尾上松也さんが、“推し”の浮世絵師とその作品の魅力、江戸を感じるおすすめスポットを紹介しました。
上野の森美術館で開催中の『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』は、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳といった、美人画、役者絵、風景画など各分野で浮世絵の頂点を極めた5人の絵師の代表作を中心に約140点を展示。江戸時代を彩った浮世絵五大スターの競演が楽しめる展覧会となっています。
その展覧会を、より深く楽しむための作品解説や歴史的背景を、江戸の活気を感じさせる“粋”な語り口で紹介する「音声ガイドナビゲーター」を務めるのは、歌舞伎俳優の尾上松也さん。
歌舞伎と縁も深い、五大絵師の浮世絵の魅力とは?松也さんに、歌舞伎俳優ならではの目線で本展の見どころ、そして好きな絵師と浮世絵についてたっぷり聞きました。
尾上松也が語るトップ浮世絵師の魅力「何を切り取って何を描いたのか」
――本展には、五大絵師の代表作から通好みの作品までが並んでいます。展示をご覧になった感想は?
本当に楽しくて、それぞれの絵師の違いがよくわかる展示になっていました。この時代のトップの絵師たちが、時代情景や庶民の生き様を敏感に感じて、何を切り取って何を描いたのか。作品を見ていると、当時の生活感や空気感が伝わってきます。ぜひ当時の世界観に浸りながら見ていただきたいです。
国芳ならスペクタクル、歌麿なら美人画、北斎や広重なら風景画、写楽なら役者絵というように、それぞれの代名詞となる作品がありますが、実は想像もできないような意外な作品も展示されています。バリエーションの多さ、そこに至るまでの作風の変化のようなものも一緒に楽しんでいただけると思います。

――役者絵や歌舞伎にもなっている出来事を題材にした浮世絵も多く展示されています。歌舞伎俳優としては、どういったところに注目して鑑賞しますか?
見ているポイントというのは、根本的には皆さんと変わらないと思いますが、「あのような格好をしてみようかな。この色合いで衣裳を作ってみようかな」と参考になります。今回で言いますと、自分の父(六代目 尾上松助)も名乗っていた「尾上松助」を描いた写楽の作品『尾上松助の松下造酒之進」(寛政6年/1794年)が展示されていますので、見るとやはり親近感は湧きます。
――松也さんの“推し浮世絵師”は国芳とのことですが、理由を教えてください。
国芳は物語の場面だけでなく、そこに国芳自身の想像を加えて描いている作品がたくさんあります。その想像の部分がとても面白い。それにプラスして派手であること、画面いっぱいに色を使って描くところも好きです。
――ご自身が演じた役柄が描かれていると気になりますか?
気になります。国芳の『大物之浦海底之図』(※)は、自分が舞台で勤めたことのある平知盛(たいらのとももり)が題材になっていますが、舞台では描かれてない海底の場面を想像して描いています。僕からしますと、国芳のこの作品はSFに近く、非日常的、非人間的な動きをまるで現実かのように見せているところが大変面白いと感じています。
(※)『大物之浦海底之図』(だいもつのうらかいていのず)嘉永2~4年/1849~1851年頃の作。壇ノ浦の戦いで滅亡した平知盛ら平家一門が、亡霊となって敵である源義経を討たんと海底で陣を張っている様子を描いた作品。(参照:『五大浮世絵師展』図録)

「大物浦」というのは歌舞伎にも出てくる『義経千本桜』の演目で、知盛を主人公にした長い通し狂言のうちの一部です。海に投げ込んだ碇(いかり)の綱に自分の体を巻き付けて、碇と共に沈んでいく、通称・碇知盛(いかりとももり)ともいいます。知盛が海底に碇と共に沈んだのちは歌舞伎では描かれておりませんので、「知盛はあの後、海底でどうなったのだろうか」と想像していたところが表現されている。この作品には、国芳の想像力がいかんなく発揮されていて非常に面白いです。
絵の中には平家蟹がいたり、平家の家来たちが亡霊となって集合していたり、実際に海底で起こっていそうなリアルな様子にワクワクします。
“推し”絵師の国芳の好きな作品について語ってくれた尾上松也さん。さらに国芳の魅力、そして江戸時代の空気に浸れるおすすめのスポットを教えてくれました。