みなさんは、開催終了までわずかとなった世界的なファッションデザイナー・コシノヒロコさんのこれまでで最大規模の展覧会、『(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-』(~7月26日)に来場されましたか?
筆者は、同展が開催されている東京都現代美術館(江東区三好)に行って、コシノヒロコさんご本人にお話を伺ってきました。
「ただ服を見せる場ではない」コシノヒロコが語る展覧会の新説
「この展覧会では、“ただこんなに服を作ってきました”というのを見せるのではなく、自分がファッション作りにかけてきたエネルギーを感じてもらいたいのです。作品をつぶさに見ていただいて、この時代にはどんなことを考えていたのか、日本というイメージをどのように表現しようとしていたのか、などを考えるきっかけになってもらえれば、と思います」と語るコシノヒロコさん。
柿渋染めから綿布団まで!ドレスに宿る和の美意識
そんな思いの詰まった展覧会は、5つのテーマから構成されていて、約200点のコレクション作品や約130点の絵画作品などが披露されています。最初の「01 原体験と想像力-コシノヒロコの世界」には、ご本人が「60年、70年コレクションを続けるのは本当に大変だった」とキャリアを振り返るコレクションの数々が、吹き抜けを貫く巨大な絵画作品とともに飾られています。
絵画もすべてコシノヒロコさんの手によるものです。小さい頃から絵を描くのが好きで、常にアートとファッションのデザインを一体化して考えてきたといいます。
「子どもの頃から歌舞伎などを見て、和の美意識が自然と自分の血の中に入っているので、それを活かした作品が多くなっています。世界に向けて仕事をするということは日本の美しさをひとつの武器にしないと意味がないのです」と語るコシノヒロコさんの視点から、筆者が何点かピックアップしてご紹介します。
まずは、シルクを柿渋で染めて、うるしでペイントしたというドレス。バックにある大きな墨絵と呼応するような日本の伝統美を感じる凛とした作品です。
しばらく参加していなかったパリ・コレクションに15年ぶりに復帰したときのフィナーレを飾ったイブニングドレスは、綿布団からインスピレーションを得たもの。ボディにプリントされている滝のモチーフは、歌舞伎『助六由縁江戸桜』に登場する花魁(おいらん)が身に着ける俎板帯(まないたおび)を参考にしたそうです。
同じ並びには、折り紙の発想で仕立てた紙の服に直接墨で絵を描いたドレスもありました。まさにJAPAN!です。
無名時代に安藤忠雄氏へ設計を依頼した「自宅」
次の「02 交錯する美学 -コシノヒロコと日本的モダニティ」では、コシノヒロコさんのドレスと、同じ時代のアート作品などが対で展示されています。パッと目に入ってくるのは、アート好きな方にはおなじみかと思われる倉俣史朗さんの透明なチェア。
透明なアクリルの中に赤いバラが封じ込まれている《ミス・ブランチ》です。コシノヒロコさんと同じように、倉俣史朗さんはインテリアデザインの分野で世界に認められました。照明に照らされた影がまたアートです。
神戸・芦屋のご自宅(現在は、KHギャラリー芦屋)の建築模型もありました。「当時はまだ無名で、海外に出て行って何で勝負できるのかな、と考えたときに、日本人のように四季をテーマにしながら文化を作り上げてきている国はほかにはない。だから、山の中に家を建てて、四季が手に取って見えるような世界に身を置いて本物を作ろうと思った」と、当時、同じように無名だった友人の安藤忠雄さんに設計を依頼しました。
模型の隣にあるドレスは、安藤忠雄さんの打ちっぱなしのコンクリートの表情から着想を得たそうです。繊細な素材の質感が際立っています。
壁の棚の食器などは、ご自宅を建てるために多額の借金をしたコシノヒロコさんが、生きるすべを自分で編み出さないと、と考え付いたライセンスビジネスから生まれたプロダクト。「食器とかハンカチとか、ありとあらゆる会社を訪問して、私にデザインをやらせてください、と売り込みに回りました」とのこと。1986年にデザインした食器シリーズは40年以上たった今でも売れ続けているそうです。
富士山がモチーフのオーバーコートは、芸術・文化のノーベル賞とも称される高松宮殿下記念世界文化賞の受賞者である李禹煥(リ・ウファン)さんの作品とセットで展示されています。
この絵は東京都現代美術館の所蔵品で、コシノヒロコさんは「目線が一緒だな、と思った」と、この組み合わせに決めたそうです。ちなみに、安藤忠雄さんも世界文化賞受賞者です。この部屋には、ほかにもそうそうたる日本人アーティストの作品があり、日本のクリエイションの高さを実感します。
フランス人作家と国境を越えたテキスタイルの競演
次の「03コラボレーション-群像」では、コシノヒロコさんが「3つの色だけ選んで、ひらめいた色と形を表現する、という、ひらめきを瞬時に表現するトレーニングのために描いた絵です」と語る、最新の絵画作品が壁一面に飾られています。これほどのキャリアがありながら、いまだにひらめきを具現化する努力を続けている姿に感服します。
大きなリング状のハンガーに掛けられているのは、フランス人アーティストであるマティルド・ドゥニーズさんによる作品群。実はところどころに、コシノヒロコさんのコレクションで用いられたテキスタイルが散りばめられている、国境を越えたコラボレーションなのです。どの部分かしら?と目を凝らして見てみてください。
