“ペットは家族の一員”として定着しつつある日本。大切な存在だからこそ、「被災したらペットを見捨てて避難しよう」と考えている飼い主はほとんどいません。
令和8年熊本地震の被害が大きかった八代市・宇城市・氷川町では現在、犬だけでも約8000頭が登録されています。(猫の数は統計なし)
しかし、ペット同伴での避難が可能だった避難所は、熊本全域で5カ所程度。
実際に避難所を利用したペットは、犬猫合わせてもわずか数十頭とみられます。
2カ月前に熊本地震が発生した後、ペットとともに被災した家族は、連日40度に迫る猛暑の中、一体どのように過ごしていたのでしょうか。
ペットと飼い主が直面する、被災後の課題や避難所の現実を取材しました。
被災で愛猫が日に日に衰弱…「今度こそ絶対に助けたい」
氷川町で夫と娘、孫の4人暮らしだった上田さん(76)は、家屋が全壊する被害を受けました。
地震発生当時は、晩ご飯の支度をしようと台所に立った直後。
ぐるんぐるんと大きく回るような揺れを感じ、とっさにその場にしゃがみこんだという上田さん。気づけば冷蔵庫の扉は開き、棚が倒れ、食器や荷物が散乱していたそうです。
玄関側は崩落した2階部分に押し潰されてぺしゃんこ状態。
おそらく激しい音が響いたはずですが、上田さんは動揺していて家が崩れたことに気づかず、無音にさえ感じたそうです。
その後、壁の穴から着の身着のまま這い出た上田さん。
部屋で休んでいた夫も、たまたまできた隙間のおかげで奇跡的に助かり、仕事で不在だった娘と孫の2人も難を逃れました。
そしてもう一人の家族が、猫のひなちゃん(8歳・メス)。
おとなしい性格で、いつも布団で一緒に寝るほど懐いています。
エアコンが苦手で、暑い日には、ひんやりした床の間の板張りで涼をとるのが日課だそう。
この日もおそらく、床の間で涼んでいたであろうひなちゃんですが…
その無事は、地震後すぐに確認できました。
上田さんが壁の穴から命からがら逃げ出た直後、同じようにひなちゃんも、家の隙間から走って
飛び出してきたのです。
姿が見えたので無事なことは確認できましたが、そのままどこかへ走り去ってしまいました。
ここで、「命が助かったから良かった」で終わらないのが、ペットと被災することの難しさです。
倒壊により、ひなちゃんのお気に入りだった床の間や縁側は潰れてしまって見る影もなくなり…
8年間過ごした大切な住処を失い、ショックを受けたのでしょう。
あれだけ懐いていたひなちゃんが、地震の当日、そして翌日も、全く姿を見せなかったそうです。
キャットフードも取り出せず、猫仲間に分けてもらい、家の近くに置いて戻ってくるのを待ちました。
翌々日、フードが減っていました。
地震発生4日目になってようやく、ひなちゃんが食べている姿を目撃し、ほっと一安心できたそうですが…
警戒心が強くなっているのか、日中はがれきに隠れてほぼ姿を見せませんでした。
地震で強い恐怖を感じるのは人もペットも同じですが、犬や猫のようになわばりをもつ動物にとっては、ある日突然起きた得体のしれない異変により、家という大切ななわばりまで奪われ、パニック状態です。
飼い主は、自身が被災したショックに加えて、動揺したペットのケアもしないといけないのです。
上田さんは1日も早く、ひなちゃんと安心して住める“ペット可”の住宅を探しましたが、氷川町で適当な物件は、すぐには見つかりません。
ひなちゃんと一緒に避難所に行くことも考えましたが、そもそもペット同伴可能な避難所がどこにあるのか分かりませんでした。
またそういう避難所が見つかったとしても、鳴き声や、動物嫌いな人、アレルギー問題などで他の人に迷惑をかけることが気がかりに。
さらに、これまで家の中を自由にさせていたひなちゃんをケージに閉じ込めることも可哀そうだと思ってしまい、積極的に行きたいという気持ちにもなれなかったそうです。
とにかくご飯だけでも…と、近くの親戚の家に身を寄せ、朝夕2回、倒壊した自宅に通って食事と水を与える日々。
ところが…。
ご飯を食べているにも関わらず、ふっくらしていたひなちゃんの体は日に日に痩せていきます。
さらには目やにで顔がよごれ、毛艶も悪くなり、どんどん汚くなっていきました。
その姿を見て脳裏によぎったのが、2016年の熊本地震の時に飼っていた先代猫のみるくちゃんです。
当時は自分たちのことで精一杯だったため、みるくちゃんを半壊の家に残したまま車中泊生活を続けたそうですが…
それまで元気だったみるくちゃんが次第に衰弱していき、5カ月後に息を引き取ったそうです。
猫にも寂しさや心労があったことを感じ、当時十分に構ってあげられなかったことを、上田さんは今も悔やんでいました。
「今度こそ絶対に助けたい」
その思いで必死で情報を集め、たどり着いたのが、熊本県獣医師会が熊本県・市と連携して設置した「熊本地震ペット救護本部」です。
県内の複数の動物病院で、ペットの一時預かりや診療支援などを無償で行っていることを知り、頼ることにしました。
「お年寄りが段ボール1枚の硬い床で…」獣医師が見たペット同伴避難の現実
ひなちゃんの受け入れ先となったのは、熊本市にあるビッグベア動物病院。
院長の長尾孝之獣医師は、一時預かり支援としてこれまで6匹の犬と猫を受け入れています。
ひなんちゃんはここで1カ月間、体調を回復させながら、上田さんのお迎えを待つことになりました。
長尾獣医師は、預かり支援の傍ら、災害派遣獣医師チーム(VMAT)の一員として各避難所を回り、被災ペットの健康相談会にも参加しています。
地震発生から約1カ月後の8月30日に宇城市で開かれた相談会では、震災後にペットの食欲が落ちた、少し元気がない、熱中症が心配でそばを離れられない、などの相談が寄せられました。
上田さんのように避難所に行かず、ペットを抱えたまま一人で不安を抱えていたり、ペットのために身動きがとれないでいる被災者も多く潜在しているのです。
長尾獣医師:
病院で診療するほどではないものの、ペットのちょっとした不調を心配する飼い主は多いです。ペットを診ながらその不安な気持ちに寄り添ったり、話を聞いてあげることの必要性を感じています。
そう話す長尾獣医師には今回、忘れられない光景がありました。
