初監督作「アフロ田中」をはじめ、日本の映画・ドラマ界を支える俳優たちが本人役で出演した「バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」など、話題作を続々世に送り出している松居大悟監督の最新作「くれなずめ」に出演している若葉竜也。

友人の結婚披露宴で余興を披露するため、5年ぶりに集まった高校の帰宅部仲間6人が二次会までの数時間、学生時代の思い出を振り返るうちに、皆が目を背けていた“友の死”に向き合わざるを得なくなる――そんな物語で若葉は、役者の明石役に扮している。

言語化できない、人間のザラザラした部分を体現することを意識して演じました

――まずは完成作の感想から聞かせてください。

松居さんの作品の中で最高傑作になったのではないかと。台本を遥かに飛び越えた面白さだったので、安心しました。

――撮影前に1週間かけてリハーサルを行ったそうですね。

短くちょこちょこやっていたので、1週間やったという感じがしないんですよ。人によってはそこで芝居を固めた人もいたかもしれませんが、僕自身はセリフを曖昧に入れる程度で、動きに関してもなんとなくこういうことかと確認するぐらいの感覚でした。

これは藤原季節から後々聞いた話なのですが、リハーサル初日に季節とハマケン(浜野謙太)さんと、目次(立樹)さん以外来ていなかったそうで、その時から6人の関係性ができていたんだなと。

――その関係性について詳しく聞かせてください。

季節が演じた大成は根っからの後輩気質。季節は6人の中でも一番年下なので、皆の弟的な立場で。一方、最年長のハマケンさん扮するソースはみんなのいじられ役。現場でもハマケンさんはなごませてくださる存在でした。目次さんは唯一、地元に残って働く誠実なネジ役で、実際も落ち着きのある大人な方なんです。役柄と実際の性格が撮影以外のところにも表れていたんだなと感じました。

――リハーサルは自主参加だったんですか?

いや、たまたま3人(若葉、成田凌、高良健吾)が遅刻しちゃったんですよ。到着したら松居さんが座っていて、なんとなく雑談みたいなものが始まって、「リハやるか…」って動き出すという。もうちょっとこのまま雑談をしていたいけど、リハもやらなきゃいけないしという感じだったので、リハをきっちりやったという感覚はないんですよね。

――作品を拝見して印象的だったのは、皆さんのやりとりにリアリティがあったことです。

それは「くれなずめ」や松居さんの作品に関わらず、何かモノをつくる作業においてめちゃくちゃ大事なことで、直接言葉にはしなくてもみんなわかっていたような気がします。

――セリフのキャッチボールをするうえで、意識したことはありますか?

僕個人のことになってしまいますが、芝居が巧(うま)いとか下手とか、セリフが明瞭だとかそういうことではなく、言語化できない人間のザラザラした部分を体現しないと、映画としてダメだと思うし、松居さんの現場では特にOKが出ないだろうと考えていたので、そこはすごく意識しましたね。

――共演の皆さんは同級生役とはいえ、実際は年齢もバラバラ。コミュニケーションはどんなふうにとっていたのですか?

みんな人見知りだけど、大人だから頑張ってしゃべるみたいな(苦笑)。「はじめまして」「どうぞよろしく」では、学生時代を共に長く過ごした仲間の空気感は出せないことを共通認識としてもっていたので、必要以上にコミュニケーションはとっていました。

――そんな出会いをふまえ、6人でお芝居をした感想を聞かせてください。

成田凌さんは何回か共演していたので、自分の中での勝手な“成田凌像”というものがあったんです。そんな中でも今回、改めてスバ抜けたピュアさをもっていると感じました。主役として信頼できたし、彼についていこうと思えたんですよね。

季節とは以前から面識があって、高良さんとは初共演だけど、たまに飲み屋とかで会ってあいさつはしていたので、お互いなんとなくは知っていました。

完全に“はじめまして”だったのは目次さんとハマケンさん。目次さんは不器用でいびつで愛らしい人。初対面から好印象でした。ハマケンさんは本当に大人。疲れている時も一生懸命元気に振る舞ってくださるし、包容力を感じましたね。

――成田さんが演じた主人公・吉尾からは、どこか懐かしさのようなものを感じました。

吉尾みたいなやつが学生時代、実際にいて、いじめられっ子でもなければいじめっ子でもない。優等生でもなければ劣等生でもない。だけど、なぜか一緒にいたという…。脚本を読んだ時に当時のことを思い出して、そこにすごく切なさとノスタルジー、もの悲しさを感じました。

――若葉さんが演じた明石からはどんな印象を受けましたか?

みんなに向ける優しさが長所ではあるけれど、それは弱さでもあるという印象をうけたんですよ。すごく好きな人物ですけどね。

――そんな明石を演じるうえで大事にしていたのはどんなことでしょうか?

整理整頓されたものを提示したくないという意識はすごくありました。1900円を払って上手なお芝居を観に映画館へ行きたいと客としての僕は思っていなくて。それよりも人間として匂い立つものや心を動かされる経験をしたくて映画館へ行くので、今回もそういう思いを念頭において、演じていました。

――明石たちは結婚披露宴の余興に、かつて文化祭で披露した“赤フンダンス”を用意しますが、ダンスの練習にはどれぐらい時間をかけたんですか?

5日間ぐらいはやったんじゃないかな。ダンス嫌いなんで、超絶つまらなかったですけどね(苦笑)。現場でもずっと「やりたくない」って言ってたんですよ。単純に恥ずかしいですよ、赤フンで踊るなんて(笑)。

――赤フンに抵抗は?

赤フンで踊るって、変な仕事だなぁと思いながらやっていました(笑)。やりたくねーなぁって。

――2月に公開された今泉力哉監督作「あの頃。」ではハロプロアイドルのダンスを披露していましたが、踊る作品が続きますね。

オファーをいただけるのはありがたいことですけど、やはりダンスは嫌いなのでやりたくないです(苦笑)。

――明石たちが赤フンダンスに熱中したように、仲間と一丸となった経験はありますか?

僕はあまりそういうことに参加してこなかったタイプなんですけど、強いてあげるとしたらバンドかな。むりやり青春を自覚して、楽しんでいた記憶があります。

――では、劇中の明石たちのようにくだらないことで笑い合える仲間は…。

小中学校の友達とすごく仲良くて、いまだに週1で集まる関係性です。

――その中における若葉さんはどんな立ち位置なのでしょう?

この中でいったら高良くんが演じた欽一に近いのかな。出しゃばって何かをするわけでもないし、なんとなく状況を見ているという感じですね。

「とてつもなくいい役者?」よくない時が怖いからあまりハードルを上げないで(苦笑)

――松居作品はすべて見ているそうですが…。

正直な話、松居さんの作品の中でも自分の選り好みがあるので、すべての作品が大好きで、「やった!出演できた!」みたいな感覚ではなく、松居さん本人に興味があったんです。

――どんな部分に興味をもっていたのですか?

初めて松居さんの作品を観たのは、確かまだ青山円形劇場があった頃で、池松壮亮さんが出演していた「リリオム」という舞台でした。

終演後、ロビーにいたら楽屋から松居さんがふと出てきて、当時すでに松居さんは監督として注目されていた方なので、「へぇ~、この人が松居大悟っていうんだ。穏やかそうなのに心の中は尖りまくってて、ドロドロしてるんだな」ってなんとなく感じたんですよね。そのことを鮮明に覚えていて、ずっと気になる存在だったんです。

――そんなふうに興味をもっていた方の作品の中で、この「くれなずめ」が一番好きな作品になったと…。

以前の松居さんは、無理やり尖ろうと意識していたのかなって。これはあくまでも一観客としての意見なんですけど、この「くれなずめ」はそんなものどうだっていいや、俺が今やりたいことをやろうと思って開き直ってつくったら、今までのどの作品よりも尖っていたという逆転現象みたいなことが起きたと感じたんです。そういう作品に携われたことがうれしいし、自分が出演しているからとかではなく、松居さんの映画で一番好きです。

――松居作品の魅力はどんな部分だと思いますか?

「すべてが喜劇であること」かな。どんなに悲しいことでも視点を変えたら喜劇だし、その人たちが苦しくなればなるほど面白いことが起きる。松居さんが抱擁してくれる世界の存在を感じています。

――松居さんが若葉さんのことを「とてつもなくいい役者」だと評しています。

いやいやいや、「よくない時が怖いから、あんまりハードルを上げないで」と思います(苦笑)。「あいつはいつもダメだ」って言ってくれたほうがいいな。

――この作品の中にも仲間たちと過ごした、くだらないけれど愛おしい瞬間があふれていました。若葉さんにとっての愛おしい時間とは?

地元の友達や後輩と一緒にゴハンを食べてる時間ですかね。それを死守したいがために仕事をしているところがあるので、そういう時間が一番愛おしいです。

――ちょっと話がそれますが、本作の主題歌はウルフルズが担当しています。「朝ドラ『おちょやん』のテルヲ(トータス松本)と小暮さん(若葉)と一平(成田)のコラボだ!」とうれしくなりました。

それとはまた違う脳でやるので、僕ら的には「縁があるなぁ」ぐらいですよ。トータスさんはこんな詞を書くんだ、成田凌は本番中にこんな顔をするんだ、カットがかかったらこんな表情になるんだなど、これまで見たことのない姿を見て、さらに好きになっていきました。

――そういえば、少し前に“小暮ロス”も話題になりましたね。

僕としてはまったく実感ないですね。生活が大幅に変わったこともなく、粛々と暮らしています。

――街で声をかけられることなどありませんか?

ないです。マスクをしているし、帽子もかぶってるし、僕は目が悪いのでメガネもかけているので。この間、うどん店で食べていたら、斜め向かいに座っていた奥様たちが『おちょやん』の話をしていたんですよ。僕は食べてる最中だからマスクも帽子も取っていて、「これは気づかれるかな」と思っていたら、まったく気づかれませんでした(笑)。

――そばに小暮さんがいたというのに。できることなら、若葉さんの存在に気づいた皆さんの反応が知りたかったです(笑)。では、最後に公開を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

コロナのこの時代ですが、僕は映画館でたくさんの方が肩を並べてこの作品を観ている顔がすごく見たいんですよ。映画をみつめる時間を皆さんと共有したいです。

撮影:河井彩美

<「くれなずめ」ストーリー>

高校の帰宅部仲間6人が、友人の結婚式に参加するため、5年ぶりに集まった。

優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、東京の会社に勤める大成(藤原季節)、地元の工場で働くネジ(目次立樹)。

高校時代、文化祭でコントをした結果仲良くなった6人は、卒業後も毎年集まってはバカ話に興じていた。だが、ある出来事を境に疎遠になっていたのだ。

欽一の呼びかけで久々に再会した仲間たちは、結婚式で披露する余興の打ち合わせを行ったり、カラオケでだべったり、これまでも変わらない時間を過ごす。

そして、結婚式当日。渾身の赤フンダンスを披露するはずが昔のようにはバカをやれず、盛大にスベってしまった6人は、すっかり意気消沈。さらには、2次会までの3時間余りをどう過ごそうか悩んでいた。会場近くの店はどこも混んでおり、6人は仕方なく道をほっつき歩きながら、他愛無いやり取りで場をつなぐ。

ふとした会話で脳裏にフラッシュバックするのは、過去の思い出。明石は、吉尾と出会った12年前の高校時代を回想し、ネジは大成と吉尾とお泊り会をした9年前を懐かしむ。欽一は仙台で働く吉尾を訪ね、おでん屋で飲んだ6年前に立ち返り…。やがて明かされていく、それぞれの胸にしこりを残した、5年前の“あの日”。

「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな。なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも」

そう、彼らは認めたくなかった。ある日突然、友人が死んだことを――。後悔し続けた明石と「はっきりさせようとすんなよ!」という欽一の取っ組み合いを発端に、それぞれは胸にくすぶる想いをぶつけ合い、わだかまりを解消させていく。

5年分のすべてをさらけ出し、再び団結した仲間たちは、「過去を書き換える」一世一代の大芝居に挑むのだった。

©2020「くれなずめ」製作委員会
2021年5月12日(水)より全国ロードショー

最新情報は映画「くれなずめ」公式サイトまで。