楽曲制作にあたり、「より多くの人に届くように」と意識が変化してきたと語る十明さん。制作に影響を与えている「想像力を膨らませるような時間」について聞きました。
「私だけの気持ちだったのに」から「たくさんの人に届くように」への変化
――『1R+1』では、より曲の持つ物語性が強くなったように感じます。
そうですね、『変身のレシピ』までは、ドラマチックなワンシーンを切り取るようなイメージで曲を作っていましたが、今回は長く続く生活の流れをイメージできる、物語の前後をイメージしやすい曲が増えたのかなと思います。
――曲作りにどのような変化があったのでしょう?
1年半くらい日記を書いていて、自分の気持ちを言葉にする習慣をつけたことが影響していると思います。でも、いいことだけではなく、日記を書いたが故に「感情を簡潔に表現してしまうこと」に対しての違和感も同時にあって。むしろ言語化しにくい感情を音楽にしたい気持ちが芽生えました。
――作詞・作曲・編曲、そして歌唱とトータルで世界観を構築しています。自分のことを完璧主義だと思いますか?
意外と完璧主義ではないと思っています。自分が思い描いていたものが変わってしまう時に、恐怖や不安は生まれますが、受け取る人に自由に受け取ってもらうものなのだと思うようになりました。表現の軸がずれてしまうのであれば気になりますが、作ったものが私だけのものだったところから広がっていくことに面白さも感じます。最近は自分の想像をたくさんの人と一緒に、より多くの人に届くように広げていくほうに心が向いています。
――変わってきたということでしょうか?
これまでは、「私だけの気持ちだったのに」みたいな、自分の曲が聴いた人のものになることにちょっと怖さがあったというか…。表現していくうえでの大きな矛盾ですが、「届けたい」と言っているのに、「相手に受け取ってほしくない」、そしてそれを「広げてほしくない」みたいな気持ちがありました。
でも最近は「人に届けたい」気持ちがすごく大きくなってきて。そのために、「みんなが感じたことを、まとめて届けられるようになれたらいいな」と、少しずつ変わってきたように思います。大人になり始めております(笑)。
――音楽以外で制作に影響を与えていること、好きなことを教えてください。
本を読むこと、映画を見ること、1人でスマホを触らない時間を設けること。散歩するとか、ぼーっとするとか、そういう時間を大切にしています。想像力を膨らませるような時間が好きなので、趣味みたいなものなのですが。
――本や映画をアーティスト目線で見てしまい、逆に疲れたりしませんか?
音楽を聴くと、時々「うわわ!すごい」みたいな、嫉妬ではなく憧れが湧いたり、自分の制作のことを考えたりしてしまうのですが。小説や映画だと、自分ができなかった表現を文字や映像で見せてくれているので、自分の生活や感情を膨らませるのは「音楽だけじゃないんだ」という気持ちになります。
――今後目指すアーティスト像と目標を教えてください。
誰かの「言葉にならないような複雑な感情」を、音と言葉の両方を使って受け止めるような曲を作れたらうれしいです。優しくもあり、意地悪でもある、人間味のあるアーティストになっていきたいなと思っています。
――ツアーも11月から始まります。意気込みをお願いします。
少しずつ「生身の人間」としての音楽を作ることができるようになってきたかなと思うので、生身の私の歌声を直に聴いてほしいです。自分の曲を聴いて、何かを感じてくれた人と直接お会いできる場でもあるので、ライブにぜひ会いに来てほしいです。ライブ頑張ります!
撮影:河井彩美
【十明 プロフィール】
2003年生まれのシンガーソングライター。
中学時代はブラスバンドにてオーボエを担当。高校生になり軽音楽部に入部。念願だったバンドを結成したものの、1年も経たずに解散。仕方なく一人で弾き語りを始める。自室のクローゼットで撮影した弾き語り動画をTikTokに公開し始める。2022年春、映画『すずめの戸締まり』ボーカルオーディションに参加。野田洋次郎と新海誠監督を魅了し、その歌声は世界中に響くことに。2023年7月、配信シングル『灰かぶり』(作詞作曲を自身で手がけ、プロデュースは野田洋次郎)にてメジャーデビュー。2024年、Spotifyが躍進を期待する次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2024」に選出され注目の国内新進アーティストとして注目を集める。10月15日には配信EP『1R+1』をリリース。11月には東名阪クアトロワンマンツアーも決定している。
