──大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)以来2度目の三谷作品となります。久しぶりに三谷さんと作品を作るうえで思うことはありましたか?
『鎌倉殿の13人』で源義経役をやらせていただいて、すごく大変だったし、難しかったのですが、楽しかったんです。なので、純粋にご一緒できるのがうれしかったです。
三谷さんの書くお話って、人間が常に多面的に動いていて。今回のドラマでも、コメディにも振れるし、シリアスにも振れるのですが、同じ画面にいるのに、かたや爆笑していて、かたや号泣しているみたいなシーンの連続なんです。
20人が爆笑していても自分だけ泣いていなければいけないこともあるので、役者としては大変です。でも、コメディもシリアスも両方あるというのは面白くて。それに、三谷さんの書く、大人数の群像劇に携われることが楽しみで、ワクワクしていました。
菅田将暉演じる演出家・久部は「自分勝手」このドラマは“悲劇”
──三谷さんが書く人物の魅力は、どこにあると考えていますか?
三谷さんはやっぱり人をよく見ているんだと思います。現場にも来てくださるのですが、この間、イメージであて書きをしたら、そのまんまの人だったみたいなことが結構あるというお話をされていて。今回も僕を含めてあて書きの方が何人かいるようなのですが、「こんなふうに見えてるんだ」と思うと、演じながらショックを受けることもあるんですけど(笑)。
でも、その人の素質が出ているというか、「この人じゃなきゃ、このニュアンスは出ないよな」というものがあるというか。三谷さんに聞くと、脚本を書くときにキャラクターが勝手にしゃべりだすことがあるそうなので、直観力がすごいのかもしれません。
ドラマという長期で撮影するけどスピード感のある現場だと、演じる人のパーソナリティが少なからず役に影響を与えることもあるし、それが“いい味”になって見えてくるところが魅力だと思います。

──蜷川幸雄さんに憧れる若き演出家・久部三成はどのような人物ですか?もし、三谷さんと話したことがあれば合わせて聞かせてください。
セリフでもよく言われているのですが、演劇に対する熱量、蜷川幸雄先生に対する愛情、シェイクスピアに対する愛情みたいなものは本物なんでしょうけど、本当に“それだけ”。三谷さんからは、本読みの際に「もっと自分勝手で」「あんまり人の話を聞かなくていい」「セリフを受けすぎなくていい」と言われました。
そのあたりは僕自身、徹底しているのですが…久部は本当に自分勝手なんです。周りに対して誰もが「そりゃ嫌われるよな…」と思うことをやっていくわけです(笑)。テレビドラマの主人公は、犯罪者であっても好かれていくことが多いのに。
でも、そんなダメな部分を好きになってもらいつつ、嫌われたらいいなと思いながら演じています。どんな話なんだという感じですよね。これは喜劇ではなく悲劇だと思ってください。本当に見てられないですから(笑)。

──見ていられないほどの役のなかに、好きな部分や演じていて楽しいことはありますか?
個人的には、登場人物がそれぞれに自分勝手に動く作品が好きで。調和をとろうとしないが故にいろいろなことが起きて、それぞれの個性も爆発していくというのは、演じていて楽しいです。
──久部は、愛すべき役ですか?
どうなんだろう…僕としては愛すべき役だなと思います。でも、自分で演じていてもたまに「本当にいい加減にしろよ」とは思います(笑)。そういう人間として“ダメ”な感じを全力でやれるのって、お芝居くらいなので楽しいです。