この日記の9割はウソだと捉えていただければ
――16年ぶりに日記を書いた感想を聞かせてください。
正直に言うと、「何月何日の内容かわからないけど、だいたいこの辺りだったかな…」って後から書いたり、忘れちゃうから担当者にメモしてもらったりした日もありました。「本当にこの日、こう思ったの?」って裁判で聞かれたら、自信はないね。だから、この日記で言っていることの9割はウソだと捉えていただければ。残りの1割は一体どこにあるのかっていうね(笑)。
――日記のなかで「毎日楽しいことなんて、そうそうない」「日記をつけさせられると、たまにあるはずの楽しいことも、『実は、ほぼ、ない』って気づかされる」と書かれていたのが印象的です。
意外とね、そんな変わったことって毎日はないんだよね。自分のスケジュールを書くくらいしかないし、何も浮かばなくて1日1文字っていう日もありました。
でも365日、毎日ドキドキするようなことばかりだったら、ちょっとおかしくなっちゃうよ。平均的な日常のなかに、凸凹があるわけじゃない?取り立てて何かなくても、鳥が飛んでいるだけで面白い日もあるし。何もしないバカみたいな日が続くから、なんとか生きていけるのかもしれないね。
とにかく、1年間日記を書くのはなかなか難しかったです。
――発売後の反響はいかがですか?
皆にこの本で引っ叩かれそうになりましたよ。違うか(笑)。周りは「また出したんだね」みたいな反応です。これはよく言っているんだけど、10年後ぐらいにまた本を出すと思います。その時はたぶん、著者は僕じゃないと思う。
10年後に何をしゃべるかわからないけど、77歳からの10年間って結構キツイと思います。今だって細胞がだんだん衰えて、言葉があまり出ないもん。「うん、あぁ、はいはい」って言っておけば、わかった風に見えるから。時々、よく聞こえなくてもわかった風を装うから、話が食い違っていたりするんだよね。
これから先もっと言葉が出なくなったら、もう日本語をしゃべっていないと思います。全部英語だと思う。
――喜寿を迎え、これまでを振り返ってどんなことを思いますか。
人生は本当に早いと思います。この前読んでいた本によると、「人生は一夜の夢」だそう。よく、死ぬ間際に「思い出が走馬灯のように駆け巡る」なんていうけれど、考えてみたら、僕は普段から夢のなかで全部駆け巡っているから、今生きていること自体ほとんど幻だと思う。