岸井ゆきのさんが、自身の「等身大」について語りました。

2022年度に入ってから7月までの3ヵ月間で、連続ドラマ2本に出演し、3本の映画が公開。ベルリン映画祭に正式出品された主演作「ケイコ 目を澄ませて」を含む2本の映画が公開待機中と、今、最も注目される俳優の一人である岸井さん。

彼女にとって初となるフォト・エッセイ「余白」が、7月15日にNHK出版より発売となりました。

<岸井ゆきの 初のフォトエッセイを発売「本を出すなんて考えもしない未来でした」>

幼い頃の思い出に大好きな映画の話、撮影現場で感じたことなど、30歳の岸井さんの「等身大」がぎっしり詰まった書籍の発売を機に、今の率直な気持ちを聞きました。

【写真11枚】岸井ゆきのフォトギャラリー

上手く言えないですけど、「私は私でいいや」という気持ちが強い

<岸井ゆきの インタビュー>

――「余白」の冒頭に「自分自身のことを、聞かれるのも語るのも、苦手なほうだ。」という記述がありましたが、こうして自分の言葉が1冊の書籍になったのを見て、いかがですか?

(完成した書籍を手に取りながら)実は、今、初めて触ったんです。もちろん、ゲラ(※原稿をデザインに組み込んだ状態の校正用紙)では何度も読んでいたのですが、こうして本の形になってみると…このパラパラページをめくる手触りが「私の好きな本」の感じになっていますね。

ハードカバーがあまり好みじゃないので、表紙の紙の柔らかさもちょうどいいです。

――改めて自分の思いを言葉にする中で、発見はありましたか?

頭の中にあるものを言葉に置き換える過程で、自分はこんなことを考えていたんだ、ということを再確認することができました。

もともと、考えていることをあまり人に言わないタイプなのですが、編集の方と話している中で、「岸井さんのこういうところが面白いですよ」と教えていただけたのが、すごく新鮮で。「こんな部分を面白がっていただけるんだ!」と、私自身が驚いたことが詰まった本になったと思います。

――なかでも、岸井さんの映画愛を強く感じましたが、俳優として映画に「出る」立場になったことで、映画を「観る」行為に変化はありましたか?

本にも書きましたが、映画との出会いはクリストファー・ノーラン監督の「バットマン」。子供のころから映画「ドラえもん」シリーズが大好きだったので、同じSFというのは少し乱暴かもしれませんが、「バットマン」の世界には入りやすかったのかもしれません。

映画の楽しみ方はたくさんありますけれど、「今、私が生きている世界とは違う世界を見せてくれる」という部分に強く惹かれたのだと思います。

その後もしばらくは、リドリー・スコット監督の「アンストッパブル」のようなスケール感のある作品を好んで観ていたのですが、次第に、監督ごとに作風が違うことなどもわかってきて。

“生活の延長”を描いていくような映画にも、素晴らしい作品があることも知りました。それでも、「自分の世界とは違う世界を見る」という映画の楽しみ方は、大きくは変わっていません。

撮り方が不思議で、気になるカットは観た後も頭にこびりついて離れなくなることはありますが、作品を観ているときは「どうやって撮ったんだろう?」みたいなことは考えません。

カメラワークなどが気になってしまうのは、自分が映画に没入できていないときの方が多いですね。

大事なことは失った後に気付くものだから、今を大事に暮らしていきたい

――「余白」の中に「ふつうを守りたい」という言葉がありましたが、お仕事をしている中で「ふつう」でいる難しさを感じることはありますか?

うーん…難しさは感じていないです。幼稚園から高校まで、山に囲まれた街で過ごしたのですが、学生生活が本当に「ふつう」だったんですよね。スカウトされたのは高校時代ですが、卒業するまで「仕事をしてお金をもらう」という経験がありませんでした。

小さい頃から大人に囲まれて仕事をするという経験もなく、「ふつう」の土台をしっかり作ってから芸能界に入ったから、“キラキラした芸能界”を歩もうとしても、そもそもできないですし、仮に歩めたとしても、きっと無理をしている感じになってしまうでしょうね。

上手く言えないですけど、「私は私でいいや」という気持ちが強いんだと思います。

――「私」が「私」でいるために、心がけていることはありますか?

10代のころから、「友だちが多いこと=幸せ」ではないと気付いていたといいますか、仕事も生活もあれもこれも、というのができないタイプなので、比較的、人間関係がシンプルなんです。

だからこそ、自分を見失わないということが自然とできているのだろうと思いますし、自分にとって本当に大切な部分を見失わないようにしたいと心がけています。

インタビューなどで、「仕事のモチベーションが下がったらどうしますか?」と聞かれることもありますが、そもそもモチベーションが下がったことがないんです。

「物語を生きる時間」が終わったら、生活に戻る。オン/オフが結構はっきりしている方なので、大事なことは大事だと気付くことができているのではないかと。

大事なことは失った後に気付くものだと思いますし、だからこそ、何かを失う前の「今」を大事にしたい。その思いが、ずっと続いている感じですね。

――30歳になったから「変わりたい!」とかもないですか?

ないですね。あまり区切りみたいなことは考えていないんで。でもきっと、後から振り返ったら、この本を出したことが区切りになるのだろうと思います。

――では、この先10年、40歳までにやりたいことは?

まずは早く海外に行きたいです。お休みに一人で旅行をすることで、ストレスを発散して自分を保っていた部分もあります。コロナで3年も海外に行けていないので、(手で胸の当たりを示しながら)蓄積物が大きい(笑)。

今行きたいのは、マレーシアですね。現地に農場を持っている友だちがいて、農場にある小屋に滞在することができるんです。以前、遊びに行ったときには、かぼちゃやナスを収穫させてもらったのですが、コロナが落ち着いたらまずはそこで畑仕事をして、土を踏みしめたいです。

――最後に、お仕事の面での目標も聞かせてください。

自分のペースで、面白いもの、面白いと思える作品を、しっかり作っていきたい。その成果として、映画祭に行けたら最高ですね。海外の映画祭は、国によって(観客やメディアの)感想が違っていて面白いので、そういう経験をもっとしていきたいです。

今回、私は現地に行けませんでしたが、(岸井さんの主演映画)「ケイコ 目を澄ませて」はベルリン映画祭に行くことができました。

だから次は、三大国際映画祭のベネチアとカンヌを目指したい。そういうところに連れて行ってくれる作品に、出会えたらいいなと思っています。

撮影:今井裕治
取材・文:須藤美紀
スタイリング:Babymix ヘア&メイク:花村枝美