――ほかにも今とは違う撮り方はありましたか?
平野:山口智子さん主演の『29歳のクリスマス』(1994年)というドラマで、僕は助監督として参加させてもらったのですが、最終回、台本で18ページにもわたる長いシーンがありまして。
登場人物が山口さんと松下由樹さんの2人だからまだよかったけど、そのシーンを滞りなく成立させるために僕らは現場で役者さんにキュー(セリフや動きのタイミングの指示)を出さなきゃいけないんですよ。
そのとき、僕が担当するキューが11個くらいあったのかな。スタジオ中をカメラに見切れないよう動き回って、キューを出したら次の人のところへ行って、それが終わったらまた相手のところへ行って…みたいな。
さすがに今はキュー出しによる撮影はなくなっていますが、あの頃の助監督にとってはすごく勉強になっていたりもするわけですよ。
人の芝居を見てキューを出す、という作業が早くから刷り込まれている。「あ、目線下がった…よし、キューだ」みたいな、お芝居を見ることがすごく重要であるという時代でした。
「うわ、かっこいい!この人」山口智子の一言に感動
ちなみに、僕の最後の11キュー目だったのが、柳葉敏郎さんが新幹線の切符を忘れて取りにくるというラストのシーン。
それまで山口さんと松下さんが2人きりで、涙を流したり、頬を張ったりしてものすごい芝居を見せてくれていて。あまりにも2人の芝居が真剣で熱かったものですから、もしかしたら緊張したのかもしれませんね…柳葉さんがセリフを噛んじゃったんですよ。
――現場の空気を想像しただけで怖いですが、どうなったのでしょうか?
平野:もちろんスタジオには気まずい空気みたいなものは流れましたが、やっぱり主役ですね、山口智子さんはさらっと「いいよ、もう1回やろう」と。「うわ、かっこいい!この人」と思いました(笑)。
そういった出来事も含めて面白い時代ではありました。そういう意味で、今は作り手にとって「間近で俳優の芝居を見る」という経験が少なくなっているかもしれません。