サカナクションの7thシングル『夜の踊り子』(2012年)が、リリースから約14年を経た2026年6月、「オリコン週間ストリーミングランキング」などの各ランキングで1位を獲得。海外の映像に本楽曲を合わせたショート動画がSNS上でミーム化し、世界規模のバイラルヒット(※)につながりました。
これに対して、ボーカル・ギターの山口一郎さんが自ら動画でダンスを完全再現したことで「公認の祭り」に昇華。同じレーベルの後輩・M!LKなど多数のアーティストともコラボ動画を発信し、本気のバズへの“乗っかり”が奇跡的な再ブレイクを決定づけました。
世界的なネットのバズから、現在も続くバイラルヒットにつながる現象はいかにして生まれ、レーベル側はどう受け止めているのでしょうか。
ビクターエンタテインメントでA&R宣伝部長を務め、2009年から一貫してサカナクションのプロモーションを担ってきた山上聡さんに、リリース当時の手応えからバイラル現象の内幕、そして音楽シーンの現在について思うことを聞きました。
(※)SNSや口コミを通じて情報がウイルス(Viral)のように急速に拡散され、爆発的な大ヒットになる現象のこと。無名だった楽曲や古い曲が突如チャートを逆転して大流行することも。
「フジロックのお客さんが沸いてくれた」サカナクション『夜の踊り子』リリース当時の反響
――まず、山上さんはA&Rとして、サカナクションにおいてどのような役割を担っているのか教えてください。
基本的には宣伝をメインに担当しています。リリースプランの策定やタイアップの調整、広報的な部分を一手に引き受けている、という感じですね。サカナクションを2009年から担当していて、最初に手掛けた楽曲は『アルクアラウンド』(2010年)でした。
――『夜の踊り子』は東京モード学園のCMソングとして生まれ、2012年にリリースされました。リリース当時の手応えはいかがでしたか?
東京モード学園のCMは、非常に楽曲が強く刺さるタイアップとして知られていて、バンドの名前と曲を広げる大きなチャンスだと感じていました。できあがった楽曲自体も「めちゃくちゃいい曲だな」とすぐに確信し、「これは頑張って売るぞ」という気持ちで、かなり力を入れてプロモーションした楽曲です。CDジャケットもスライドさせていくと文字が変わる仕掛けを作るなど、細部まで手を加えました。
――山口さんを含むメンバー5人全員が和装をロック風に着こなして登場するMVは、強烈なインパクトを持つ傑作と評されていますね。
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(2011年)をディレクションした田中裕介監督にお願いしました。『夜の踊り子』というタイトルから『伊豆の踊り子』を連想して、箱根越えのイメージで富士山の麓で撮影しました。和的な日本情緒のある歌詞と、欧米発のクラブサウンドが融合した楽曲を、和装と富士山とニューウェーブ的なメイクの組み合わせで映像化するという田中監督だからこそ産み出せる渾身の作品でした。
撮影はほぼ24時間ノンストップで、「地獄の富士ロケ」と当時は呼んでいましたが(笑)。仕上がりには本当に手応えを感じていました。
2012年のリリース前、初めてフジロックの(観客約15,000人規模の)ホワイトステージに出演したのですが、ライブで披露した『夜の踊り子』への反響が忘れられません。様々な音楽に触れて耳の肥えているフジロックのお客さんが、初めて聴く曲なのにめちゃくちゃ沸いて、曲が終わったときの拍手がものすごくて、リリース前の新曲とは思えない反響でした。「これはいける!」と確信をもってリリースしたのを覚えています。
本人(山口一郎さん)はいつも謙遜して「あまり売れなかった」と言うんですけれど、それなりに売れたという感触は私の中にちゃんとあります(笑)。
