会 愛育病院などの勤務を経て、2015年に勝どきウィメンズクリニックを開業。2024年には晴海ウィメンズクリニックも開業し、理事長に就任。
— 経歴 —
金沢大学医学部医学科卒
東京大学医学部付属病院・日立製作所 日立総合病院・東京都保健医療公社 豊島病院・恩賜財団母子愛育会 愛育病院などに勤務