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米国での事故により下半身不随になって21年。障がい当事者が監督した映画『Maelstrom マエルストロム』の制作秘話。「自分の人生を取り戻し、過去を失わないために」

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ムービー・アクト・プロジェクトが配給するドキュメンタリー映画『Maelstorm マエルストロム』は、2023年12月2日より、神奈川県横浜市にある劇場、横浜シネマリンにて公開されます。このストーリーでは、監督である映画作家/アーティストの山岡瑞子さんが、幼少期から始まり、ニューヨークで大怪我を負ってから現在に至るまでを振り返ります。本作は5年半に及ぶ制作期間を経て発表され、海外の映画祭で高く評価されました。日本で生活する障害当事者であり、同時に世界各国で評価される映画作家としての思いを綴ります。

NYの美大を卒業した1ヶ月後の交通事故で下半身不随に



私は2002年5月にNYの美大を卒業して、これからアーティストのアシスタントとしての経験を積みながら、自分の作品をブラッシュアップしてゆこうと思っていました。同年6月1日新しいアパートの契約のために自転車で向かっていた時、車に撥ねられ右顔面から落下し、頚椎の最下部を損傷。一発アウトで目が覚めたら下半身不随になっていました。もう少し上部を損傷していたら、麻痺はもっと広範囲に及んでいたかも知れません。再生医療の発展如何では傷ついた脊髄を再生させ、脚が動かせるようになるかも知れないと言われましたが、普通には、傷ついた脊髄は回復しないことを、当事者になってみて初めて知りました。



事故に遭う前のNYでの生活でも色々な理由で不安やストレスが多くありましたが、その次元どころではない大波に飲まれた感覚でした。アメリカの病院で3ヶ月緊急入院していた当時は、ちょっとしたことで気を失ったり、1人では何も出来ない、本当に重症のケガ人でした。家族の協力で帰国のためにやらなければならない諸々の手続きや手配をしていきましたが、車椅子生活となると長い余生がどうなるか、想像すら出来ませんでした。私が育つ過程で見てきた日本社会を想像すると、脚が不自由になって帰国することに嫌なイメージしか湧きませんでした。


車椅子で帰国してからの日々

帰国し、日本のリハビリ病院に1年間入院しました。NYでの病院では、脊損者は私1人でしたが、日本の病院は脊損者が多い病院でしたので、それぞれに起きた厳しい現実の数々を目にしました。医療の世界に関係ない一般の生活と、事故に遭って入院して目にする現実との間に、大きな壁があると感じました。退院後には、再生医療促進活動をしている組織の運営に関わったりしていましたが、事故の前に目指していた世界と事故の後に関わっている世界とのギャップに苦しみました。今、感じている感覚を何かにして残さないと、なかったことになるだろう。こんな不自由な状態でどうやったらNYの大学で目指していた世界に繋がり直せるのか。どう進んでいくべきか全く見えない状況から、見ていることや考えていることを記録に残していくことで、いつか世界と繋がり直せるかもしれない、という予感がしました。


映像編集を勉強し直し、作品制作に取り掛かった

脚が不自由になり、感覚も失って暮らす日々が長くなってくる中で、事故前の自分を、自分ですら忘れてしまいそうで、その怖さから、幼少期からずっと抱えてきた自分の苦しさも全て描き、事故前も事故後も1人の人間として繋ぎ合わせることもテーマになりました。学生時代には映画に関わることには全く興味がなかったので、映像編集の勉強をし直し、短編を数本作った後、この作品に取り掛かり始めたのが2016年。それから5年半かかり2022年に完成させました。事故から20年、ずっとあるかすら分からない対岸を探して海面を漂っているような状態だったのですが、「対岸は存在した。辿り着けた」と。

完成し、国内外で色々な人たちに観て頂いたことで当初の希望どうり、現実が確実に変わっていきました。



「自分が当事者になったら」と想像出来る方にぜひ観ていただきたい


この映画は、プロの第三者が、売れる話を映画化したりプロデュースしたりする作品ではなく、脚が不自由になり、いくつもの絶望に直面している女性である私が、自分を取り戻す必要性に駆られて企画、制作、編集をし、友人たちに一部撮影してもらったりしながらまとめ、完成させた作品です。

事故は私たちの日常生活に繋がっており、いつ自分や家族が障害を負うかなど、未来は誰にも分かりません。自分が当事者となったらどんな選択をしていくのか、柔軟に考えることの出来る想像力の豊かな方々に観て頂きたいです。また、中途障害者の障害受容について考える方たちにも、何か参考になるかも知れません。行政や教育、建築関係者、当事者になった時に経験することに関心がある方々、アートに興味がある方や子育て中の皆さんなど、挙げていくとキリがありません。誰かの困難について聞く耳を持つことの出来る方に観て頂きたいです。



選択肢が限られることで奪われていく本来の自分らしさ


私たちに与えられた時間は、実はとても短いことを日々実感します。この映画は、他のプロの方が関わる作品に比べ撮影技術や編集技術は劣るかも知れません。でも、自分の人生を前に進めるには、どうしても私は作品として完成させる必要があったのです。

誰でもいざ、自分のことを映画にしようと自分の日常を記録し始めても、日常生活で何か全部を解決出来る劇的なことなんて起きません。私が今後、何年生きても不自由な身体で生きなければならないことは変えられないですし、日本にいますし、脊損者のコミュニティにいましたし、アート界との繋がりも作れず、ずっと足掻いていました。

こんな日常を何年繰り返しても、制作中この作品がどんな結論を迎えるのか、全く見えませんでした。でも、諦めずに何か起きる度に何回もナレーションを書き直し、録音をやり直し、時には1人で泣きながら編集しました。完成までに5年半もかかってしまったのですが、「完成しなかったらこの状況から一生這い出せないよ」と、何度も自分に言い聞かせながら作業を続けてきました。



中途障害者である私は、車椅子ユーザーである今の自分の身体の状態は後天的なものであり、何年経とうとも、今の不自由な身体には違和感があります。私は主に移動は車なのですが、たまに必要があって電車移動すると、車椅子だと邪魔になるからと、混み合う場所や時間は避けて先に帰ったり、通路を塞いでしまうので本屋には行かなくなり、段差がある場所には入るのを諦め、どこか初めて入る施設には必ず連絡を入れ、入れるかどうか確認することが日常になります。「行きたい」より「入れる」が優先される毎日が積み重なってくると、本来の自分は何に惹かれて、何を選んできたかなど、自分らしさを作ってきた趣向などをどんどん忘れ、奪われていきます。

自分と家族や限られた人達しか、健常者だった頃の私を知らないですし、まるで事故前の私は無かったかのようになってきました。


自分の人生を取り戻し、失わないために作られたドキュメンタリー

私の部屋のクローゼットには、大学時代の作品のスライドや、少しの映像、NYで撮った写真などが収められています。それらは、私がただ部屋の隅っこで「私にも自由な時間があった」と泣いて日々を過ごしていたら、ある日孤独死して全て、誰にも見られることなく廃棄される運命でした。それは私自身が何の努力もしなかった結果であり、私が事故に負けた、敗北したことになります。私は心から、事故なんかに負けたくなかったーー。



思ったんです。アートの分野で表現することを目指していたのなら、自分がその場に戻るためにトライし続けなければならない、軌道修正しなければならないと。自分の人生を取り戻すために、失わないために。だから、この作品のように、作る必要に駆られて作られた、ドキュメンタリー映画があってもいいと思っています。被災地や紛争地に行かなくても、あなたの横に今を生きるために1人で戦っている、苦しんでいる人は沢山いると思います。そんな私の大混乱の日々を追体験する79分間が、観た方にどの様な感情をもたらすかは、人それぞれなので分かりませんが、その都度私が考えてきたことを最低限の言葉で書くように意識しましたので、何か感じて、参考にして頂ければ嬉しいです。そして、車椅子に座っている私も、あなたと同じ人間であることを感じて頂けたら幸いです。


米国、ドイツ、ポルトガル、そしてオーストリア・ウィーンの映画祭で上映。評価をいただいて感じること


最初に評価して下さったのは、ピッツバーグ大学内のJapan Documentary Film Award でした。審査員の中に想田和弘監督がいて、感動的なエールを贈ってくださいました。ピッツバーグに舞台挨拶に行かせて頂きましたが、こんなにも受け止めて頂けるとは予想外でした。多国籍な空気がかつての私の日常だったので、その頃に戻ったかのようでした。ピッツバーグで何十年ぶりに米国内の美術館に行きました。マットレス・ファクトリーという現代アートの美術館にも頼んで連れて行ってもらいました。また自分がNYにいた時のアートの空気に触れたみたいで、本当に嬉しかったです。「完成させて、めげないで色んな映画祭にトライしてみて良かった、自力で扉を開けた」という経験は、何よりも輝く宝物となりました。


ピッツバーグ大学 Japan Documentary Film Award にて


その後は東京ドキュメンタリー映画祭に、2023年に入るとPORT FEMMEというポルトガルの女性映画祭に、6月にはドイツ・フランクフルトで開催されているニッポン・コネクション映画祭での上映が叶い、フランクフルトにも行きました。また、10月にはオーストリア・ウィーンで開催されている日本映画祭、JAPANNUALにも参加させて頂きました。ドイツやオーストリア・ウイーンは、留学初期に大変お世話になった方々と過ごした、私の人生で最良の思い出がある場所です。スタッフの皆さんのご尽力のお陰で、ずっと叶わなかったウィーンの再訪は、本当に幸せな時間となりました。


ニッポンコネクション映画祭(フランクフルト)にて


この映画で達成したかった大きな目標の一つが、事故前に関わりがあった国での上映だったので、アメリカ、ドイツ、オーストリアの映画祭での上映がかなって、達成することが出来ました。どこで上映しても、そこには理解してくれる人は必ずいました。だからもう、自分が出来るベストを尽くして作った後は、世界に向けて色んなところにトライすればいいんだと思いました。どの国に行っても感覚が合う人と合わない人は同じ割合でいましたし、必ず理解してくれる人はいましたから、その人達との出会いを信じて作っていくしかないのかな、と思います。



私は20年かけて、事故前の駆け出しというスタートラインに戻って来るという夢を叶えました。今後どんな作品を作っていけるかはまだ分かりませんが、失敗を恐れずに新しい経験をするためにトライしていきたいと思っています。

【映画情報】

ドキュメンタリー映画『Maelstorm マエルストロム』

2023年12月2日(土)〜8日(金)

横浜シネマリン(横浜市中区長者町6-95) Tel. 045-342-3180


<あらすじ>

2002年6月のはじめ、NYにある美術大学を卒業し、あと一年間プラクティカル・トレーニングビザで滞在予定だった留学生が、アパートの契約金を下ろしに銀行に向かう途中、事故が起きた。こんな事故は日常に見聞きする、よくあること。殺人事件に巻き込まれなくて良かった。でも、その留学生は、その家族は帰国後、どうなったのだろうか。突然、それまでの日常を失い、それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさを繋ぎ止めるのか−−−。事故の当事者になった“私”は、大混乱の中、変わってしまった日常の記録を始めた。事故前の自分と繋がり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら−−−。


<予告編>

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【展覧会情報】

Artwork from the Documentary film "Maelstom" by MIZUKO YAMAOKA

〜ドキュメンタリー映画『Maelstorm マエルストロム』の山岡瑞子のアートワークス


会期:2023年12月2日(土)〜10日(日)

会場時間:13:00〜18:00 入場無料/会期中無休

アクセス:高架下 Site-Aギャラリー

横浜市中区小金町1-6番地先(京急線 日ノ出駅・黄金町駅より徒歩5分)

オープニングパーティ:12月2日(土)18:00〜


主催:映画『Maelstorm マエルストロム』連携企画実行委員会

後援:アーツコミッション・ヨコハマ






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