日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎と、現代的な強さと自由な心を持つ応為。芸術面はもとより、その人間的な魅力を髙橋さんと大森監督が深掘りします。

応為の魅力「才能があるのに一歩引いているところがかっこいい」 

――本作では、北斎の尖った部分やエキセントリックな面よりも、より人間性に着目している印象を受けました。この映画を通して、北斎のどのような部分を描きたい、知ってもらいたいと思いましたか?

髙橋:偶然にも本作とは別軸で北斎展のアンバサダーも務めさせていただき(※『ぜんぶ、北斎のしわざでした。』展)、この作品に出演してから、北斎について深く調べる機会が多くありました。いろいろ勉強して感じたのは、北斎は「自由」と「何かに追われている」という2つの感覚を持っていたのではないかなと。その“何か”というのは“命の終わり”で、「長生きしたい、死にたくない」と願いながら、この世界を自由に捉えていろいろなものを描きたいと思っている。その生き様が北斎の一番素敵なところだと思いますし、それが絵にも表れている。

繊細さとパワフルさ、絵の持つエネルギーが爆発しているのは、そういうところから来ているのかなと感じます。北斎は高尚な存在で、手の届かない雲の上の人という印象が強いですが、この映画での北斎は「近所の絵が好きなおじいちゃん」に見えてきて、もちろん凄(すご)みもあるけれど、ただ一生懸命に生きているところが、どんどん可愛く思えてくるところも魅力だなという感じです。

大森:時代こそ違いますが、北斎は僕らと同じように生きていた人間です。もちろん天才で、絵を描くことには突出していますが、犬が死んだら悲しみ、大切な人が亡くなった時には誰よりも悲しむ。悩みもあり、普通の感覚を持っているからこそ、「猫一匹もまだ描けない」「命を吹き込みたい」といった北斎の有名な言葉が生まれたのだと思います。普段の生活を大切にしているからこそそう感じるのではないか、そういう視点でこの作品を作りました。

ただ、手が届かない存在にしてしまうと、北斎の絵やお栄の描いたものに触れられない気がする。彼らの生活は世の中の常識から見ると少し変わっているかもしれませんが、彼らなりにハッピーに生きているように感じていて。今の私たちは情報が多い中で生きているので、シンプルに生きている彼らから新しいメッセージをもらえる気持ちになったらいいなと思います。

――そんな北斎の娘・応為の魅力を改めて教えてください。

髙橋:応為は、いま監督がおっしゃった北斎の印象に近く、「生きているな」という感じがしました。すごく人間らしくて、身近なものからいろいろな刺激を受けている。「世界を見に行こう」とか「大きなことをしよう」というよりも、自分の人生の範囲で得られる情報をしっかり受け取り、絵にしている。だから一生懸命に生きていて、地に足がついているとも言える。めちゃくちゃ素敵な人で、背伸びをしているわけではなくパワフルでチャーミングで、繊細な部分もある。シンプルに人間として心に刺さる存在だと思います。今はネットで世界中とつながれる時代ですが、身近なことは意外と見過ごしがちな気がします。そういうものにも目を向けたいと強く感じました。

大森:応為は素晴らしい才能があり、絵も残しているけれども、北斎のそばで支える人生を選んでいます。そのことを同情もされたくないし、「それでいいんだ」と思っている。そこに成熟した大人のかっこよさを感じます。今はみんなが「俺が!俺が!」と自分を表現したい時代ですが、そんな才能があるのに、一歩引いているところにすごくかっこよさを感じます。

撮影:河井彩美

髙橋海人さん
ヘアメイク:橋場由利佳
スタイリング:丹ちひろ(YKP)

映画『おーい、応為』10月17日(金)全国ロードショー

配給: 東京テアトル、ヨアケ

監督・脚本:大森立嗣

キャスト:長澤まさみ 永瀬正敏 髙橋海人

原作:飯島虚心 『葛飾北斎伝』(岩波文庫刊)

杉浦日向子 『百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」