グラミー賞受賞アーティストであり、ジャズ界至高のピアニストと名高い、ブラッド・メルドーさんのインタビューが到着しました。

メルドーさんは、2月3日(金)の東京オペラシティ コンサートホールを皮切りに、来日ツアーを敢行。4年ぶりの来日に先駆けて実現したメールインタビューで、今回の公演に向けての意気込みを語りました。

日本に訪れたときの記憶は、どれも魔法のよう

<ブラッド・メルドー インタビュー>

――2019年の来日公演におけるトリオとソロによるショウは、日本のファンにはいまだ瑞々しい記憶として残っています。あの時のことで印象に残っていることはありますか?

日本に訪れたときの記憶は、どれも魔法のようです。私の出身地(アメリカ合衆国・フロリダ州)とはまったく異なる場所ですが、同時に観客との強い結びつきがあり、ある意味、故郷のように感じています。

――来日時、公演以外のオフの時間で楽しみにしていることはありますか?

東京と大阪に来るたびに、携帯電話のマップも持たずに、どこに行くのか決めずにホテルを出ます。そして、新しい街を発見するのです。

私はいつも街のリズムを感じ、香りを感じ、そして人々の生活の営みを見つめ、その中に美しさや不思議さを見いだす「人間観察」をすることが好きです。

――翌年(2020年)、世界はコロナ禍のパンデミックに入りましたが、ツアーはともかく、あなたは悠々と活動を継続していたように思います。アルバム・リリースは、「Suite: April 2020」、「Jacob’s Ladder」、ジョシュア・レッドマンとのカルテット、オルフェウス室内管弦楽団との「Variations On A Melancholy Theme」など活発でした。近く、ソロによるザ・ビートルズ曲集も出ますね。

そうですね、活動を続けることができ、とても感謝しています。

――現在トリオで、そして少し後にはクリスチャン・マクブライドらとのクインテットで米国を回ります。今、ツアーはどんな感じで進んでいますか?

素晴らしいです。クリスチャンと演奏するのは、空高く舞い上がる魔法のじゅうたんに乗っているようです。彼は最高です。

――先に触れましたが、あなたはザ・ビートルズ曲集を出します。ライブでもよくザ・ビートルズの曲を演奏しますが、なぜ今回「Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles」を出そうと思ったのでしょうか?

私がアレンジしたコンサートのプログラムから生まれた機会でした。パリで行われた様々なアーティストによるコンサート・シリーズのひとつで、ビートルズの全リストを紹介するものでした。

ビートルズの全曲の中から、ストーリーを見出し 1時間のレコードの中におさめるという、楽しいチャレンジでした。

――今回の日本公演では東京と大阪でソロ・ピアノによる公演を行います。やはり会場によって流れは変わるんでしょうね。たとえば「Suite: April 2020」や「Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles」らの内容とも違ったものになるのでしょうか?

はい。ビートルズの曲や、「Suite: April 2020」から何曲か入れる予定です。また、私のオリジナル曲や、自分なりに曲を解釈した演奏など、さまざまな曲を演奏予定です。

――また、東京では2日間の予定で、東京フィルハーモニー交響楽団と公演を行います。今、どのような青写真を描いていますか?

私が書いたピアノ協奏曲を演奏します。3楽章構成です。また、東京フィルハーモニー交響楽団と一緒に演奏します。オーケストラと一緒に演奏できることをとても楽しみにしています。指揮は、私がよく一緒に仕事をしている素晴らしい指揮者、クラーク・ランデルです。

――これまでもオーケストラとの公演は行っていると思いますが、大掛かりなぶん苦労する部分もあるかと思います。オーケストラと一緒に演奏する醍醐味はどんなところにあるのでしょうか?

大変ですが、多くのミュージシャンの中に入って、大きな音のパレットを体感できるのは素晴らしいことです。

――指揮者として同行するクラーク・ランデルはとても音楽把握力が高く、視野の広い指揮者であると言われています。彼と演奏をともにする期待を教えてください。

クラークは驚くほど多才です。最近ではウェイン・ショーターのオペラの初演を指揮し、ジャズのリズムに優れた感覚を持っています。また、クラシック界でも同様に優れている指揮者です。

――オーケストラ用の譜面は誰が書いたものになるのでしょうか?

私が書きました。

――日本公演の後は少しブレイクを置いて、スペインをはじめ欧州を回りますね。ツアー/ライヴでこうありたいと、心がけていることはありますか?

家にいるときは、なるべく家族と一緒にいるようにしています。音楽と家庭のバランスをとることが大切だと思っています。

――好奇心旺盛に様々なことに挑戦する姿に驚いています。この後の欧州ツアーでは英国人オペラ歌手と公演をともにします。そんな多彩なあなたのことをジャズ・ミュージシャンと呼ぶのは適切なのでしょうか? クラシックからロックまでしなやかに向き合う表現/活動については別な形容があってもいいのではと思っています。

いい質問ですね。私は今でも自身のことをジャズ・ミュージシャンだと思っています。なぜなら、私にとってジャズは、ほかのすべての分野の中で「ホーム」だからです。でも、例えば、イアン・ボストリッジとのプログラムはジャズではないので、あなたがおっしゃるように聴きに来た人を混乱させることがあるかもしれませんね。

――最後に、今度の日本公演についての抱負を語っていただけますか?

できるだけ良い演奏をすること、そして観客とつながることです。

インタビュー:佐藤英輔

<ブラッド・メルドー プロフィール>
1970 年、フロリダ州生まれ。NY のザ・ニュー・スクール大学を経て、1995 年にワーナー・ブラザースからデビュー。すぐにジャズ界の寵児として認められ、日本でのソロ・ピアノ公演をまとめた 2004 年作「ライヴ・イン・トーキョー」以降はクラシックからロックまでをアーティスティックに扱うノンサッチに在籍している。そして、自在の指さばきを“魔法の絨毯”とするかのように、黄金のジャズ衝動を
介して多様な活動を展開している。

詳細は来日公演公式HPまで:https://brad-mehldau-japan.srptokyo.com/