宝塚歌劇団の元スターに、輝く秘訣やこだわりを語ってもらう「宝塚OG劇場」。第10回は、瀬奈じゅん(せな・じゅん)さんが登場。

キレのあるダンスとこだわり抜いた男役像で、月組男役トップスターとして多くのファンを魅了し、2009年の退団後は、ミュージカルを中心に舞台やドラマで幅広く活躍中。6月4日(土)から東京ほか大阪・兵庫・金沢・愛知・長野で巡演される舞台「黄昏」に、主人公・エセル(高橋惠子)の娘・チェルシー役で出演します。

「黄昏」は、ひと夏を湖畔の別荘で過ごす老夫婦と家族の姿を通して、“老い”や“家族のあり方”などを描いた戯曲で、1978年にアメリカで上演。1981年には映画化され、アカデミー賞などを多数受賞しました。日本では八千草薫さん主演で2003年から3度上演され、このたび2020年に続き、高橋さん主演で2度目の上演となります。

再びチェルシー役に挑む瀬奈さんに、フジテレビュー!!がインタビュー。

作品への意気込みや、自身が主宰する宝塚受験サポートクラスなどについて聞きました。また、タカラジェンヌOGといえば、オシャレで個性的なファッションも魅力のひとつ。そこで本連載では、それぞれの“こだわりの一着”も紹介してもらいました。

<【写真 全13枚】瀬奈じゅん フォトギャラリー>

「父に素直になれない自分がいた」作品のおかげで変化

――「黄昏」に再び出演が決まったときの気持ちをお聞かせください。

とにかく、共演者のみなさんに会えることがうれしかったです。

また、コロナ禍で全国をまわることが難しくなっている昨今、日本各地に行かせていただけるのは、すごくありがたいことだと思います。その思いを舞台に乗せて、みなさんにお届けしたいです。

――本作は、円熟の老夫婦エセル(高橋)とノーマン(石田圭祐)と、その家族の心の交流を描いた作品ですが、瀬奈さんが思う見どころを教えてください。

家族というのは自分に近い存在ですが、どんなに近くても、言葉にしないと伝わらないこともあると思います。でも、ついつい「言葉にしなくてもわかるでしょ」と甘えてしまったりもする。素直になれなくて関係性の難しさを感じたり、一方で、コロナ禍で家族の大切さを改めて実感した方も多いのではないでしょうか。「黄昏」は、家族へのさまざまな思いに寄り添う作品だと思います。

大事件が起こるような物語ではありませんが、美しい湖畔の別荘を舞台に、さまざまな人物の葛藤が交錯していくところも、魅力のひとつだと思います。

――瀬奈さん演じるチェルシーは、昔の確執から父・ノーマンと疎遠になりがちに。本当はお互いを気にかけているものの、素直になれず…という関係です。2度目のチェルシー役を、どのように演じたいですか?

この2年間は、私の中でいろいろなことがありました。特に大きかったのは、父の他界です。前回の「黄昏」上演から約半年後に、父が亡くなりました。

チェルシーとノーマンの関係性に、私自身と少し重なるところがあったんです。確執があったわけではないですが、なかなか素直になれない自分がいて。

でも「黄昏」に出演したおかげで、他界するまでの半年間は、父に対してすごく素直になれました。娘としてしっかり看病ができたので、感謝の気持ちでいっぱいです。その中で感じたことがたくさんあるので、今回は気持ちを新たに構築していくつもりです。

この2年の間に、私だけではなく共演者のみなさんも、きっとさまざまな経験を経て得られたことがあると思うので、改めてみなさんと一緒に作品を作っていけたらと思います。

歳を重ねるごとに増す、ある“自覚”とは

――舞台に立つ上で、宝塚時代から今も大切にしていることはあります?

とにかくお客さまに夢をお届けする、という気持ちは変わりません。自分が役として生きることはもちろんですが、その役の生き方をお客さまに直接お伝えしている、という意識はずっとあります。生で観ることの醍醐味をお届けできるように、常にベストを尽くしたいと思っています。

――逆に、宝塚時代と今とで変化したと思うことはありますか?

年々、舞台に立つことが怖くなってきました。在団中は、初日はすごく緊張したけれど、始まってしまえば、そうでもありませんでした。舞台に立つことが日常でしたしね。

でも歳を重ねるごとに、お客さまが大切な時間を私たちにくださっていることへの自覚が、増してきました。お客さまいらっしゃることのありがたさを強く実感するからこそ、怖いと思うのかもしれません。

――その怖さは、どのように乗り越えているのでしょうか。

お芝居中に、相手の役者さんの目を見ます。きちんとまっすぐに目を見ると、緊張が解けるんです。もし相手の方がおらず舞台上に1人の場合は、とにかくひたすらに、その役を生きます。お芝居ではなく歌ったり踊ったりするときは、お客様を楽しませることに集中します。

今春、宝塚受験サポートクラスを設立 「今だ」と思った

――瀬奈さんは2022年4月より、宝塚音楽学校の受験をサポートするクラス「Jeunesse(ジュネス)」を主宰しています。どのような思いから立ち上げたのでしょうか?

きっかけは、2021年に開催されたコンサート「Greatest Moment」でした。宝塚花組・月組誕生100周年を記念したイベントで、私を含め、宝塚歌劇団の卒業生らが大勢出演しました。このときに、宝塚の絆や素晴らしさを改めて感じたのです。私はなんて素敵なところにいたんだろう、と。もし私が宝塚に何か恩返しができるとしたら、後進を育てることだなと、ふと思ったんです。

それまでは、宝塚に向けて頑張っている方を応援したい、という思いは強かったものの、自分がクラスを立ち上げるとまでは考えていませんでした。行動に移す自信も、きっかけもなかったんです。でも、コンサートでスイッチが入って「今だ」と思って。

――迷いや不安はありませんでしたか?

すごく勇気がいりましたし、私に務まるだろうかという思いもありました。でも、いつ何が起こるかわからない世の中ですし、自分自身だってどうなるかわかりません。

だから「あの時こうすればよかった」と思うくらいなら、やってみようと思いました。やらない後悔より、やった後悔のほうがいいかな、と。やりたいことは行動に移さないと、人生もったいないですし。

――「Jeunesse」ではバレエや声楽などのレッスンとは別に、面接レッスン&カウンセリングを瀬奈さんが担当しています。生徒さんと接して、どんなことを感じましたか?

みんな懸命で、本当にかわいい。青春をかけて挑戦しているみなさんの思いに、できるだけ応えたいと思いました。

生徒のみなさんは、すごく楽しいと言ってくれています。学ぶことが楽しくて仕方がないといった様子で、見ているとなんだか涙が出てきそうになります。ひたむきで純粋な姿に、日々、心を打たれています。

――瀬奈さんは今年デビュー30周年を迎えましたが、今の心境と、今後やってみたいことがあれば教えてください。

心境は初舞台のときから何ひとつ変わりませんが、もう30年も経ったのか…と感慨深いです。

今後については、私は「こうなりたい」というものがなく、とにかく今を生きたいと思っています。今、自分が「やりたい!」と思えることを選んでいくのが目標です。それこそミュージカル、お芝居などのエンターテインメント全般。そして「Jeunesse」。何事にも全力で向き合っていきたいです。

<こだわりの一着>「HYKE」のセットアップ

「HYKE(ハイク)」というブランドの、ネイビーのセットアップです。もともとシンプルで長く着られる、スタンダードなものが好きで。私の好みが凝縮された一着です(笑)。

購入したのは5年以上前ですが、今もよく着ています。ちょっと出かけるときや友だちとランチへ行くときなど、いろいろなシーンで活用しています。

小物を自由自在に合わせられるところも気に入っています。靴はスニーカーでもヒールでも、ブーツでもサンダルでも合う。アクセサリーやスカーフ、付け襟を合わせても馴染む。着まわせるところがすごくいいです。

<瀬奈じゅん コメント&撮影メイキング動画>

<舞台「黄昏」概要>

【プレビュー公演】2022年6月4日(土)/江東区文化センター ホール
【大阪公演】6月8日(水)・9日(木)/枚方市総合文化芸術センター 関西医大 小ホール
【兵庫公演】6月11日(土)・12日(日)/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【金沢公演】6月14日(火)・15日(水)/北國新聞赤羽ホール
【愛知公演】6月18日(土)・19日(日)/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【東京公演】6月21日(火)〜 26日(日)/紀伊國屋ホール
【長野公演】7月9日(土)/長野市芸術館 メインホール

出演:高橋惠子/瀬奈じゅん、松村雄基/石橋徹郎、林 蓮音(Jr.SP/ジャニーズJr.)/石田圭祐

撮影:YURIE PEPE
ヘアメイク:山口理沙