6月5日、北朝鮮に拉致された長女・めぐみさんとの再開を果たせないまま、87年の生涯に幕を閉じた横田滋さん。妻そして“戦友”として共に戦い続けた早紀江さんは、記者会見で気丈に語った。

「いつも穏やかで笑顔で、拉致されている人のことを思い、思い残すことがないほど、全身全霊で打ち込んだと思います」

めぐみさんを救うために、まさに全身全霊で捧げた滋さんの43年を描いた特別番組『横田滋さん追悼特別番組「前略 めぐみちゃんへ」~“全身全霊”戦い続けた43年~』が6月13日(土)13時30分からフジテレビで放送される。

私たちの記憶に残る滋さんは、いつも穏やかで笑顔…。しかし、実はその笑顔に秘めた滋さんの強さと、世論を大きく変えた決断があった。 フジテレビのカメラが入院直前まで追い続けた滋さんの映像と、去年3月に放送したドキュメンタリードラマを再編集したものを通じ、横田滋さんの知られざる思いそして人生に迫る内容だ。

署名活動を行う中、配っていたチラシをたたき落とされる場面も…2000本以上の報道素材

1997年、拉致問題解決への署名活動を行う、若き横田夫妻。社会の関心はまだ薄く素通りされ続け、配っていたチラシを心ない人にたたき落とされる。しかしそれを再び拾い、声を上げ続けた。政府の対応が生ぬるいと首相官邸近くで体力の限界まで座り込みを続けたことも。2002年に拉致被害者が帰国した際も、ニュースで何度も報じられた映像とは別に、横田夫妻がどのように家族らと接してきたのか、素材をあらゆる角度から見つめ、ふたりの行動をひもといていく。

“横田めぐみ”さんの実名を出すか否か…夫婦の葛藤と奮闘

滋さんを勝村政信、早紀江さんを菊池桃子が熱演する。早紀江さんがめぐみさんに宛てた手紙を軸に、夫婦の戦いを実写と共に描いたものだ。

めぐみさんは、明るくひょうきんでいつも家族の中心的存在だった。温厚な滋さんとそんな夫を支える早紀江さんのイメージだが、実はめぐみさんが拉致被害者と知らされた直後、めぐみさんの顔と名前を明らかにしようと決めたのは滋さんだった。娘の身を案じ“伏せてほしい”と訴える早紀江さんに「声を上げて戦おう」と説得した滋さん。夫婦の知られざる葛藤がここで明かされる。

早紀江さんは、滋さん死去後の記者会見で「(当時)早まって(めぐみさんの顔と名前を)出しちゃだめ、と意見が違っていたのですが、“きちんと出して覚悟して進まなければだめだ”と言って、北朝鮮のことが世界中にわかってもらった。お父さんがやったことは間違っていなかったと思います」と語っている。

山岸直人プロデューサー(フジテレビ報道局)は「長きにわたり拉致被害者救出のために共に活動を行ってきた人たちに滋さんの印象をたずねると、みな口を揃えて“信念が強い人”“勇敢な人”だったと語ります。そんな強い気持ちこそが、内外の世論を大きく動かし、拉致被害者家族の活動の原動力になったのです」とコメントしている。

ドキュメンタリードラマは、病室に飾られためぐみさんの写真を握りしめ「がんばる…」と力強い言葉を発した滋さんの表情で締めくくられている。滋さんの信念、そしてその思いを引き継ぎ、“必ず取り戻す”という決意を新たにした早紀江さんら拉致被害者の家族たちの本当の姿とは――。