──演出家としての久部を菅田さんはどのように見ていますか?
ギアが入ってくると、うるさいです(笑)。
──蜷川幸雄さんに憧れていることもあり、かつての蜷川さんを意識するようなとこともあったのでしょうか?
ここは三谷さんとも相談をしたのですが…久部って意外とちゃんとしているなと思ったのは、自分の理想ややりたいことがあるものの、役者それぞれに合った演出をするんです。ちゃんと人を見ていて、きっとセンスはあって、間違ってはいないんだろうな、と。ただ、人として…という(笑)。
菅田将暉「人として…」と語る久部との共通点は?
──ご自身が久部と似ていると思う部分はありますか?
久部ほどではないですが、僕も割とわがままなので…似ているのでしょうか。野心があって、自分の大好きなものがあって、それに邁進しているときにほかのことがあまり気にならないというか、犠牲にしていく感じは理解できます。
義経もそういう描き方だったので、きっと三谷さんに僕はそう思われているんでしょうね。…あまり否定もできないです(笑)。

──思いが理解できるということは、演じやすさにつながるのでしょうか?
どうなんでしょう。久部は人の気持ちを無視したり、人の話を聞かないというところがあって。それはコメディの鉄則なんです。相手の言葉を聞きすぎると間がズレるし、自分の発言が弱るので、聞かないということは大切で。でも、その無視する度合いが難しくて、僕はコメディ向いていないなと思います。
──クランクインから時間が経った今でも、その部分は探っている状況ですか?
そうですね。台本に「(聞いてない)」とよく書かれているんですけど、お芝居的には聞いていないといけないので、難しいです。
──劇中、久部は「(観客は)わかりやすさなんか求めてない」などと芝居論を明かす場面があります。久部の考えについてどう思いますか?
久部の言いたいことは、わからなくはないです。わかりやすく伝えようとしなくていい、もう少しお客さんを信じて表現に徹すればいいのにという話なので。…永遠のテーマですよね、これは。
でも、久部の「客に迎合するな」とか「そんなわかりやすいことはしなくていい」って、1回“わかりやすいこと”をちゃんとやり切った人が言うべきだとも思います。1度、ちゃんとわかりやく伝える芝居をやって、評価されたうえで言うなら説得力があるけど、久部の場合は口先だけなので。
結局、その考えでお客さんが入っていないし、名をはせることもできていないし、評価もされていないわけで。久部には説得力がまったくないです。
ただ、それでいいと思うんです。視聴者の皆さんには「なんだ、こいつ」と見てもらいつつ、「なんかすごく一生懸命だな」と思ってもらえることが大切かなと思っています。

──衣装などビジュアルに関して、菅田さんが新鮮に感じたものはありますか?
スタイリストさんにコーディネートしてもらっているのですが、当時のものをただ再現するわけではなく、現代のものも混ぜています。
とは言いつつも、1984年に近い年代につくられたものも身につけさせてもらっていて。映像ではわからないかもしれませんが、エルメス、カルティエ、サンローラン、ラルフローレンという結構いいものを身につけているんです。久部が着ると高そうに見えないんですけど(笑)。当時のものって、つくりも丁寧ですし、すごく丈夫ですよね。あとは、ちょっと変な形をしているところも気に入っています。
そういったものに触れて、新しい刺激があるかと聞かれると難しいですが…コートの丈が長いので、バサバサと動かしていると、シェイクスピアの作品を演じるときにやるマント捌(さば)きに似ているし、「これは、ぽいな」と。テレビドラマでやるほかの役ではあまりできない動きができるなと感じました。
──高いものも身につけているということですが、おしゃれな人物なのでしょうか?
おしゃれではないと思います。でも、舞台の初日、ジャケットにタートルネックを合わせる感じはいいムード。当時の演出家という雰囲気が出ているんじゃないかなと思います。