「普通の人とオダギリさんの“中間”を作ろうと思った」(冨永)
――本作は、主人公の大桑が全国各地を巡る“ロードムービー”です。実際に各地でロケを行った理由と感想を教えてください。
オダギリ:コロナ禍もあり、地方ロケがなかなかできなかった期間を経て、「ようやく動き出した」ということも感じたくて、「日本中を巡るロードムービーにしたい」と思っていました。
冨永さんは脚本を書く際にいろいろなところに出向き、しっかりと下調べをする方なんですよね。そうした行動が脚本に活かされていると思うので、僕も参考にしなければと思いましたね。
冨永:大桑が次の目的地のヒントをもらって次の場所に進むという話にしたので、場所が曖昧では面白くないなと思って。 それに、オダギリさんの普段の生活が「家で一人で飲んでる」とか「飲みながら脚本書いてる」とか、僕と大体同じで(笑)。
大桑は、パッと思いついたらすぐそこに行く、そういう軽さみたいなものがある人である以上、撮影ではちゃんとそこに行って、「そこの土地のものを車の中で料理して食べる」という様子を、“至福の時間”として作りたかったんです。
――主人公が“プロアルバイター”という肩書きも新鮮ですね。
冨永:脚本の段階では“最強のアマチュア職人”という書き方をしていました。一通り道具を持っていて、特別な修業が必要なこと以外は今までのバイトの経験値でなんとなくできるようになってる人。そうなろうと思ってなってないけど、結果的に身についてしまった技術と道具がいっぱいあって、それが自分の車に収まっている。僕はそういう人が好きなところがあって、自分自分の意思じゃないんだけど、なぜか高いところが怖くなくなってしまってる人とか、必要があったらすぐ電柱に登れる人とか。
僕にいろんなバイトの経験がもっとあればアルバイトの内容も変わったかもしれないですね。
――これまでどんなアルバイトの経験がありますか?
冨永:清掃会社とジャズ喫茶です。
オダギリ:今、振り返ってたんですけれど、役者の勉強をしていた頃、何回かエキストラのバイトに参加したんですよ。でもその当時、若気の至りでアフロにしていたんですね。そしたら現場で目立ちすぎるから、「あいつを画面に入れるな」みたいなことになったんです。 「自分の個性は必要とされていないんだ」と切なくなって、バイト代ももらわず、二度と行かなくなったんですけれど。その時に「ちゃんと自分の個性を求められる俳優にならなければ」という考えに至ったのかもしれないですね。
――今回、企画段階から一緒に仕事をしていくうえで、意識したことはありますか?
冨永:主人公を自分たちと同年代としたところから、いろんな意味で自分たちに近い人になるんじゃないかなと思いつつ、“普通の人”にしようと思いました。強いて主人公っぽいところをあげるなら、借金を返すためにいろいろな仕事をして騙されまくっているという。それ以外は普通の人なんですよ。
だけど、オダギリさんが演じると普通にはならないから、普通の人とオダギリさんの“中間”を作ろうと思って。いつものことではあるんですけれど、オダギリさんはこちらの想像とはちょっと違った感じでやってくれるし、作品もろとも現場も楽しくしてくれるっていう。
オダギリさんは、今回はプロデューサー兼ということもあって、「今回は書いてあることだけやろうと思ってるんです」って初めにすごい決意を言われました。
オダギリ:僕はクリエイティブに関しては冨永さんを100%信用してますし、脚本に関しても、ほとんど意見はなかったんですよ。その上、今回はプロデューサーとして冨永さんが好きに作ってもらえる事を理想としていたので、自分の芝居はあくまで脚本に忠実にやりたかったし、即興で広げる必要もないと思っていたんですよね。
――共演者の松田美由紀さんが「オダギリ君の芝居が面白すぎる」とコメントしていました。演じるうえで意識したことはありますか?
オダギリ:いえいえ、脚本に書いてあることをやるだけで面白くなると思っていたので、すべて脚本のおかげ、冨永さんのおかげです。
ただ、たまに冨永さんから「ここはちょっと走ってみてください」とか、脚本とまったく違う芝居を求められて、驚いたことがありました。
脚本を書いているのが冨永監督なので、その演出に疑問を持つことはないんですが、脚本に縛られない自由さというのか、冨永さんの面白さを再発見できる場でしたね。
冨永:まず、現場でオダギリさんが一回歩いているのを見てから、「走りましょう」ってなったんだと思うんですよね。その場面を見て、カメラを覗いたときに走った方が良くなるんじゃないかって。やってもらって気づくことが多いです。俳優さんの演技を見て、自分が書いた人物を知れるというのはありがたいことです。
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