巧みな構図と、そこに存在する人々の息遣いまでをも感じさせる風景画の名手・歌川広重。文化6年(1809年)に家職を継ぐも、間もなく歌川豊広に入門。役者絵や美人画でデビューを飾り、『東海道五拾三次之内』『木曽海道六十九次』での街道絵、名所絵で頭角を現して人気作家になっていきます。

日本の美しい四季を繊細な筆致で叙情的に描いた広重は、風景だけでなくそこに登場する住人や旅人をも森羅万象と見事に調和させる傑作を多く残しました。
広重の展示室では、当時の旅のガイドブックの役割りを果たした『東海道五拾三次之内』の名所図が並んで壮観!江戸時代の人のように「自分もこの風景を見るために旅をしたい!」と旅への意欲が湧いてきます。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
江戸・日本橋から京までのおよそ500キロ、これから始まる10数日あまりの東海道の旅のスタートを飾るのは『東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景』(天保4-5年/1833-34年頃)。午前4時、早朝の日本橋の賑わいに旅の始まりを感じてワクワクします。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
細かい斜線と墨の濃淡で表される夕立、静かに明ける雪晴れの銀世界の静寂…日本の美を感じさせる傑作にしばしうっとり。
そして、縦画面に挑戦し、奥行きと自由自在な視点を用いた斬新な構図で「新しい時代の風景画」を感じさせる晩年の大作『名所江戸百景』も。これらの作品は海を越え、ゴッホやポスト印象派の画家たちにも影響を与えたと言われていますが、それも頷けるかっこよさです。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
顔だしNGで匂わせ得意の革命児!?“武者絵”の国芳
ラストは、“武者絵の国芳”として名を轟かせた歌川国芳の展示室へ。豪快で派手、ヒーロー&スペクタクルな作風で知られる国芳は、文化(1804~1818年)末頃から作画を始めますが、当初はヒット作には恵まれませんでした。
文政(1818~1830年)末頃から刊行された錦絵揃物『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』で名を馳せ、大きな画面を使った斬新な構図の武者絵、西洋画を意識した風景画、巧みな筆さばきの戯画などで、次々と新機軸を打ち立てます。

本展の特筆すべき点はその保存状態の良さ。目を凝らすと、黒一色に見えていた髪の毛の1本1本までもが繊細に描かれていることに気付きます。ぜひ、この機会にじっくりと細部まで観察されることをおすすめします。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
ワイドな大画面に描かれた、大迫力なスペクタクル作品だけでなく、妖怪や亡霊などおどろおどろしい作品も国芳の真骨頂。
本展の音声ガイドナビゲーターを務める歌舞伎俳優の尾上松也さんもお気に入りだという『大物之浦海底之図』(嘉永2-4年/1849-51年)では、壇ノ浦の戦いで滅亡した平知盛ら平家一門の“その後”を想像で描き、国芳の想像力がいかんなく発揮されています。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
さらに、国芳の反骨精神や遊び心がいかんなく発揮された作品も。質素倹約令を施行し、風俗の取り締まりを行った天保の改革により、遊女や役者を描くことが禁止された際には、仏像彫刻の顔を役者似顔絵風に描いて逃れるという機転を効かせました。
江戸時代初期に活躍したと伝えられる彫刻師・左甚五郎のアトリエを描いた『名誉 右に無敵左り甚五郎』(嘉永元年/1848年)では、実は中央に座る甚五郎と思われる人物は国芳自身であるという“匂わせ”が随所に隠されています。
地獄変相図のどてらを着て、芳桐印と呼ばれる印章をモチーフにした手ぬぐいや座布団、そして傍らには大好きな猫。顔を背けて“顔出しNG”を貫き、出版統制に対して国芳らしい反骨精神で切り返している様子が見ものです。

『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
人の体をより集めて別の形態を作る「嵌め絵」や、線描きだけでユーモラスに役者の特徴をとらえた『白面笑壁のむだ書き』(嘉永年間/1848-53年)など、くすりと笑える作品も展示されており、国芳が江戸の庶民に愛された絵師だったことがうかがい知れます。
小さなサイズに庶民の憧れや日常を切り取り、そこに唯一無二の作家性を込めた浮世絵という日本独自の芸術。流行の最先端を写すことで、“最新のメディア”としての機能も果たしていたスター浮世絵師たちの作品を一挙に堪能できる貴重な機会となっています。
がま口、手ぬぐい、靴下!展覧会グッズも浮世絵づくし!
また、展覧会の楽しみのひとつであるオリジナルグッズも豊富!どれも浮世絵をモチーフにしていて、好きな作品をグッズとして手元に置いたり、日常使いしたりすることで、ちょっとアートな気分が味わえそう。





ポストカードやクリアファイル、マスキングテープ、一筆箋といったおなじみの展覧会グッズに加え、扇子、がま口、クラッチバッグ、靴下、手ぬぐいなどなど。デザイン性も高い浮世絵グッズの数々に、財布のひもが緩くなること請け合いです。
<開催概要>

『五大浮世絵師展ー歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」
開催期間:5月27日(火)~7月6日(日) /会期中無休
開催時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
入館料(税込):
一般 2000円/高校・大学生・専門学校生 1500円/小・中学生 800円
※未就学児無料
※小学生以下は保護者同伴での入場をお願いします。
※学生券で入場の場合は、学生証の提示をお願いいたします(小学生は除く)。
※障がい者手帳をお持ちの方とその介助者(1人まで)は、当日料金から半額となります。
※無料の音声ガイドは、お手持ちのスマートフォンで利用可能。スマートフォン、イヤホン等をご持参ください。会場での機材やイヤホン等の貸し出しはありません。
お問い合わせ:ハローダイヤル050-5541-8600(全日9時~20時)
オフィシャルサイト:https://www.5ukiyoeshi.jp