2000年に放送されるや、主演・松嶋菜々子演じる“金持ち”に執着する高飛車キャラの桜子と、堤真一演じる小さな鮮魚店を営む心やさしい欧介とのラブストーリーで大ヒットとなったフジテレビの月9ドラマ『やまとなでしこ』。

このたび、全11話のドラマを前編(第一夜)・後編(第二夜)に再編集した『20周年特別編』の放送が実現し、注目を集めている。

7月6日(月)に第一夜がオンエアされると、リアルタイムで見ていた視聴者はもちろん、当時を知らない世代からも「松嶋菜々子の美しさに圧倒された」「初めて見たけど、本当に面白い!」「池の中でのキスシーンがきれいすぎる」「20年前?全然古くない」といった感想がネット上をかけめぐった。

そこでフジテレビュー!!では、13日(月)放送の第二夜を前に、ドラマ好きライターの2人に、『やまとなでしこ』を語りつくしてもらう対談を企画。ラブコメの最高傑作と名高い作品の魅力はどこにあるのか、当時、バリバリの編集者だったという信子(現在アラフィフ)、高校生だったという庸平(現在37歳)のコンビが、忖度なしで語る。

信子&庸平のドラマ放談『やまとなでしこ』編>

――『20周年特別編』の第一夜放送後、SNSでもトレンドになるなど、かなりの反響がありました。おふたりはどのように見ましたか?

信子:話したいことはたくさんあるけど、ガラケーがとにかく懐かしかった。しかも、桜子の着メロが「森のくまさん」!

庸平:「森のくまさん」の着メロって、当時の最先端だったんですか?

信子:違うと思いますよ。桜子は、王子様を待ち望んでいるお姫様願望のある女性だから、その“少女性”みたいなものを演出したかったのかも。

庸平:あれだけの美人が「いつか王子様が」とか言ってたら、ちょっとメルヘンすぎませんか?でも、絶妙にバランスが取れているからリアリティがあるんですよね。桜子が、欧介の昔の恋人に似ているという設定も、少女漫画チックで、ベタなんだけど、なんでグッと来るんだろう?不思議です。

信子:ベタベタなんだけど、さりげないんですよね。

庸平:過労で病院に運ばれた時、東十条さん(東幹久)が夜通し手を握ってくれていたと桜子は勘違いしているけど、本当は欧介さんだった、とかベタなんですけど…。

信子:しかも、その事実を桜子はトイレで盗み聞きするという少女漫画的展開!そもそも、最初の桜子と欧介のデートのシークエンスで、桜子が医師としてではなく人間としての欧介に惹かれていることがきちんと描かれているんですよね。

庸平:そう。そして、そのデートの終わり、夜の公園で、ボートから落ちてキスするんです。

信子:本当にお金目当てだったら、デート中に寝たりしません。それだけ、桜子がリラックスして心を許していたってことだと思います。

庸平:あんなに気取ってる桜子が、欧介の前では裸足で公園を駆け回ったりできる。好きな人の前では自然でいられるというのが、嫌味なく伝わりました。僕が印象的だったのは、あのデートの後、欧介が魚屋さんだって判明したときの、「嫌いになりました」っていう桜子のひと言。

信子:笑顔でサラリと言うんですよね。

庸平:それなのに、欧介への思いが残っている感じが見える。最初にそこがきちんと提示されるからこそ、桜子自身が彼のことを好きだと気付くまでを描く過程に深みが増すし、視聴者としては「早く素直になれよ~」っていう、じれったさを楽しめるんですよね。お互いに嘘をついているという設定を引っ張らず、作品の序盤でバラしたのも英断だったと思います。

信子:それにしても、あのキスシーンはドラマ史に残る美しさでしたよね。月明りとMISIAの主題歌がバッチリ合って。

庸平:あのシーン、撮影したゴルフ場の池の水を、全部入れ替えたって聞いたことがあります。どうやったらキレイに撮れるか、キラキラ映るかというのを、制作陣がしっかり考えて、丁寧に作っているのが伝わってきますよ。

信子:演出は若松節朗さん。恋愛畑ではないのが、大きかったのかも。キラキラした恋愛ドラマを作ろうとすると、なんとなく嘘くさくなったりするけど、リアリティをもって人間関係が描かれていましたから!

庸平:本当に。人間ドラマの部分もきちんと描いていますよね。作品がリアルタイムで放送されていた時、僕は高校生だったんですけど、大人のドラマだなぁと思って見ていました。

信子: 欧介と(友人の)粕屋(筧利夫)、佐久間(西村雅彦/現:まさ彦)は、35歳という設定。堤さんと、筧さん、西村さんという小劇場出身の人たちの関係性とお芝居が絶妙で。

庸平:3人のシーンはアドリブみたいで、ごちゃごちゃ感が!王道の恋愛ドラマの中に舞台的な動きをする人がいるのが面白いですよ。いわゆる“キラキラ系男子”はいないからこそ、男性が見ても楽しめるのかもしれない。

信子:芝居のできる人をちゃんと持ってきたからこそ、リアリティが増したんでしょうね。桜子の設定は27歳、松嶋さんもちょうど27歳になったところでした。今見るとすごく大人っぽいですよね。

庸平:桜子のセリフに「女が最高値で売れるのは27歳」というのがありましたけど、現代だともうちょっと年齢が上がっているでしょうし、今は全体的に幼くなっているような気がします。自分の年齢が上がったせいもあるかもしれないけれど(笑)。

信子:SNSでも松嶋さんの美しさ、可憐さが絶賛されていましたね。当時の番組広報担当者によると、松嶋さんを取材した多くの媒体のカメラマンさんはみなうっとりしていたそうですよ!

庸平:僕がリアルタイムで観ていた時は、桜子は高飛車な美人キャラだと思ってたんですけど、今見ると美人というよりキュートな感じ。お金持ちしか愛せない嫌味な女性を、かわいらしく演じているから、共感できるし、応援したくもなるんでしょうね。

信子:松嶋さん、声もかわいいんですよねぇ。結婚したのが01年だから、恋する女性の顔がよりリアルだったのかも。女優のキャリアとしては、この前の年『魔女の条件』(※)をやってるんですよね。

※滝沢秀明演じる男子生徒と禁断の恋に落ちる教師役を演じた(1999年/TBS)。

庸平:作品選びがすごいですね。禁断の恋をやったあとに、これですもんね。

――物語は、桜子と欧介のラブストーリーを軸に描かれますが、桜子と若葉(矢田亜希子)の関係についての印象は?

信子:ラブホテルから若葉と出てきた欧介に、桜子がひどいことを連発して言うシーンで、「怒るなんて変ですよ」と若葉が言うんです。でも、桜子は怒っていることに気づいていないから「怒る?私が?」って(笑)。

普段、仮面のように笑顔を絶やさない桜子が、欧介の前では怒ったり、感情がむき出しになったりするという脚本、良かったですよね。東十条さんの前では、感情が揺れることがないですもんね。

庸平:僕は、女同士の友情に関しては、疑問に思いました。先輩・後輩で同じ男性を好きになったりしたら、もっとギスギスしそうじゃないですか。でも、あのときの若葉のひと言でちょっと理解できた気がするんです。

桜子は、本当に若葉に慕われているんだなって。愛より金と突進していく、その潔さにはむしろ尊敬の念すらあるんじゃないか、と思えるようになったんです。

信子:自分にはない才能だと感じ尊敬しているのかも。脚本としては、女同士のギスギスは描かず、「桜子と欧介を描く」ことに集中しているんですよね。

庸平:そう。若葉を嫌な女にして、女同士のバチバチを描くということもできたんでしょうけど。他の要素を削ぎ落としたから、上手いこといったんだと思います。それにしても、若葉はいい子すぎませんか?

信子:あんなにかいがいしくてお母さん(市毛良枝)にも気に入られてるんだから、「若葉でいいじゃん、欧介!」って言いたくなっちゃうくらい(笑)。若さを武器にホテルで既成事実を作っちゃって…という展開も考えられますけど。あえてそうしていない。

庸平:だからこそ、若葉の恋も見ていて辛いし、切なくなる。矢田さんは『恋ノチカラ』(フジテレビ/02年)でも堤さんと結ばれない女性を演じていたけど、いい意味で圧倒的なヒロイン感がなくて、可愛らしいから逆にいいんですよね。

信子:一方で、桜子は、ヒロインっていう言葉のために存在するかのような存在。最近のドラマは「親近感があるヒロイン」が多いから、ものすごく鮮やかに見えました。若葉に限らず、悪者が出てこない作品ですよね。

庸平:東幹久さんが演じる東十条も、すごくいい男で。

信子:桜子が待ちわびる“王子”の一歩手前、という意味を込めて、王子駅の隣の東十条駅を名前に付けられちゃったらしいですよ(笑)。

庸平:そうなんですね、知りませんでした(笑)。あわれですけど、東十条を含め、無駄なキャラが一つもない。

桜子が公園の門を乗り越えるのも、今やったら炎上しちゃう?

信子:ファッションもステキでしたよね。当時、女性誌はこぞって「桜子ファッション」を特集していて。セリーヌ、ヴァレンティノ、グッチ、ディオールなどハイブランドが衣装を提供しているんだけど、松嶋さんが見事に着こなしているんですよね。

庸平:一歩間違えたら、嫌味になってしまいそうですけれども。

信子:品はあるけどゴテゴテしていない。洋服に対する愛情と理解があるからこそ、あそこまで上品に着こなせるんだって、今回改めて気付きました。あれだけのハイブランドをあれだけの着数使用するというのは、今ではなかなかできないでしょうね。

当時ならでは、ということで言うと、桜子が靴を脱いで公園の門を乗り越えるのも、今ではできない演出かも。不法侵入って炎上しちゃう(笑)。

庸平:桜子がハイヒールを投げ捨てる演出がいいのに!確かに今は難しいかもしれませんね。

信子:ちなみに、桜子が住んでいる風を装っている“代官山アドレス”は、当時話題のマンション(00年8月開業)。代官山の駅からすぐの立地で、羨望の的でした。

庸平:へぇ、そうだったんですか。欧介の魚屋さんも、代官山なんだから売ったらけっこういい値段になったかもしれないですね(笑)。

信子:それと、忘れてはいけないのがMISIAの主題歌の大ヒット。披露宴で「Everything」を使うカップルが急増しました。

庸平:いいドラマはいい主題歌とセットですからね。ドラマのオープニングで流れて、クライマックスのシーンでも流れるのは、『東京ラブストーリー』(91年)もそうでしたけど、まさに“月9パッケージ”という感じで。ピッタリとハマりました。

信子:「ここで来て!」っていうところで、ちゃんと流れてくれる(笑)。

庸平:キャスト、物語、主題歌と…いろいろなものの相乗効果で盛り上げていく。すごい時代でしたよね。『やまとなでしこ』以降、視聴率が30%超えた王道の恋愛ドラマはないそうですから。

――おふたりは、7月13日(月)放送の第二夜をすでにご覧になったとか?

庸平:一足お先に見せていただきました。物語が進むにつれて、桜子の本音の“ダダ漏れ度”が加速していく感じを楽しんでほしいし、どうやって彼女が欧介を“本当に好きになる”のかは見逃せません。あと、桜子と父親(小野武彦)との再会のシーンも、本当にグッときます。

信子:本当に素晴らしいシーン…!松嶋さんの気持ちができあがるまで、ストロークを長く取ってグッとこらえた演出も絶妙ですよね。

庸平:余計なセリフをしゃべらせて泣かせようという感じが一切ない。全編を通して桜子の人となりを丁寧に見せてきているから、家族のエピソードが突然挿入されても違和感がないのは見事だと思いました。

信子:桜子のメイクがどんどんナチュラルになっていくのが分かると思いますよ。若葉もそうだけど、好きな人の前では飾らない自分でいられる、素直でいられる、というのが、見た目でも演出されているんですね。

庸平:メイク!そんな観点で見たことがなかったので、面白いですね。言われてみれば、食事のシーンも変わりますね。

信子:ゴージャスな洋服を来ておしゃれなレストランにいる桜子以上に、ボロアパートでパーカ姿でパンをかじっている桜子もキュートなんです。

庸平:確かに!そういう、連ドラだとスルーしてしまいそうな微妙な変化は、(話数を凝縮して放送される)『特別編』のほうが気付きやすいかもしれませんね。

信子:あと、見逃しちゃいけないのは、ウェディングドレスで町中を走るという、月9の“定番”。

庸平:そう!『ロングバケーション』(96年)では、山口智子さんが白無垢で走っていましたね。王道ラブストーリーって、男性は特に敬遠しがちですけど、映画と同じようにいい作品は語り継がれていくべきだと思うし、丁寧に作られていた昔のドラマを観る機会は本当に貴重だと思います。

信子:「昔は良かった」みたいに過去を美化して懐かしむとかじゃなくて、こういう本当に良質な作品こそ、若い視聴者はもちろん、若いドラマ制作者にも見てほしいです!