これまでの楽曲制作とは、全く異なる手法で作られたという『GRAY』。「集中力が必要だった」というレコーディングの裏側は、どんなものだったのでしょうか?

沢口靖子も絶賛の歌声!「息混じりの声と、細い声は違うということを伝えたい」 

――『GRAY』は、これまでの作風とも違う部分が多いと思いますが、新しい自分を感じたところはありますか?

これまでは、すごく“個人的な楽曲”を作っていて、社会に向けたメッセージを曲にする時には、「なんだこの世界は!」という怒りの気持ちが土台になっていました。でも今回は、気持ちの押し付けではなく、自分の解釈や不安に対して「どうやって見方を変えるか、どう向き合うべきか」ということを、自分の中でより繊細に考えるようになりました。それは、感情を誇張するような楽曲制作とは全く異なる手法だったので、「初めてこういう曲を作ったな」という新しい発見がありました。

十明

――曲作りで行き詰まることはありますか?

行き詰まった時は、日々感じていることを書いたメモを見返してみたり、人に話すことで考えがまとまることもあるので、スタッフさんたちと話す時間を設けてもらったり。今回の『GRAY』は特に、耳を傾けてくれる人たちに少し頼りながら作りました。

――曲が完成し、レコーディングは順調でしたか?

レコーディングでは、「声をどう出すか」というところに苦労しました。語りかけるように始まり、サビでは叫ぶように歌う対比や、声の使い方に難しさがありました。精神力を使うというか、集中力が必要だったなと思います。

普段と比べてテイク数がすごく多かったわけではありませんが、1オクターブ上、1オクターブ下と、ハモリも含めて声を重ねて厚みを出すため、総合的に歌っている時間が長いこともあり、気持ちをピンと張った糸のような状態のまま保つのが少し大変でした。

――透き通るような声に合わせた繊細なブレス音(息継ぎの音)も十明さんの魅力です。『GRAY』でも生かされていますか?

十明

この曲は力強さと繊細さのバランスを重視しています。息の音が入る歌声だと“か弱く”聞こえてしまうというか。息混じりの声と細い声とは違うということをちゃんと伝えたくて、言葉をはっきり発音するようにして、強い芯のある歌声を届けられたらなと思って頑張りました。

――主演の沢口靖子さんも「なんて透明感のある美しい声なんだ」と絶賛しています。

元々、自分の声はそんなに好きではなかったのですが、「届く人がいる」と実感できたからこそ、「ちゃんと届けよう」と思うようになりました。沢口さんからそう言っていただけると安心もしますし、しっかりこの声で歌を届けていこうという気持ちになれます。

十明

【十明 プロフィール】
2003年生まれのシンガーソングライター。
中学時代はブラスバンドにてオーボエを担当。高校生になり軽音楽部に入部。念願だったバンドを結成したものの、1年も経たずに解散。仕方なく一人で弾き語りを始める。自室のクローゼットで撮影した弾き語り動画をTikTokに公開し始める。2022年春、映画『すずめの戸締まり』ボーカルオーディションに参加。野田洋次郎と新海誠監督を魅了し、その歌声は世界中に響くことに。2023年7月、配信シングル『灰かぶり』(作詞作曲を自身で手がけ、プロデュースは野田洋次郎)にてメジャーデビュー。2024年、Spotifyが躍進を期待する次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2024」に選出され注目の国内新進アーティストとして注目を集める。10月15日には配信EP『1R+1』をリリース。11月には東名阪クアトロワンマンツアーも決定している。