草間彌生さんは、香川・直島の巨大なかぼちゃの野外彫刻や、ルイ・ヴィトンとのコラボなどで、世界中から注目され続けるアーティストです。
その草間さんが設立した東京・早稲田の「草間彌生美術館」で開催中の展覧会「クサマズ・ポップ」(~8月30日)に行ってきました。
草間彌生ならではの“ポップ”をテーマにした表現の数々
エントランスを入るとすぐ、真っ赤な水玉の世界が広がっていて、いきなりポップな気分になります。大きなバルーンのそばにある長方形のボックスは何かしら…と、近づいて見てみると、自動販売機でした。
コカ・コーラ No Reason アートプロジェクト 2001、日本コカ・コーラ《Dots on Vending Machines》
[自動販売機を覆う水玉]のためのプロトタイプ ©YAYOI KUSAMA
これは、草間さんが2001年にコカ・コーラの広告プロジェクトの一環として制作したもので、中の缶も同じ水玉柄です。
まさに暑さを吹き飛ばすような、ポップでインパクト抜群のデザインが印象的です。ただし、こちらはアート作品なので実際にコーラを買うことはできません。
ちなみに長野の松本市美術館には草間さんとコラボした同様の水玉柄の自販機があり、水玉缶とはいきませんが、普通のドリンクなら購入は可能です。
コカ・コーラ No Reason アートプロジェクト 2001、日本コカ・コーラ《Dots on Vending Machines》
[自動販売機を覆う水玉]のためのプロトタイプ ©YAYOI KUSAMA
草間さんは、幼少期に「身体中が水玉に覆われてしまう」という幻覚を見て、その恐怖から逃れるために、水玉を作品にしはじめたそうですが、そこから生まれた「水玉アート」は、見る人に元気を与えてくれます。
見学ルートの階段の壁面にも、赤い水玉模様がデザインされていて「次の階にはどんな作品があるのかしら?」とウキウキします。
2階の展示スペースの中央には、シルバーに光るスレンダーなマネキンがありました。よく見ると全身がマカロニで埋め尽くされています。作品名もそのままの《マカロニィガール》。
右)《無題》(1983年)© YAYOI KUSAMA
草間さんは1960年代から、こうしたマカロニをテーマにした作品を手がけていて、その理由を「何千フィートものマカロニを食べ続けることに似ている」と語っています。
大量に機械生産される画一的な食品への皮肉と、それを食べ続けることに対する強迫観念を形にしたものといわれています。
《マカロニィガール》(1999年)高橋龍太郎コレクション蔵© YAYOI KUSAMA
そのお隣には、かわいいハイヒールの絵が色違いで4点展示されています(写真はそのうちの1点)。草間さんは、1960年代にニューヨークを拠点に活動していましたが、その頃は、日常のありふれたイメージを美術にとりこむポップ・アートが盛んでした。生活に欠かせない靴は、草間さんにとっては消費社会の欲望の対象物で、作品のモチーフとしてたびたび登場します。
カラフルな水玉が反射し合う!世界初公開された小型ミラールーム
同じタッチの自画像もキュートでした。顔も髪も洋服もみんな水玉なのに、なぜか自然に見えるから不思議です。赤毛のボブスタイルがヴィヴィッドな、最近の草間さんとはかけ離れたイメージが新鮮でもありました。
草間さんといえば、強烈な色彩の作品を見る機会が多いなか、15人の少女が描かれた作品も淡い色合いで気になりました。髪型も洋服もひとりひとり違って、少女たちの個性がしっかり表現されています。
3階には、今回、世界初公開された作品があります。ところどころに丸い穴のあいた小型ミラールーム《天国へのぼった階段で見た宇宙の姿》です。
みなさん、箱に開けられた穴から熱心に中をのぞきこんでいます。何が見えるのでしょうか?
中には、色とりどりの水玉が反射し合い無限の宇宙のように広がっていました!4面のほぼすべての穴から見てみましたが、ある穴からは一面が赤く見えたり、別の穴からは円が球体に見えたり、ひとつひとつ見え方が異なり、楽しさも無限大です。
筆者だけでなく、来場者はみなさんその“草間マジック”に夢中で、中の万華鏡に自分の姿を映してスマホで撮影できるとわかると、「見て、見て!」と声をあげる方もいました。
外側が、上下、四方が鏡面のため、周囲に掲示されたカラフルな大型作品が写り込むのも面白いところ。どこに立つとどんな風に見えるのか、みなさん、カメラを構える位置を変えて、それぞれの写真アートを追求していました。
4階には、筆者が思わず「これ、買えるんですか?」と美術館の方に聞いてしまった、女子心をくすぐるアイテムが並んでいます。
iida「Art Editions YAYOI KUSAMA」(KDDI株式会社)の携帯電話
左から)《ドッツ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい》、《宇宙へ行くときのハンドバッグ》、《私の犬のリンリン》
2009年© YAYOI KUSAMA
これは、2009年にKDDI株式会社とのコラボレーションで実現した携帯電話と草間アートが合体した「iida Art Editions YAYOI KUSAMA」。ピンクの水玉柄のワンちゃんのオブジェは《私の犬のリンリン》。背中のフタをあけると同じ柄の携帯電話が収まる仕様で、当時、100台限定で販売され、価格は100万円だったそうです。アートのお値段ですね。
もう少しお手軽だったのが、一見、小ぶりなバッグながら、開けると携帯電話、という《宇宙へ行くときのハンドバッグ》。こちらは、当時、1000台の限定販売で、価格は10万円。草間さんはかねてから、人々の日常空間に溶け込んだ大量生産される芸術というあり方も提示しており、誰もが持ち歩く携帯電話とアートの融合を試みたわけです。
この日はあいにくの雨模様でしたが、開館前から多くの外国の方が列を作っていました。キャリーバッグを持って並んでいたフランス人のご夫妻に、お話を聞いたところ「スイスでの草間さんの展覧会が素晴らしかったので、3週間の日本旅行の最終日にこちらに来ました」とのこと。
鑑賞後は、そのまま帰国の途に就くそうで、日本旅行の締めくくりにふさわしい思い出になったことでしょう。
草間さんは、2006年に文化芸術の“ノーベル賞”とも称される「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞していますが、雨の中でも多くの外国の方が足を運ぶ、世界のアーティスト・草間彌生のパワーをあらためて実感しました。
