特別表彰部門 放送と公共性:優秀賞
『冤罪を生む刑事司法の壁に挑む検証報道』
テレビ報道は、警察情報に依拠した逮捕報道に時間と労力を注ぐ一方、その後の裁判を大きく取り上げることは少ない。冤罪の可能性が判明すれば逮捕後の検証取材を行うべきではないか。報道の現状に疑問を抱いた関西テレビの記者たちが、冤罪を生む構造や刑事裁判の実態に迫る取材に取り組んできた。
【審査講評】
法律の専門家である記者が志を同じくする2人の記者と協同し、警察や司法の壁を突き崩し、課題を明らかにした意義は大きい。テレビ報道の新しい価値を強く感じさせるとともに、日本におけるジャーナリズムの在り方への挑戦ともいえる取り組みが評価された。
放送日時:2021年11月2日〜2024年12月20日 『newsランナー』『ザ・ドキュメント』等
取材:上田大輔/赤穂雄大/菊谷雅美
(敬称略)
対象となった放送:
①「乳児窒息死冤罪事件」(『報道ランナー』2022年12月26日放送)

無罪確定からわずか10日後に冤罪を生む構造を検証。逮捕報道について当事者の声を紹介しつつ、マスメディアの責任として検証取材を行っていく重要性を訴えた。
②『ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群』(2023年7月7日放送)
虐待冤罪で起訴された父親が長期勾留された背景に「人質司法」の問題があると指摘。保釈決定を取り消し続けた裁判官を実名表記した。放送から8ヵ月後、国は「子ども虐待対応の手引き」からSBS診断基準などに関する記載を削除した。
③『ザ・ドキュメント 逆転裁判官の真意』(2023年11月24日放送)
“有罪推定”と言える日本の刑事裁判の実態をあぶり出す。ロス疑惑銃撃事件二審の裁判長が、初めてメディア取材で内幕を語るなど独自取材。記者の取材過程を示す構成と独自の映像表現で、刑事司法に関心がない層も引き込んだ。

④「プレサンス元社長冤罪事件」(『報道ランナー』2021年11月2日、2022年6月10日、
同年10月4日、『newsランナー』2024年6月11日、同年8月9日、同年12月20日放送)
史上初めて世に出た検察特捜部の取り調べ録音録画を独自入手し、スクープ。また、ほかのテレビ局が検事を匿名で報道するなか、当初から取り調べ検事と主任検事を実名報道。最高検からの指示で捜査方針を転換した”特捜部の暴走”を独自取材した。

⑤「白浜保険金殺人事件」(『newsランナー』2024年2月29日放送)
逮捕時に注目を集めた事件で一審が科学的証拠を十分吟味できていたか検証取材。「疑わしきは罰せず」に従うか注視すべきと考え、判決前に特集した。
⑥「今西事件」(『newsランナー』2024年7月26日、同年11月26日、同年11月28日放送)
5年半勾留された男性の保釈当日、独自取材を基に「逆転無罪の可能性が高い」と踏み込んだ記者
解説。判決前に刑事弁護人の葛藤に触れつつ裁判の詳細を伝える特集を放送した。判決当日、当
事者への偏見を強める要因について自己検証の必要性に言及した。
視聴はこちらから
①『乳児窒息死冤罪事件』の特集
https://www.youtube.com/watch?v=LNelDhPGJXE&t=8s
https://www.ktv.jp/news/feature/221226-enzai/
②『ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群』
https://www.ktv.jp/document/230707.html
③『ザ・ドキュメント 逆転裁判官の真意』
https://www.ktv.jp/document/231124.html
④「プレサンス元社長冤罪事件」の特集(2024年12月20日放送分)
https://www.youtube.com/watch?v=U-eAyF6w4i4&list=PLaIeKE1_j9N-WxzGQow6FMXcx2tv3bbfz&index=9&t=1115s
⑤「白浜保険金殺人事件」の特集
https://www.youtube.com/watch?v=E8ijTYTMAHw&t=514s
⑥「今西事件」の特集(2024年7月26日放送分)
https://www.youtube.com/watch?v=0Qm76-6c9vo&list=PLaIeKE1_j9N-WxzGQow6FMXcx2tv3bbfz&index=10&t=317s
<上田大輔&赤穂雄大&菊谷雅美(報道情報局報道センター)コメント

テレビ報道は、刑事司法に厳しい目を向けられているか。まだまだ道半ばです。今回の受賞は「まだ諦めず頑張れ」と背中を押していただいたような気持ちです。