劇団扉座の看板俳優であると同時に、ドラマや映画で活躍し、『相棒』(テレビ朝日)シリーズの鑑識役でブレイク。現在、連続テレビ小説『おちょやん』(NHK)でユーモラスな存在感を発揮する六角精児が、3月5日~7日に東京・なかのZEROで上演される浅丘ルリ子の主演朗読劇「ななしのルーシー」に出演する。

「ななしのルーシー」に関する記事はこちら!

浅丘との意外な交友関係や作品への思い、自身を形作る豊かなプライベートについて聞いた。

<六角精児 インタビュー>

――「ななしのルーシー」のオファーがきたときのお気持ちはいかがでしたか?

大先輩の浅丘さんと、女優生活65周年を記念する作品でご一緒できるのは、本当に光栄だなと感じました。これから始まる稽古で、良いコミュニケーションをとりながらやっていきたいですね。

――浅丘さんとは、複数の共演経験があるほか、20年来の友人で、麻雀仲間でもあるとか。

麻雀でお声がかかればご自宅に伺ったりもしますが、友人と呼ぶのは恐れ多いです。僕は、俳優さんや芸能人の友達はほとんどいないんです。でも浅丘さんは、僕のことを何かと気にかけてくださるので、心の中では背筋を伸ばしつつ(笑)、ざっくばらんにお付き合いをさせていただいています。

<お互いの印象を語った動画はこちら!>

――六角さんから見て、舞台を離れたときの浅丘さんはどんな方ですか?

65年も女優さんを続けてこられて、今も第一線で活躍されている方ですから、それはもうすごい存在感がおありですよね。食費や光熱費のことより、自分が舞台や映像でどうやって人に喜んでもらえるかをずーっと考えてこられた方じゃないですか。面白いのは、そういう世俗に浸った経験がない方ならではの無垢さや可愛らしさというものが、プライベートなところでふと見え隠れするところです。

それは、1960年代の映画で見たままの、変わらない浅丘さんの可愛らしさの片鱗で。もちろん、人間だから年をとるけれども、きっと心の中のある部分の年齢は変わってないんだろうなと思います。

人々がフェイクニュースに巻き込まれる様をフィーチャーした舞台。今やる意義みたいなものを感じます

――朗読劇「ななしのルーシー」は、今から約100年前の不景気に覆われた大都市を舞台に、デマや嘘に惑わされやすい民衆の姿や、“世論”の脅威と脆さを描写。この作品のどんなところに魅力を感じますか?

脚本を読んで思ったのは、100年前と今では情報の媒体は違っても、人間の心理や興味関心は変わらないんだなということ。スクープのからくりや、真偽が不明なまま“噂”が記事になったりするのも、今の世の中に通じる話で。

そんな中、人々がフェイクニュースに巻き込まれる様をフィーチャーしているところに、今この作品をやる意義みたいなものを感じますね。

――今回はそこに、ユーモアとサスペンスが加わるそうで。

そのあたりは、それぞれの役を踏まえた上で、浅丘さんと僕の関係上でつくっていくことになると思います。アドリブも含めて、ちょっとした脱線や間合いがユーモアに通じたりするのではないかな?と。

――物語は、六角さん演じる記者のサンダースが、長年勤めた新聞社からリストラを宣告された腹いせに、「“ななしのルーシー”が、理不尽な社会への抗議として大晦日の晩に庁舎の屋上から飛び降りる」というでっち上げ記事を掲載することから始まります。その記事が大騒動を巻き起こし、サンダースは浅丘さん演じる元女優のルシアを、架空のルーシーの身代わり(実体) に仕立て上げます。ルシアの振る舞いが大きな見どころですが、裏で物語を操るのはサンダースになりそうですね。

そうなんです。僕は物語を回す役まわりですが、そのポジションがとてもはっきりした簡潔明瞭なホン(脚本)なので、そこはしっかりやっていきたいです。ただ、どう回すか?というのも、ルシアとの関係性の中で出来上がってくると思うので、浅丘さんにもお客さんにも毎回新鮮に感じてもらえるように、サンダース役として積極的なアプローチの中で、毎回少し違う風を入れてみたいなとも思っています。

――演劇と朗読劇では、やはり勝手が違いますか?

だいぶ違いますね。僕の場合は、セリフは読むより覚えて発するほうが感情が入れやすいんです。だから、読んでる自分に冷めないように、普段以上に役に没頭しないといけない。

それと、朗読劇は座ってやる場合が多いので、普段の芝居とは距離感が違います。たぶん、リーディングならでの距離感というのがあると思うんです。それを演出家ともども、どのようにはかっていくかが、稽古での課題になっていくんじゃないかな。

――朗読劇ならではの面白さはありますか?

実は昨年末、劇団で朗読劇を何本かやったんです。そのとき、普段なら自分に回ってこないような、やったことのない役ができたのは面白かったですね。さらに朗読劇は、実際には役者が動いてない部分を、お客さんが各々の想像力で補わなければならない。お客さんにとっても、ある意味、共同作業的な面白さがあると思いますのでそんな感じも楽しんでいただければ。

――今回は、大先輩の浅丘さんから引き出されるものもあるのでは?

そうですね。「もっとこうしなきゃいけない」とか「ここはこうした方がいい」とか、すべてのコミュニケーションは、人間のエネルギーのやりとりですから。それを役及びリーディングという場を借りて、しっかりできればなと思ってます。

――途中休憩をはさんだ第二部では、朗読劇に出演される妹尾正文さんを含む3人のトークショーが行われる予定です。六角さんは、ギターも披露なさるとか。

具体的な内容はこれからですが、貴重な時間になるでしょうね。僕のギターはそんなに長けたものではないですが、何らかの形で関わるかもしれません。

本を読んだり、音楽をじっくり聴いたり、ネットで映画を見たりする時間が増えた

――昨年は、新しい生活様式の模索が続きました。コロナ禍でご自身の心境や生活の変化はありましたか?

家で過ごす分、本を読んだり、音楽をじっくり聴いたり、ネットで映画を見たりする時間が増えて、それはそれで楽しいなと思いました。それまで、オフの日はパチンコをしてたんですけど、昨年の4月以降は自粛でパチンコにも行けなくなって…、その後もパチンコに行かなくなったんですよ。ちょっとギャンブル依存が治ったのかもしれなくて、やったー!と思ってます(笑)。

今は、読まなきゃと思いながら積んであった本が何十冊もあったのを、少しずつ切り崩して読んでいます。

――バンド活動や鉄道旅行など、多趣味で知られる六角さんですが、どんな本を読まれるんですか?

小説、ドキュメンタリー、もちろん鉄道関係と旅全般、ボクシングや音楽の本など、興味を持ったものはなんでもです。鉄道の本を読んでると、次は駅から見える島の本が読みたくなるし、島の本を読むと、より細部が知りたくなる。読まないのはグルメの紹介本だけですね。誰かがつけたランク付けを見てレストランに行くより、自分の足と舌で体験したいので。

――改めて、2020年はご自身にとってどんな1年でしたか?

ホントにアウトドア派だったのが、インドアに変わった1年でしたね。それまで時間を見つけては旅に出てたので、家にいながらも、「あー、旅に出たい!鉄道に乗りたい!!」と思っていました。ただ、何かをやりたい衝動も、それができなければ、別の方向にシフトすることで違う何かを見つけられる。それを知って、家で過ごす時間の充実度をあげられたのはよかったと思います。

役者として設けたハードルを、全然見事じゃなくていいから、なんとか超える努力をしたい

――では2021年の抱負は?

個人的には、役者として自分が希望して設けたハードルを、カッコよくなくてもいいし、全然見事じゃなくていいから、なんとか超えるために努力したいなと思ってます。2021年は、この朗読劇に加えて、あまりやったことのないミュージカルが控えてるんです。今から少しずつ準備をしていますが、自分が慣れないミュージカルの舞台に立つことで、人様にどれほど喜んでもらえるのか?を模索しながら、新しいことに挑戦したい。そういうことが還暦前にできて、幸せだと思っています。

――尽きない好奇心と挑戦心の源はなんですか?

正直、趣味関連以外で自分が自主的にやりたいと思うものはそんなにないんですけど、人から何かを求められたときに、役に立ちたい気持ちが強いんです。自分が何かを克服するというよりは、ご縁があって声をかけていただいた御恩に対して、最大限の努力で報いたい。

やるからにはやっぱり「六角に頼んでよかった」と思ってもらいたいじゃないですか。だから、期待をかけられたものに対して、想像以上のものを出したいという欲があるんです。今までもずっとそうです。

――その思いと実践の積み重ねが、現在のご活躍につながっているんですね。六角さんの俳優としてのルーツも、高校時代にたまたま入った演劇部で、のちに扉座を主宰する劇作家の横内謙介さんと出会い、役を任されたのがきっかけだったとか。始まりは偶然でも、演じることに次第にのめり込んでいかれたのですか?

のめりこむというか、これしかやれることがなかったから。ほかにもし資格があったり、有能に動ける分野があれば、そちらにいっていたかもしれない。ただ、なんの特技もなかったから、一番長く続けてきたお芝居ってものを、今も大事に思って携わってるんだなと思うと、これから先もご縁は続くのかなと思います。

――役者業にはそれだけ、がむしゃらになれる魅力や、代えがたい達成感がおありなんでしょうね。

それは、ほかの職業を知らないからわからないです(笑)。うまくできたかできないかは自分が決めることじゃないし、正直、大変なことばっかりで、達成感なんてなかなかないんです。だけど、楽日(=千秋楽)になって無事公演が終わり、いろいろあったけどなんとかなった、と「ホッ」としたときに、ちょっとした達成感があるのかな…それぐらいじゃないですか?はっきりと言える喜びって。終わりをなんとか無事に迎えるために、必死で頑張ってるみたいなものですもん。だから、なんでそれをやるのか?って聞かれたら、自分でも不思議なんですけど(笑)。

――2000年から放送されている『相棒』シリーズで、ご自身を投影したかのようなキャラクター・米沢守役で大きく注目されたときは、どんな心境だったんですか?

世間の見方と、こちらの感じ方が違ったりしたこともありましたけど、「こういうこともあるんだな」と思いました。

――新しい扉が開いた、みたいな感じはありましたか?

そんなふうには思わなかったですね。いつの間にか、生きてるうちにこうなった感じで。扉も開こうと思って無理やりこじ開けたら壊れますから、無理せずこれから先も、与えられたものになんとかついていくだけです。

――六角さんはお肌もキレイで髪もサラサラですが、若さの秘訣はなんですか?

若さの秘訣?…諦めが早いことですかね(笑)。私生活では悩まないし、自分を一切追い詰めない。あとは、ちょっとウォーキングしたりするだけ。ジジイっぽいでしょ?

――最後に、当サイトの読者にメッセージをお願いします。

これからもよろしく。朗読劇「ななしのルーシー」もそうですが、これからも生きていきますんで、よろしくお願いします。

取材・文:浜野雪江 撮影:河井彩美 スタイリング:秋山貴紀

<公演情報>

2021年3月5日(金)~7日(日) なかのZERO大ホールにて上演

公式HP:https://sunrisepromotionto.wixsite.com/nanashinolucy