介護というよりは「とりあえず見守る」という感じ
――家族のお世話をしながらお仕事もされています。忙しい中でどのようなルーティンで書いているのでしょうか?
どうしても家族に振り回されがちにはなるので、ルーティンはないんですよね。仕事の帰りの電車でちょこちょこ考えたり、カフェや事務所に行って考えたりとか、なるべく隙間を縫って書く時間を作るようにしています。
出かける時は3人分のご飯を作り置きしていますが、自分の分はお皿等の洗い物をひとつでも減らしたかったり、面倒くさかったりで、フライパンから直接食べたりしちゃうことも。でもこうやって自分に対して気を遣わなくなっていくのは楽だけど、楽しくはないなあと思い直して、なるべくお皿に入れて食べるようにしています。
――歯医者さんの帰り道で「歯がなくなった!」と騒ぐお母さまのエピソードや、家族の下着を自室に溜めこむお姉さまの様子など、一筋縄ではいかない現実も書かれています。特に介護の渦中にいる人にとっては、肯定される気持ちになる内容なのではないでしょうか。
介護の役に立つ、情報があるという本ではないので、そういう方の箸休めになったり、笑ってもらえたりすることが1番うれしいです。
――認知症のお母さまから「嫌なことがあったら忘れたフリをしなさい」と言われたり、お父さまとにしおかさんの緊迫したケンカの最中に、お姉さまが「チーン、チーン」と仏壇の鐘をかぶせてくるシーンでは思わず笑いを誘われました。大変な日々にも笑いの瞬間があると気づかせてくれます。にしおかさんのお気に入りの回はありますか?
母と姉が組むと最強なので(笑)。全部の回がお気に入りなんですが、書き下ろしが4本と番外編が1本入っています。連載の1回目からずっと読んでくださっている方にも喜んでいただきたいなという思いがあるので、やっぱりその4話+1話ですかね。
――『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/著)になぞらえた、お母さまの「娘たちの個性を大切に育てる」という思いの詰まった番外編エピソードは泣けました。
母からしたら個性を大事に育てたら、どうしてだか「SMの女王様キャラ」になったという(笑)。母には、1冊目出版の時にうれしくてつい「家族のことを書いた本が出る」と伝えてしまいましたが、もう覚えていないかなあ。どうですかねえ。
胸を張って出している本ですが、母が読むと、娘にこんなにも迷惑をかけているのかとか落ち込む気がするので、もうあえては伝えないです。
――家族と向き合う中で大切にしていることは?
母に関しては、まだできることもたくさんありますが、難しくなっていることもあって、見ていて不安な時もあるんです。だけど、私が心配だからといって「ダメ」と言うと、母の行動範囲が狭くなってしまうので言わないです。
例えば「スーパーに行ってくる」となったら、「帰ってこれなくなったらどうしよう、転んだらどうしよう」と心配になる。もし何かあったら後悔しますけれど、もうそれも本人の人生だからと割り切るようにしています。介護というよりは、「とりあえず見守る」という感じです。
母も姉も携帯を肌身離さず持っているので、そこにアプリで追跡できるストラップ型の「AirTag(エアタグ)」をつけたのですが、思った以上に自分がホッとしたんですよね。まだ迷子になってないし、帰れなくなったこともないんですけれど、私の心の安定のためにも良かったなと思います。