――木村さんの印象はいかがですか?
井上:いろいろな作品を拝見しましたが、いつもセリフを言うリズム、感情の込め方が的確で驚かされていました。少し前に、変な脚本家を演じられた役はリアルでしたね(笑)。
いつかご一緒したくて、いろいろなところでお名前を出していたので、願いが叶ってうれしかったです。今回の現場でも抜群の表現力。脚本家が本気で頼りにできる女優さんです。

西谷:第1話の冒頭、愛実が走って海に飛び込むシーンがありましたが、木村さんはダイビングの経験があると聞いたので、それなら大丈夫だろうと思ってお願いしました。
撮影は条件に恵まれて、テストと本番の2回撮ることができました。テスト撮影でも飛び込んでもらったんですが、テストも本番も一発OK。その後、両方の映像をコマ送りで確認したら、どちらも埠頭(ふとう)の端ギリギリ、ほぼ同じ位置で踏み切っていて。その身体能力の高さに驚きました。
あとは、初めてお会いしたときの笑顔がすごく素敵だったので、彼女の笑顔を見たいと思わせるドラマにしようと。“ラウールさんが愛実の笑顔を導き出して、木村さんが表現する”という指針が最初の段階で固まりました。
パリコレで歩くラウールを見て、出演作をチェック
――ラウールさんの印象を聞かせてください。
井上:Snow Manのセンターでダンスに華のある方ということは知っていました。ちょうどこの企画を立てているときに、友人のご家族であるファッションデザイナー・三原康裕さんのコレクションを着たラウールさんがパリコレに出ていて。
超個性的な服と、顔にテープを巻いた奇妙なメイクを真面目な顔で着こなしている姿がなんだかおかしくて。「もしかしたら、別人になることを楽しめる方かもしれない」と思って。
たまたま、フジテレビ制作の映画『赤羽骨子のボディガード』(2024年)が公開直前だったので、スタッフに頼んで見せていただきました。すぐに監督にも「見て!」と言ったのを覚えています。カヲルと大雅という2つの顔を繊細かつ意外なお芝居で見せてくれ、助けられています。

西谷:ラウールさんは、台本や芝居の話ではなく、プライベートのことや生き方についていろいろ話すところから始めました。
そのなかで、彼は感情がとても豊かだけれど、あえて表に出さないアーティストとしてのスタンスなのかな?と。ラウールさんにはストレートに感情を出してもらったり、裏腹な表情だったり、リハーサルを積んで本番に臨みました。
カヲルの帽子はイメージと違った!?「2人のせつなさが引き立った」
――お2人が特に力を入れた場面はありますか?
井上:私は小道具ですね。ペン、本、手紙の紙切れ、帽子、日傘…一生懸命考えて、いろいろ入れました。「君たち、“いい仕事”をしてくれよ」と願いを込めて(笑)。物語後半になるにつれ、頑張ってくれると思います。
ちなみに第6話で登場したカヲルの帽子ですが、私のイメージだともうちょっとカッコいいものだったんです。でも、西谷さんが、どこにでも売っているような普通の帽子にしてくれて、「こっちのほうが正解だな」と思いました。普通の帽子だからこそ、あの2人のせつなさが引き立ちましたね。
西谷:愛実とカヲルが帽子を買ったお店は、庶民的な商店街にあるので、あまり奇抜なものは置いてないでしょうし。木村さんとラウールさんは何でも似合うし、むしろ少しダサい帽子のほうが愛嬌があっていいんじゃないかと。

――西谷監督が特にこだわった場面はありますか?
西谷:もちろん全部こだわって作っていますが、井上さんの脚本は“文学”であり、1話1時間の中で物語の“大きなへそ”がいくつかあるので、 そこは特にこだわって撮っています。
――カヲルのホスト寮の屋上から臨む夕日は本当に美しく、印象的です。
西谷:スタッフのみなさんにお願いして、撮影時間をたっぷり取ってもらいました。たった数分のシーンでも、実際には20分以上のシーンを作って編集しています。天候の問題もあって粘りましたし、屋上での2人きりのシーンは、脚本や演出という枠を超えて、モキュメンタリーのように映るといいなと思いました。