サカナクションを2009年から担当し、リリースプランの策定やタイアップの調整、広報的な部分を一手に引き受けている山上聡さんは、サカナクションの強みと魅力をどう感じているのでしょうか。気になる今後の展開についても聞きました。

サカナクションの「最大の強みは楽曲制作能力」

――山上さんが思うサカナクションの最大の強みは何ですか?

楽曲制作能力だと思います。レコーディングの場でメンバーが「ここを直したい」と言う音は、普通のスタッフには聴こえないレベルの音も多く、5人全員が非常に高い次元に立っている音楽家だと思っております。音楽に対してすさまじい真剣さで向き合っていて、常に自身の音楽レベルを向上させようと努力を積み重ねています。

そして何より、ものすごく純粋に音楽に向き合っています。私みたいに打算が先に立ちやすい人間からすると、その純粋さが本当にまぶしくて…そこが一番好きなところだし、尊敬するところですね。

サカナクションを支えるビクターエンタテインメントのA&R宣伝部長・山上聡

――サカナクションには、求道者的に音楽に向き合う部分と、音楽業界を俯瞰で見てビジネスとして考える部分の両方があるように感じます。どう両立されているのでしょうか。

そこは山口のあり方というか。「カルチャーを作っていかなければならない」「新しい音楽表現のあり方を作らないと、音楽業界も自分たちも進歩しない」という意識があるのだと思います。どちらか一方が欠けてもだめだという考えなのではないでしょうか。

――そこまでできるアーティストは稀ですか?

稀だと思います。でも、山口とも「Mrs. GREEN APPLEはすごいな」という話もよくします。ほかにもKing Gnuや藤井風さんもそうですが、それぞれのやり方で新しいことをやろうとしているアーティストがたくさんいます。個人的に「スタッフも大変だろうな」と他人事とは思えなくなりますが(笑)。

――サカナクションはライブで独自の音響システムを開発するなど、音へのこだわりにも徹底したものがあります。

音に関するこだわりは、サカナクションにとって譲れないもののひとつで、いわばデフォルトになっています。ですから、あまり特別なこととして意識しなくなっていますが、他のライブに行くと、音質や音量が気になってしまうことはありますね。サカナクションのツアーをずっと追っていると、自分の基準そのものが変わってしまっているんだなと実感します。

新しいカルチャーを広める「NF」という概念、サカナクションの今後の展開は?

サカナクションは、ビクターエンタテインメントに籍を置きながらも、山口一郎さんが主宰する「NF」という音楽・ファッション・テクノロジー・アートを融合させたプロジェクトを展開。ビクター内に自主レーベル「NF Records」、公式ファンサイト「NF member」を設立した経緯とは…?

――「NF」の概念についてはどう受け止めていますか?

『新宝島』(2015年)を出す前後のことでしたが、あの時期はサカナクション自体が暗中模索の状態で、バンドを今度どのような形で続けていくのかをメンバーもスタッフも悩んでいた時期でした。そんな中で、山口がファッションやアートなど他のカルチャーとも融合した「新しい音楽表現の在り方」を模索していくことを主眼として立ち上げました。

「NF」を続けていくためにポップミュージックを出していく、という文脈につながっていったのを見て、「めちゃくちゃかっこいいな」と感じました。山口自身が「NF」があることで新曲を作る意義を見出すことができたので、私としては大賛成でした。

――サカナクションとして、今後どのような展開を考えていますか?

実は今、めちゃくちゃ楽曲を作っています。新しい作品のリリースは現状では(2027年の)年明け以降になるのかなと。『夜の踊り子』が若いリスナーにとっては初めて出会う新曲のような体験になり、新曲1曲分の広がりを作ってくれた間に次の曲をしっかり仕込んで、また新しい音楽体験をリスナーに届けたいというのが、チームとして向かっている今の方向性です。

いい曲を作り、いいパフォーマンスをして、しっかりと思いを届ける。サカナクションがずっとやってきたことを、これからも愚直に続けることが、最終的には一番強いと信じています。

――最後に、山上さんが1番好きな、思い入れのあるサカナクションの曲を教えてください。

(しばし熟考)うーん…やっぱり『怪獣』でしょうか。制作の時期は本当に大変で、「もう復活できないんじゃないか」と思っていました。山口の鬱病もありましたし、その時期はいろいろなことが重なって、「本当に終わってしまうのかもしれない」という感覚があったんです。だから、曲が完成するのかどうかも正直わからなかった。

それが形になって、バンドがちゃんと認知されて、メンバーの才能がしっかり認められたのを実感したとき…宣伝屋としての喜びは、もうこれに尽きると思いました。そういう意味でも、いま一番好きな曲を挙げるとしたら『怪獣』です!