このVRは、オルセー美術館が制作・監修し、印象派研究の第一人者である同館のキュレーターの知見が注ぎ込まれているだけあって、実に見事に当時の世界観が再現されています。

パリの駅では汽車の音、雑踏の声も聞こえてきます(c)Excurio

それは、モネたちを“落選させていた”「サロン」を訪れてもよくわかります。ローズさんが「ここは天井まで作品がびっしりでしょう?題材も歴史や神話で、風景画は一切ないんですよ」と、先ほど見たモネたちのグループ展との違いを説明してくれました。

確かに、作品の題材、展示方法がまったく異なります。ここでは上下左右に360度ぐるりと見渡すことをおすすめします。天井に近い絵は、一生懸命上を向いてもよく見えないほどです。また、来ているお客さんはいかにも上流階級という出で立ちです。

こちらが「サロン」の内部。天井まで絵画がびっしり!360度見渡せます(c)Excurio

水辺には並んで絵を描くモネとルノワールの姿も!

続いて場面は一転、今度は外の光がまぶしい、ボートがたくさんある水辺へ。風を感じるのは気のせいでしょうか?ここはパリ市民の週末のリゾートとして賑わったセーヌ川沿いの行楽施設「ラ・グルヌイエール」。

水音やボートを楽しむ人の声も聞こえます(c)Excurio

なんと、向こう岸では、モネとルノワールが並んで絵を描いています。「向こうに行ってみましょう!」と橋を渡ろうとしたローズさんが、おっと危ない、水に落ちてしまうハプニングが。後ろに続くこちらも、平たんな場所だとわかっていても、狭い橋から落ちないように、恐る恐る歩を進めるようになってしまいます。

並んで絵を描くモネとルノワールを発見!(c)Excurio

無事に橋を渡ると、2人の会話が聞こえてきました。

モネ:「ルノワール、水面で光が踊っている!」

ルノワール:「素晴らしいがはかない。それでも私たちは進歩し続ける。光は刻々と変化する。急がないと。色はこれで足りるかな?」

モネ:「色の数は関係ないぞ。その場で感じた印象を捉えようとしているか? 何を描くかよりも、いかに捉えるかが重要だ。そうは思わないかい?」

モネとルノワールの会話が楽しい!絵を覗き込むこともできます(c)Excurio

モネは水面の動き、ルノワールは人の表情に焦点を当てるといった、未来の巨匠の会話を至近距離で聴ける贅沢さ。こちらも、自ら近づいてキャンバスを覗き込むような楽しみ方が可能です。

圧巻のパノラマを前に名作「印象、日の出」を描くモネに出会う

さらに、印象派好きの方にはたまらない光景が広がります。フランス北部の港町ル・アーヴルのホテルのベランダでは、モネがのちに「印象派」の由来となる名作「印象、日の出」を描いていました!

目前に広がる圧巻のパノラマ!ふと見ると、モネが「印象、日の出」を描いています
(c)Excurio

モネ:「うまくいかないなあ。光は変わってしまう。もっと素早く描かないと。忘れるなよ。大事なのは何を描くかじゃない。大切なのは、それを包み込む光なんだ。オレンジ色が強すぎるかな?私はそう感じるから。さあいくよ」

そう自分に言い聞かせながら、水面に映る太陽の光の部分にオレンジ色の絵の具をのせました。 

向こうに見える朝日も絵画のような美しさ(c)Excurio

あのグループ展で評論家が「印象、日の出」を見て、「これは風景ではない。ただの印象だ」と揶揄し、タイトルを皮肉って「印象派」と呼んだことが、のちの印象派というグループの呼び名につながりました。思いがけず、歴史を変える作品の制作の瞬間に立ち会うことができました。

最後には屋上へあがり花火を見に行きます(c)Excurio

最後、ローズさんとともに建物の屋上へ出ると、印象派のその後の成功を祝うかのように、「パーン、パーン」とパリの夜空に祝砲のように花火が上がります。印象派誕生、万歳!

実は筆者は、2024年のパリオリンピック開催時に「オルセー美術館」でこのVRを体験していました。サクセスストーリーが語られるのかと思いきや、若き画家たちが、認められない現状を嘆くという、アートの現実を直視した展開に「さすが本場のコンテンツ!」と感銘を受け、日本の方にご紹介できる機会を心待ちにしていました。

印象派が大事にしていた光の再現も見事です(c)Excurio

本作は、日本語版の声優陣も豪華です。クロード・モネ役に梶裕貴さん、オーギュスト・ルノワール役に神尾晋一郎さん、エドガー・ドガ役に子安武人さん、カミーユ・ピサロ役に櫻井孝宏さん、ポール・セザンヌ役に浪川大輔さん、そしてローズ役に伊駒ゆりえさんと、実力派が結集。また、脚本の日本語訳監修は、国立西洋美術館主任研究員である袴田紘代氏が務めています。

まさに、視覚・聴覚のすべてでパリの古い街並みを巡り、画家たちと出会いその情熱に触れる――。なんとも贅沢な45分でした。文化の秋を前に、1874年のパリへタイムスリップしてみてはいかがでしょうか?