去年2023年10月に放送されたドキュメンタリー作品『最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~』。
放送後、「2024年日本民間放送連盟賞」優秀賞、「第32回FNSドキュメンタリー大賞」優秀賞、「ニューヨーク・フェスティバル2024」のドキュメンタリー・Human Rights(人権)部門銅賞など、国内外の数々のメディアコンクールで受賞を重ね、大きな反響を呼びました。
また今年2024年6月には『私のママが決めたこと~命と向き合った家族の記録』が『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)で放送され、TVer「報道・ドキュメンタリー」ジャンルの歴代最高再生数を記録しました。
このドキュメンタリー制作を通じて“安楽死の現場”を取材し続け、自らの最期を選ぶ人々やその家族と向き合い続けた山本将寛ディレクターが、4年にわたる取材を通じて目の当たりにし、感じたことを手記にまとめました。
(以下、山本将寛 記)
「“ママ、スイスに行っていいよ”って言ってくれてありがとう。みんな、元気でね。」
これは、安楽死を遂げた44歳の女性が、夫と2人の娘に最後に残した言葉です。
取材者として現場で聞いたこの言葉は、強く、重く私にのしかかり、今もその意味を考えることがあります。
彼女たちを取材することになった経緯、映像には収めきれなかった現場での実際をつづります。
取材のお断りから一転
2023年4月。「安楽死」をテーマとしたドキュメンタリーの制作に向けて取材を進めていた私は、SNSで「安楽死する権利を手に入れた」と書き込んでいた女性にコンタクトをとりました。
すると、彼女から丁寧な返事が。それは「家族に迷惑をかけられないので、取材には応じられない」という旨のものでした。
その年の10月。約3年にわたる取材を終えた私は『最期を選ぶ 〜安楽死のない国で 私たちは〜』という番組を放送。
すると、一度断りの連絡があったその女性から連絡がありました。
番組を見て、取材に応じる気持ちになったというのです。
「私のケースが参考になれば」と。
その女性こそが、マユミさん、当時44歳。
彼女の病歴を辿ると、子宮頸がんから膣、膵臓、肺、頭皮、さらには脳へとわずか3年のうちにがんが転移を繰り返しており、実はこの放送があった10月に、がんが脳に転移していることが判明したのです。
こうして私は、マユミさんを取材することになったのです。
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