がん手術など、胃や大腸・食道などの重要な臓器を診療する消化器外科医が、減少の一途をたどっています。

厚生労働省のがん診療に関する検討会は、8月に「2040年には、がん手術を担う消化器外科医が約5000人不足する」という報告書をまとめました。

日本の医師全体としては増加傾向にある中で、なぜ消化器外科医だけが減少傾向にあるのか?『サン!シャイン』は現役医師に密着。消化器外科が抱える問題点が見えてきました。
長時間の手術に術後のケア…「激務」というイメージも
神奈川県相模原市の「北里大学病院」で、消化器外科に勤務する、樋口格(ただし)医師(45)。医師になって17年の大ベテランで、これまで数多くのがん治療に携わってきました。

この日は、朝からがんの摘出手術。「手術支援ロボット」を駆使して、助手の医師2人と共に執刀にあたります。

手術開始から5時間、別の医師に交代してようやく昼休憩に入りますが、30分ほどで簡単な昼食をとり、すぐに手術室に戻っていきます。

以前は、1人の主治医が最初から最後まで執刀し、助手の医師も休むことができなかったといいますが、2年前から「チーム制」を導入し、役割を分担したことで、昼食や休憩を取れるようになったといいます。

樋口格医師:
僕らは、家に帰ると、よほどのことがないと(病院から)電話がかかってこない。
でも、人がいないところになると「主治医制」という形を組まれているので、「患者さんが…」と24時間365日、どこにでも電話がかかってくるんですよ。
家にいても、(休日に)遊んでいても、患者さんについての電話がかかってきたりする。そこは一番聞きますね…つらいって言っている先生が。

北里大学病院のように、チーム制が導入できていない病院では、長時間の手術や術後のケアを主治医が一手に担うことになり、「消化器外科は労働環境が厳しい」という認知が若手医師の間で広がり、消化器外科師の減少につながっているのです。

同じく、北里大学病院で消化器外科に勤務している藤田翔平医師(40)も、手術だけでなく、病院の回診や学会で研究結果を発表するための資料作りなど、仕事が多岐にわたる消化器外科医にとって、チーム制がいかに重要かを話します。

藤田翔平医師:
やっぱり市中病院で人が少ない所とかは、手術が終わった後に検査を自分でやらなければいけないこともありますので、そういう意味では、人が多くて分担ができるチーム制というのはすごくいいかなと思っています。

――樋口医師が消化器外科を続けられているモチベーションは?
樋口格医師:
やっぱり患者さんを救うというところ。おこがましいかもしれないですけど、そんな救うというほどのことはやってないのかもしれないですけども、手術をしっかり終えて、そして、日常生活に戻って、しっかり退院してもらうと。
「簡単に外科手術が受けられない時期が訪れる」
「医師の働き方是正・医師不足の解消」を求め厚労省に要請書提出など行っている、全国医師ユニオンの植山直人氏は、現在消化器外科が抱える問題点についてこう話します。
全国医師ユニオン 植山直人氏:
地域によっては病院が外科を維持できなくなって、閉じてしまうと。さらに、外科の先生ってかなり高齢化しているんですね。若い人が来ない、そうなると中堅がつぶれていってしまう。下が育たないとすると、5年10年たつと簡単に外科手術が受けられない、そういう時期が訪れますね。

植山氏によると、消化器外科医が不足することで、手術ができない、手術を受けるまでの待機期間が延びる、地方によっては消化器外科がなくなる、高齢者の治療を優先しないなど、様々な影響が出てくる可能性があるといいます。

全国医師ユニオン 植山直人氏:
日本は世界一高齢社会なのに、先進国で一番医師の数が少ないんです。ですから、医者を増やさないとどうにもならない。特に外科に関しては、一昔前は「外科に女はいらない」と平然と言う先生が多かったんですが、そう言っていたら男も来なくなってしまったと。
これから、医学卒業生の半数は女性になります。女性がしっかり働けるような環境作りを積極的に取り組むと。外科学会も女性医師も平等に育てましょうと報告書を出していますが、それだけではどうにもならないので、手術に集中できる環境作り。外科の先生の負担を減らす取り組みをやっていかなくてはいけない。

――以前は小児科・産婦人科が足りないと言う話もありましたが、現在は微増しています。増やそうと思えば増やせる?
産婦人科は昔からリクルート活動を相当頑張っていて、そして産婦人科の今の若い医師は7~8割は女性なんです。
全国医師ユニオン 植山直人氏:
本当に高いレベルを出そうとすると、そんなに長時間働くというのがそもそもあり得ないし、自分の健康管理も非常に重要ですし。
研修医の3割は鬱(うつ)状態と言われていて、僕たちがやった調査でも20代の医師の14%が日常的に死や自殺を考えていると。これ医師全体では6.9%だけど20代は14%なんです。ですから、若い医師が本当にこき使われている。
他の診療科も、人が足りないのでみんな過重労働をやっているわけです。

メインキャスター谷原章介:
待遇以前に、人数を根本的に増やさないとしょうがない問題でもあるじゃないですか。やはり医大生を増やすなり、科を特別に増員して増やしていかないといけないと思うのですが、これは根本的に国が頑張るしかない。
全国医師ユニオン 植山直人氏:
国が一元的に医者の数はコントロールしています。そして、将来余るから増やすなと…。
メインキャスター谷原章介:
医療ツアーで海外からのお客さんを呼んだりもしているんですから、きちんと日本国内は、医師数に余裕を持って育てていってもらいたいですね。
(『サン!シャイン』 2025年8月28日放送より)