「考えて考えて、悩んで…」役作りの難しさに直面

――杏にはモデルとなった女性・ハナさん(仮名)がいます。実在した人物を演じるにあたり、どのように役を作りあげましたか?

まず脚本を読んで、受け取ったイメージから自分なりの想像を膨らませました。
その後、実際にハナさんと接して新聞記事を書かれた記者の方とお会し、長い時間をかけて彼女のことを聞き、お話しさせていただきました。

いろいろと考えるなかで、ハナさんご本人に映画で描いてほしいこと、描いてほしくないことを直接聞けない以上、彼女の人生を再現するのは違うだろうなと思って。
入江悠監督も「(この映画とハナさんを)どこかで切り離さなきゃいけないと思う」とおっしゃっていました。

あくまでも“香川杏”という役として捉えるように意識しましたが、それでも心の中にはずっとハナさんがいて、どこまで行っても離れることができなくて。
杏として生きるというのはどういうことか、考えて考えて悩んでいるうちに、だんだん気持ちが杏に向いて、クランクインしてからは集中できたと思います。

――河合さんから見て、杏はどんな女性だと思いますか?

一言で表現するのは難しいですが、“前進する力”がとても強いと感じました。杏が虐待、売春、薬物の荒んだ生活から踏み出せた最初のきっかけは、多々羅や桐野と出会ったことです。

でも、杏はちゃんと自分の意思を持って、人生を切り開いていった印象があります。もし私が杏と同じ状況に置かれたら、こんなふうに前に進めていたかな、と思うくらい強いです。

――特にそう感じたシーンや、監督の演出で印象的だった場面はありますか?

杏が、薬物更生者の自助グループに参加するシーンです。

多々羅がこのサークルを取り仕切り、プログラムの一環で参加者にヨガを教えているのですが、多々羅と親しくなった杏が自分のヨガマットを多々羅の隣に並べて、楽しそうにじゃれる場面があるんです。
多々羅を“信用できる大人”と認識して、甘えているんですよね。

ここで入江監督から、「杏は、多々羅たち大人がいたからではなく、ちゃんと自分の力を持っているから前に進めた。だから、多々羅に対して“借りてきた猫”みたいにならないほうがいい」と指導いただいて。それがすごく印象に残っています。