――舞台で演じる小田やドラマで演じている長倉和平、そして、中井さん自身も60代で、“今後”について考えることもあるのではないでしょうか。

先日、舞台のプログラム用に(脚本の鈴木)聡さんや(演出の)行定勲さんと鼎談をしたとき、お二人が昔は小津作品のよさがよくわからなかったけれど、年齢を重ねてきて「やっぱりいいなと思う」とおっしゃっていたんです。

僕は人生で初めて観た映画が小津作品で、その後も動いている父の姿を求めて観ていたので、小津先生の映画が“映画”だと思っていました。すごく贅沢な言い方になってしまいますが、知らない間に小津映画が僕の基準になってしまっていたんです。幼少期に高級料亭の味を知ってしまったような感じでしょうか(笑)。

だからといって、小津作品がすべてだとは思ってはいませんし、映画が好きなのでいろいろなジャンルを観ますけど、僕のベースにあるものはここ(小津作品)であり、最終的に目指しているのは、小津先生に演出をつけてもらうことなんです。

今回の舞台では“小津調”で芝居をするのですが、小津作品を知らない世代には「どうして皆、棒読みなのだろう?」と不思議に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

僕は最期に出演する映画は全部棒読みにしたいと思って役者を続けていますが、何もできなくて棒読みになるのと、いろんなことができるのに棒読みにするのとでは違うんですよね。例えるならば、非常に絵が上手いパブロ・ピカソが、あえてあの作風に行きつくような感覚でしょうか。

ですから、いろんな経験値を身につけるために今は勉強をする期間。65歳くらいを過ぎたときにまだ役者をしていれば、最終的にはすべてを捨てる作業に入ろうと思っています。

撮影:河井彩美
ヘアメイク:藤井俊二

<公演概要>

パルコ・プロデュース 2025『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』

作:鈴木聡
演出:行定勲

出演:中井貴一/芳根京子、柚希礼音、土居志央梨、藤谷理子、久保酎吉、松永玲子、山中崇史、永島敬三、坂本慶介、長友郁真、長村航希、湯川ひな/升毅、キムラ緑子 

【東京公演】6月8日(日)~29日(日)PARCO劇場
【大阪公演】7月5日(土)~7日(月)森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】7月11日(金)・12日(土)J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【熊本公演】7月15日(火)市民会館シアーズホーム 夢ホール
【愛知公演】7月19日(土)・20日(日)東海市芸術劇場 大ホール