諦めずにずっと探し続けていきたい

『のん監督主演~夢が傷むから~MVドキュメンタリー』

――「東京百景」や、ひぐちけいさん提供の楽曲から受けたイメージがインスピレーションの元になったそうですが、そのインスピレーションを今回の「夢が傷むから(Inspired by 東京百景)」落とし込んでいったプロセスを教えてください。

これまであまりやったことがありませんでしたが、今回は絵コンテではなく、“字コンテ”を作ることから始めました。自分で歌詞を書いていることもあり、「これを盛り込もうかな」といったアイデアをまずは文章で書いていき、そこから資料を集めました。

例えば、「カップル・写真」といった感じで検索して、カップルがイチャイチャしている画像を漁っては、「かわいいな」と眺めながら、「恋人同士で花火をするのいいな」と思いついて。

優雅にダンスをしているカップルの写真を見つけたときに、「花火の前で2人が踊ったらいいんじゃない?」と思いました。私が見つけた画像は、ダンサーの2人がバリバリに踊っている画像でしたが、花火の前で青年時代の又吉さんを演じる私と、恋人役の加藤さんが踊るという場面を思い描いて、そのロマンチックさがちょっと若気の至りっぽく見えたらいいなって。

加藤さんはずっと踊られてきた方だからダンスができますが、私はめちゃくちゃダンスができない(笑)。青年時代の又吉さんが踊れもしないのに自分から提案して「キャンプファイヤーだ!」って言って、花火の前で踊って浮かれているシーンを撮りたいなと思ったんです。

アイデアを探す段階では資料集めを結構して、そこで得たアイデアをまた“字コンテ”に盛り込んで、イメージストーリーみたいな感じでつなげて「こんなイメージで」と集めた画像を歌詞に当てはめていく。そこまで作ってから最後に絵コンテを描きました。なんか今回は工程が多かったですね。

でも、それで撮ってみたらもうばっちり最高でした!ちょっと偶然の産物というか、奇跡に頼らなきゃいけない瞬間もあったんですけれど、もう全部、又吉さんと加藤さん、そしてスタッフの皆さんのおかげです。

――俳優として演じながらも、監督として自分で「カット!」と声をかけている姿が印象的でした。その“俳優スイッチ”と“監督スイッチ”の切り替えはどうしているのでしょうか?

見ていておかしいですよね(笑)。実は、カットを言うときは照れていますが、スイッチの切り替えは同時なんです。役者だけで作品に入っているときも、いろいろな段取りはありますし、冷静な部分を残しながら演じなければいけないので、その部分が監督目線になっている感覚ですね。演じながらも、「今、絶対にいいのが撮れたはずだ!」と、同時に思っているみたいな感覚です。

――俳優としてもアーティストとしてもさらに表現の幅を広げている印象です。今の時点での俳優としての夢とアーティストとしての夢をそれぞれ教えてください。

どっちも共通しているかもしれません。俳優においてもアーティストにおいても、「とどまるところ知らず」という感じで、もう生きてる限り良くなっていきたい。満足することはない、もっと良くなるはずだ、もっと自分にいいところがあるはずだ、もっとこんな表現もできるはずだって。「こんなもんだな」なんて思わずに、諦めずにずっと探し続けていきたい、上り詰めていきたいという気持ちがあります。

――のんさんが心を揺さぶられる瞬間はどんなときなのでしょうか?

私は演技をしているときもそうですが、複雑な気持ちが渦巻いているシーンがすごく好きなんです。笑っているけれど悲しそうに見えるとか、幸せなんだけれど切ないとか、楽しかったのに今思い出すと胸がチクッとするとか…そういうちょっと複雑な気持ちになるシーンが好きです。

そういうシーンを奇跡のように素晴らしく撮影できたときは心が揺さぶられます。なので、今日は揺さぶられまくって、心がいっぱいになりました!とても切ないMVになりましたので、ぜひ皆さんに見てほしいです。